勇者の最後
異世界もの書くの初めてなので、至らぬ箇所ばかりだと思いますが、よろしくお願いします
「勇者よ、君は私に似ているな」
瘴気が蔓延している大部屋で、息を絶え絶えにしながら目の前の魔王がそう言う。
「…ああ、おそらく世界で一番俺たちは似ているだろうな」
俺は魔王にそう返す。
「多分、こんな出会い方じゃなくて、こんな世界でもなければ、俺たちは親友だっただろうよ」
パーティの仲間を見た後にそうつなげる。
今から友情を育むにはすでに、命がなくなりすぎている。
つまりパーティの仲間の命は、もうない。
「男と女の間に友情は存在しないらしいぞ?」
「俺は存在すると思ってるからいいんだよ」
世間一般で言うラスボス戦。
世界を救うため、そう言われ魔族と呼ばれる相手を倒し、魔族の王…つまり、魔王との最終決戦までやってきた。
仲間はみんな死に、この場所で生きているのは俺と魔王だけだ。
「ふふっ…。そうか。私もそう思うよ。ただ、私の仲間たちは否定派だったけれどな」
そんな他愛のない話をしながら、も戦いは終わりに近づいていた。
…いや、正確には戦いは既に終わっているのだ。
魔王の腹部には聖剣が刺さっており、そこから赤い血が止まることなく流れている。
「…なあ、俺は正しいことをしてきたのか?」
仲間が死んだ、いくつかの村を救うには間に合わなかった。
極悪非道、心などない、そう教えられてきた魔人とは今こうして会話をしている。
特に、魔族の中でも魔人と呼ばれるものと人との違いは角があるかどうか程度でしかなかった。
「正しかったんじゃないか?」
なんてこともないようにそう返答する魔王。
「私たちが滅べばさらに人は発展していくだろう。それは人全体にとって正しいことなんじゃないか」
続けて魔王はそう言う。
確かに、人が使える土地が広がり、人口はさらに増え、発展していくのだろう。
「魔人はだって人とほとんど変わらないじゃないか」
文化があり、言葉も通じ、食べるものだって何一つ変わらない。
角があるかどうか、魔物との意思疎通ができるか、魔術適正が高いか、その程度の違いだ。
「いまさらそんなこと言ったってどうしようもないだろう。君は正しいことをした、それでいいじゃないか」
魔王のくせに勇者に気を遣っているように思えた。
「…ふむ、どうやらあと少しでお別れのようだ」
自分の傷からでる血を見て、軽く手を握ったり開いたりしてそう言う魔王。
「何か、聞きたいことはあるか?」
魔王の問いかけに、俺も最後に気になっていたことを聞くことにする。
「名前を教えてくれ」
俺がそう聞くと少し目を見開いた後、魔王は笑って答える。
「最後の質問がそれか。君は変わった勇者だな。…シルク・ネイタスだよ。君は?」
「グレイだ」
「家名は?」
「ない」
貴族でも何でもない、ただの田舎者の勇者に家名などなかった。
魔王討伐後に名誉貴族となり、家名が与えられるとか聞いたような気もするが、今となってはどうでもよかった。
俺のその返答を聞いた魔王は少し間を開けた後言った。
「ならば私と結婚してネイタスを名乗りたまえ」
そしてそんなことを言い出す。
「結婚する?何言ってんだお前」
「今日から君はグレイ・ネイタスだ。ふふっ…最後にいい思いができたよ」
魔王はそう笑う。
「おい、こっちは認めていないぞ、結婚なんか」
「…」
俺の言葉に魔王が返事することはなかった。
「言いたいことだけ言った死にやがった…」
自分の聖剣で殺した相手だが、言いたいことだけ言って死ぬのはどうかと思う。
「グレイ・ネイタスね…」
子供のころ憧れていた家名、それをこんなわけのわからない形で手に入れることになるとは思いもしていなかった。
今はどうでもよくなったとはいえ、どうせ家名を手に入れるならもっとちゃんと手に入れたかったような気もする。
ふと、思考を止めると静寂が部屋を支配していた。
先ほどまであった瘴気も殆どと言っていいほどなくなっている。
吹き抜けの天井からは暗黒の雲が消え去り、明るい陽射しが差し込んでくる。
勝利を祝福するように。
そして、仲間も敵も何もいない、俺がただ一人だけ、というのを強調するようにあたりを照らす。
「…結婚するんだったらくたばってんじゃねえよ」
そう一人呟く。
そう言って幸せそうな顔をして目を閉じている魔王…シルクの方を見ると一冊の本が眼に入る。
戦闘の最中に開くこともあったことから、おそらく魔導書だろう。
どんな魔法があるのか気になり、それを拾い上げページを捲る。
そこには見たことのない魔法もいくつかあり、いつの間にか夢中になって魔導書を読んでいた。
「…」
そして一つのページに辿り着く。
曰く、その魔法を使えば人生をやり直せるらしい。
曰く、その魔法を使えば、今までと異なる世界を見ることができるらしい。
「…面白いな」
数年ともに旅をしてきた仲間を失い、自分がしてきたことのが正しかったのかすら分からなくなった今では、この魔法はピッタリだった。
無論、代償がないわけではないのだろう。
成功する保証すらない。
だが、失敗したらそのときはそのときだ。
魔王討伐の依頼は達成した。
もはや自分に役目などないのだ。
「ーーーー」
魔王との戦いでほぼなくなっていた魔力が空になる。
足りない魔力を補うために生命力が削られているのを感じる。
眩い光を放ったあと、そこには勇者…グレイの姿はなかった。
勇者グレイは神の使いだったのであろうか、悪魔の使いだったのであろうか。
魔王討伐に向かってから数週間経っても戻ってこなかった勇者グレイを捜索するために魔王城に捜索隊が派遣された。
そこにはグレイとともに旅をしていた仲間たちが息絶えていた。
魔王城の状態から激しい戦いだったことが推測される。
瘴気がその場にはなかったことから、魔族は根絶やしにされていたらしい。
だが、肝心の勇者グレイの姿と、魔王の姿はどこを探してもなかった。
ここで、グレイは役目を果たして天へ帰り、魔王は骨も残さず消滅させた、という神の使い説と、グレイは魔王と地の果てへ行き、次の侵攻に備えているという悪魔の使い説の二つがある。
未だに魔族は出てきていないことから神の使い説が主流となっている。
はたして、この先ずっと魔族はいないままなのであろうか。
それとも、いつの日かグレイは魔族を率いて再び現れるのだろうか。
私個人としては神の使い説が正しいと願うばかりだ。
『勇者グレイの軌跡』のあとがきより抜粋
大学受験終わったらほぼ毎日更新します
それまでは3~5日に1回ペースだと思います