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第4章  7月(1)

いよいよ、ここらあたりから、小春と桐生や生徒会長たちとのカラミが始まります~

 テストが終わった開放感と学園祭に向けての準備で、星杜学園では日一日と熱気が増している。

(こんな熱い雰囲気を味わえるのは、学生だけの青春特権さ!)

 私も、毎日がワクワクで鼻血が出そうである。

 ……といいたいところなんだけど、実はそうでもない毎日を過ごしているところが哀しい。

 なんと私は、放課後の生徒会室で、地球のエネルギー、《地の気》とやらを、自身で取り込めるようになるべく指導を受ける日々なのだ。それも桐生から。

 何が哀しくて、私は、よりにもよって桐生から指導を受けなければならないのか。

 いや、早水坂から受けるよりはマシかもしれない。それでも、桐生というだけで鼻血が出そうである。


「波原、おまえ、やる気あるのか」

「波原、おまえ、集中力がなさすぎだ」

「波原、おまえ、勘悪すぎないか?」

「波原、おまえ、……」

「波原、おまえ、……」


 目の前にちゃぶ台があったら、私は間違いなくひっくり返しているぞ、桐生!


 そして今日も生徒会室で、私は桐生と向き合っている。

 しかし、うすうす感じてはいたものの、桐生も《地の気》を取り込む力を持っていると知らされた時には、さすがに私も驚いた。

 私と違うところは、桐生はその力をコントロールできるということと、私が取り込む《地の気》が陽のパワーに対して、桐生の取り込む《地の気》は陰のパワーというところらしい。先日の石事件?の時には、あえて力を封印していたそうで、封印しなければ規模は小さいながらも、似たような変化が石に現れたとも言っていた。

 桐生は、陽のパワーと陰のパワーは『相反するものにして、一つのもの』と言うが、私にはいまいちピンと来ない。しかし、私と桐生が『相反するもの』というところだけは賛同したいと思う。


 指導の言葉が次々と飛んでくる。

「波原、もっと足元の方にお前の気持ちを注ぐんだ。地球という大地のこれまでの膨大な歴史を思い返して、強い感謝の念をこめろ」

「……」

「気が散っているぞ!一向に《地の気》が上がってこない!」

「……はぁ」

(そんな簡単に出来るんなら、苦労しないんですけど)

 凹みまくり。

 

 と、そこへ桐生。

「波原、休憩をはさむか」

 私を気遣ってくれたものか、目の前には差し出されたグレープフルーツジュース。気の利くことではある。 ゴクゴクと喉を流れていくジュースのおいしいこと!

「波原」

「ん?」

「俺が、お前の中学に転校する時の話なんだが」

「あー、そういえば、詳しく聞いたことは無かったよね」

「お前の中学に転校する前の年のことだが、星杜学園に入学してからの俺は、どこか遠く離れた場所の事であっても、誰かが《地の気》を取り込もうとする瞬間をタイムリーに感じられるようになった。わりとあちこちに、俺たちのような人間が存在するらしいな」

「そうなんだ?」

「俺は、もともと不思議な力を感じることはあったんだが、この学園に来たことによって、俺の中に潜むその力が完全に目覚めたんだろう。最も、星杜自体が《地の気》が集まる場所に建てられた、そういう特別な学園という意味でもあるがな」

 学園内に流れている大いなる力。それが《地の気》ということか。


「お前が大地の力を取り込む時には、それが自分の意志じゃなかったにしろ、尋常じゃないくらいの大きなひずみが気脈に現れた。それは、他の人間が取り込む時に発生するものとは比べ物にならないくらいデカイ規模でだ。俺はずっと、そいつが特別な存在である事を感じ続けていた」

「それで?」

「詳しい説明は割愛させて貰うが、俺はある日、早水坂から学園の秘密を聞かされることとなった。そして学園を守るためには、どうしてもその力の持ち主からの助けが必要だというのが、俺たち二人の出した結論だった」

