第3章 6月
そろそろ本題に入ってくるところまで、やってきました~
6月に入ったある日のこと。
変わらない毎日を送る私たち3人だったが、天気も良いし、今日は友哉のお弁当を中庭で食べようということになった。
「麻莉子ちゃんが、茎じゃなくてお花の方を間違って切っちゃった時には、ぼく、我が目を疑いましたよ」
「いやだなぁ、友哉くんったらぁ。あれはねぇ、ホントにちょっとした事故だったんだよぅ~。ハサミを持つ手が、こう滑ちゃってさぁ~」
麻莉子と友哉は二人揃って華道部に入部を決め、活動日の翌日は、前日の華道部での話で盛り上がることが恒例となっている。
あの麻莉子が華道部なのも、男子の友哉が華道部なのも微妙なところではあるが、本人たちがやりたい事にケチをつける気など、私にはもちろんない。青春を謳歌するのは大切なことだ。
なんて言ってる私は、いまだに保留中のままでどこにも所属していない。占研では門前払いをくらったしね。
それにしても。
涼しい木陰を提供してくれる木々と、やさしくそよぐ風と、友哉の作ってくれたおいしいお弁当と、大事な仲間たちの楽いおしゃべりと。
「あぁ~、いいなぁ~」
つい誰に言うともなく、私はヒトリゴトを口にしてしまう。
と、その言葉に耳ざとく反応した麻莉子が
「あれぇ、小春ちゃんったら、今のヒトリゴトだよねぇ~」
そう言って、制服の胸ポケットから何やら折りたたんだ紙を取り出した。
「何、それ?」
私の質問には、答えるそぶりも見せない麻莉子。
「たしかねぇ~、『いいなぁ』ってワードが今回の占いの中にあったようなぁ。あ、あった、あった。それでは小春ちゃんの今日の運勢を発表しまぁす」
どうやら麻莉子は、星杜新聞から『黒猫大福のヒトリゴト占い』の記事を切り抜いて持ち歩いているらしい。
「《『いいなぁ~』とヒトリゴトを口にした人間は、今日は何かヤバイことが起こるぜ。気をつけろだぜ》だってぇ~。あーぁ、小春ちゃん、読まなきゃ良かったかなぁ~」
(読んでくれなんて頼んだ覚えはないんですけど)
「へー、黒猫大福の占いって、その人の運勢を、ヒトリゴとで占うんだ。変わってて面白いね」
「そうなんですよ。なかなか占いコーナーに書かれているままのヒトリゴトをドンピシャで言う事は少ないんですけどね。でも中には言う人もいるわけで、そういう人が大福くんの占い通りになったって後で大騒ぎするんです。そういうことで、的中率が高いっていう評判がたってるんですよ」
「小春ちゃ~ん。麻莉子ね、今日は小春ちゃん、気をつけた方がいいと思うよぅ~」
「小春さん、気をつけて下さいね」
適当に話しを合わせて生返事をしたものの、この時の私は、『黒猫大福のヒトリゴト占い』が的中するなんて少しも信じていなかった。
ところが6時間目の授業中に届いた1通のメールから、なにやら雲行きが怪しくなっていく。
先日、学食1年間フリーパス券を生徒会室へ受け取りに行った際に、連絡をしなければならない事が多くなるからと言われ、仕方なくアドレス交換なぞをしたが、メールはそのうちの一人、早水坂からだった。
『今日の放課後、生徒会室に来い』
あれからの私は、桐生がなんでか3年の早水坂と同級生だったことも、小林が透視した、私が巻き込まれる大事件についても、それなりに気にはしていたが、それよりも星杜学園の一生徒として日々の生活をこなす方に手一杯でいた。そろそろ前期中間考査も迫ってきている。
「小春ちゃ~ん、眉間にシワが寄ってるよぉ~。やっぱり大福占いが当たったんじゃないぃ~?」
私は、麻莉子が近付いてきていたことにも気がつかないでいた。
「ううん、大丈夫だよ。占いなんてさ、当たるも八卦、当たらぬも八卦なんだしさ」
でも、もしも小林が新聞部に占いを提供しているんだとしたら、かなり当たりそうな気はしなくもない。
(それにしても人を呼び出すのに、相手の都合も聞かず、いきなり生徒会室に来いって、どゆこと?)
10分後、私は生徒会室にいた。生徒会室は、あの日と同じ4人のメンバー。
(やっぱりこのメンバーなのか)
「さて、波原小春くん。君がここへ来るのもこれで2度目だな」
「はい」
「今日来てもらったのは他でもない。実は小春くん、君に見てもらいたいものがあるんだが」
早水坂は藍原さんに指示をして、布に包まれた箱のようなものを持ってこさせると、目の前で布から箱を取り出す。それは、とても年季の入った古い桐箱のようだった。早水坂は蓋を開けて中のものを取り出そうとする。
(桐箱の中から、何かが溢れてきている?)
「ここには、小春くんと共鳴するものが入っている」
(共鳴って?)
早水坂が取り出したものは、直径20㎝くらいの薄汚れた石で、古さは感じさせるけど、どこにでも転がっていそうなただの石だった。
(ん?)
ところが、その石からは、不思議な波動みたいな何かが出ているような感じを受ける。
(なんだろ。もしかして、これが原因とか?)
小林が言っていた、生徒会室周辺で学園を流れる気が乱れているというのは、この石のせいなのだろうか。 私は気を引き締める。
桐生が声を掛けてくる。
「やっぱりお前にも分るんだな」
相変わらずの上から目線。
「なにがよ?」
「その石だよ」
どうやら、桐生の発言を聞いても、そのようだった。
「お前にも、って事は、桐生も感じるんだ?」
「そうだな」
早水坂はその石を机の上にそっと置く。
「波原小春」
(いきなり呼び捨てかいっ)
「今から私がする話しは、信じにくいところがあるかもしれない。でも、小春くんならば
ある程度は理解して貰えるんじゃないかと思っている。最後まで聞いて貰えたらありがたいんだがな」
「聞かないという選択肢は、私にはあるんですか?」
「ない」
(あぁそうですか、ないんですね。ないならないで結構ですけども)
波原小春、売られた喧嘩は必ず買う主義だ。
「小春くんは、風水に興味はあるか?」
「まったくありません」
私は即答する。
私は占いも信じないし、自分の人生は、自分の意志で築いていくものと決めている。風水に頼ろうだなんて思ったこともない。従って、黄色いお財布だって持ったことはない。
『今日は何かヤバイことが起こるぜ』
「そうか。それでは簡単な説明から始めるとしようか」
早水坂が