「学園の秘密って?」

「すまない。今はまだおまえに教えるわけにはいかない。お前が力をコントロールできるようになるまでは、聞く資格がないものと心得てくれ」

(そうですか、私はどうせ劣等生ですからね)

「だから俺は、その力を持つ人間のいる中学校へ転校して、まずはそいつを探すことにした。おまえだと分かるまでに、それほど時間はかからなかったがな」

「あのですね。ここでひとつ、質問してもよろしいでしょうか」

「どうして高校生が、中学校に入れたのか、だろう?」

「まぁ、そうだけど」

「そんなの、転入学通知書や在学証明書などの書類が揃えば、いくらでも受け入れて貰える。実際に俺は受け入れられたしな」

「え? もしかして、それって、それって」

「波原、それ以上は言うな」

(それって、公文書偽造っていうんじゃないんですか!?)

 

 とにかく、桐生は私のクラスに転入してきた。桐生の話しを聞いていると、いろいろな事を通して私は資質を試されていたような気もする。私に敵対するようでありながらも、最後まで見守っていたような矛盾感は、こういうところからきていたのだろうか。

「そういうわけで」

「そういうわけで?」

「おまえには、一日も早く力をコントロールできるようになって、星杜学園を守ってもらわなければならない」


(――いっ!??)

(私が星杜を守るって、今、桐生は言わなかったか!?)

「いや、ちょっとまって、桐生!」

「なんだ?」

「桐生には大変申し訳ないんだけど、私にはそんな力はないと思う……ような……」

 桐生の眉毛がピクリと動いた。

「ふざけるなっ!!」

「ひっ!」

 大声で怒鳴られた私は、縮みあがる。

「この俺があると言ってるんだから、絶対にお前にはその力があるんだ! 余計なことを考えるヒマがあるんなら、さっさと修行に戻れ」

(やっぱりこれは、指導と言う名の修行だったんですね)

 束の間の休憩タイムが終わり、また桐生にののしられる時間が始まった。


☆☆☆

 生徒会室で厳しく辛い修行を積んでいる間、私は横目で、友哉と麻莉子の二人がクラスの出し物と華道部の発表の準備に追われ、忙しくも楽しそうにしている姿を毎日見ることになる。

(羨ましい……)

 本来ならば、私はあの二人と一緒に楽しく学園祭の準備に追われていてもおかしくなかったはずだ。なのに、なんで私だけがこんな目に合わねばならないのか。

 学食1年間フリーパス券に目が眩んでしまった、あの日の自分を呪ってみても、もう遅い。


 携帯にメールが届く。

 相手は桐生だった。

『申し訳ないが、急に都合が悪くなったので、本日は生徒会室に来る必要なし』

 桐生らしい事務的なメールではある。

(ってことは、今日の放課後は自由!?)

 テンションが急激に上がってくる。

(桐生も用があるんならあるって、もっと早く言ってくれれば良いのに)

 いきなりポッカリと時間が空いてしまい、とりあえず私は華道部の二人の様子を見に行くことに決めた。ついでに、バレないようであれば3階にある占研の教室も覗くのもいいかもしれない。

(話をしたい時には、大福を掲示板に貼るように言われたけど、こっそり覗くんだったら問題ないよね)

 自分に言い訳をする。

 部室棟まで行き、1階廊下を進んで奥の階段を上がる。

 華道部の教室に行くのなら、手前側の階段の方が距離的には近いんだけど、先に占研を覗きに行こうと思った私は、なるべく人目につかないように迷わず奥の階段を選ぶ。階段の折り返しを過ぎて2階、それから3階へ上がろうとして、階段の上から男女二人の言い争う声が聞こえてきたので、いったん足を止めた。


「……んだよ」

 これは男子生徒の声。聞いたことあるような。

「でも、言われた通りにやったのに」

 こっちは女生徒。すでに涙声、こっちもどこかで聞いたことがあるような。

「だからそれはちゃんとお礼はしたろ。これ以上、どうすればいいんだよ」

「だって、あれから全然会ってくれないじゃない」

(おっ、これは痴話ゲンカかも)

 偶然聞こえたのはしょうがないにしても、私は他人のケンカを盗み聞きするような人間ではない。

 その場から立ち去ろうとして、タイミング良くというか悪くというか、わーっと泣き叫びながら女生徒の降りてきたので、私はあわてて2階の廊下に隠れる。

 隠れる必要はなかったのかもしれないけれど、カレシとケンカして泣いている女性とすれ違うなんてことは、私には出来ない。私自身も、そんな場面を他人には見られたくないと思うし。まぁカレシはいないけど。


 だから、その女生徒の顔が見えたのも本当に偶然だった。波原小春の名誉にかけて言うけれど、その女生徒の顔を見ようだなんて、これっぽっちも思っていなかった。

(鈴木……さん!?)

 なんとその女子生徒は、寮祭で私と1.2位を争い続けた、あの鈴木さんだった。

 彼女の忠告に従い、あれからは口をきく機会もなかったけれど、いろんな意味で忘れることのできない人物。


 ここでもう一つ、波原小春の名誉にかけて言うけれども、私が、鈴木さんの付き合っている相手に持った興味は、ほんのちょっとだけだ。相手が分からなくても全然構わなかったというのに、話していた声を聞いて、記憶の中の、ある人物と一致してしまった。

(相手は、小林先輩……だったのか)

 でも、誰と誰が付き合ったところで、私には関係ないし問題もない。人の気配がしなくなったのを確かめて、私は2階の華道部に行き先を変更した。

(占研には、やっぱり大福を貼り出してからじゃなきゃダメかな)

 私が華道部の教室をそっと覗いた時、ちょうど麻莉子と友哉の二人が、一つの花器に向かって花を活けながら、なにやら意見を交換しているところだった。楽しそうにきゃっきゃと活動している思っていた私は、二人の予想外に真剣な表情に驚く。

 そんな二人の表情を始めて見た私は、なんとなく自分一人がおいてきぼりをくったみたいで、一抹の寂しさ

を感じてしまう。

 華道部に二人をひやかすつもりで来たが……華道部も改めて出直すことにした。


☆☆☆

 相も変わらず私の放課後は、生徒会室での修行でつぶれている。でもそのかいあってか多少なりとも、自分で力を操る術を会得しつつあるこの頃ではある。


 そして今日は、その力を早水坂と藍原さんに披露する日になっているらしい。

 運転免許で例えるならば、仮免試験といったところか。

 すでに生徒会室には4人が揃っている。私にとっては、この結果が吉と出ようが凶と出ようが痛くも痒くもないんだけど、こんなに緊張している理由を知りたい。

(ほんと、この二人の威圧感ったら)

「どうなんだ、誠也。小春くんの感じは?」

「俺の予定の6割くらいの仕上がりかな。もう少し時間はかかると思うが、最初に比べれば雲泥の差だ」

「そうか。俺に力があれば俺が手がけるところなんだが、誠也、悪いな」

「いや。やれる事は全力を尽くすさ」

(熱い友情って感じですか)

「波原さん、桐生くんの指導は厳しかったでしょう。理由もきちんとわからないままに、大変な事に巻き込まれたんですもの、思うところもいろいろとあったと推察します。本当にご苦労さま、そしてありがとう」

 藍原さんは、なんとなく私の気持ちを察してくれているのかもしれない。やはり女の気持ちは女の方が理解しやすいということか。


 桐生が話を始める。

「波原は、今、自分の意志で、《地の気》と自分の気を共鳴させることが出来るという段階にある」

「共鳴させられるところまできているんなら、小春くんはなかなか優秀じゃないか」

「気休めなんか言わなくていい。この段階のままでは何の役にも立たないことぐらい、お前も分かっているだろう?」

「まぁ、なぁ」

(何の役にも立たないんですか!)

「《地の気》を思いのままに立ち上がらせ、自分の内部に取り込んで己の気と共鳴させる。共鳴度合いによってはパワーを際限なく増幅させることが可能であるものの、その力を自分の望む形に具現化して発動させる事ができなければ何の意味もない」

「えっ?そうなの?」

 桐生の言葉を聞いていて、思わず言葉が漏れる。

「なんだ、今さら。最初に説明した事だろうが」

(そうだっけか)

「相変わらず、何も聞いちゃいないんだな」

「スミマセン」

「まぁいい」

 そこへ、藍原さんだ。

「桐生くん。そろそろ私たちに、波原さんの力を見せて貰えないかしら」

 

 私は大きく息を吸って、丹田に気を集中させ始める。

 丹田とはへそ下3寸のところにある、心身一如の境地に至るためのポイントである。ちなみに3寸は約9㎝のことで、心身一如の意味はよく分からない。


「もとよりそのつもりなんだが、最初に断っておきたいんだが、この力は波原本人の精神面が大いに影響してくるので、状況によっては、うまくいかない事もある。今日はお二人さんが見ているせいで、ずいぶんと緊張もしているようだからな」

「わかった」


 私はゆっくりと目を閉じる。

 やがて3人の話す声も立てる音も一切聞こえなくなり無音の世界に入っていく。私は自分の内側へと深く深く感覚を凝縮させていき、それから、やがて下へ下へと。

 頭から肩へ、腰を伝って足へ。腿、ひざ、ふくらはぎ……。

 足の裏を通り過ぎて、次は地球の中心を目指して暗い闇の中を下へ下へと、落ちて行くように。


(……まだか。まだ下か)


 深く深く、下へ下へ。


(あれだ!)


 求めるものが毎回違おうとも、私には必ずそれと分かる。

 ゆっくりとそれに溶け込んでいくと、私は意識を一気に覚醒モードに切り替えた。


(今だ!)


 今度は逆に。

 それに溶け込んだまま、私は上を目指して昇っていく。

 上へ上へ、明るい場所へ、もっと明るい場所へ。 

 やがて自分の内側に感覚が戻ると、足元から私とそれは一緒に立ち上る。足から腰、肩から頭へ。

 私の頭で行き場を失くしたそれは、続いて私との完全なる融合を始め、どんどんと膨張していく。

 膨らむ、膨らんでいく。身体が熱くて破裂しそうになる。


(早く逃がさないきゃ)


「波原っ!!!」

 そこで桐生に名前を呼ばれ、私は閉じていた目を開ける。

 目を開けた私から、分離された何かがストンと落ちていった。

 ここまではいつも通り、完璧にやれたような気がする。


 桐生がなんとなく満足そうな顔をしていて、早水坂と藍原さんは呆然としているように見える。

 残念ながら、内側で起きた事は分かっても、外側からどう見えていたのかは私自身には分からない。

「凄い……」

 藍原さんが、一言ポツリと漏らした。

「誠也」

 早水坂もただ桐生の名前を呼んだだけだった。

「あぁ」

 意味ありげに桐生が返事をする。どうやら私の試験はうまくいったものと思われる。

「ちょっと桐生。今日のところは合格点を貰えるわけ?」

 思い切って高飛車に言ってみたりする。たまには私だって桐生に向かって言ってみたい。

 ところが桐生の返事は。

「まぁ考えておく」

「はぁ!?」

 さっきまで驚いていたはずの2人と一緒に、3人でクスクス笑いを漏らしている。

「確かに、これではまだちょっとね」

 藍原さんまでもが、そんな反応だなんて。

(考えておく、の意味がわかりませんけど? 私は、誉められて伸びる子なんですけど?)

「明日からまたビシビシ鍛えるからな」


 私は小林からの忠告を、決して忘れてるわけじゃない。

 この3人には、決して気なんか許すもんか!


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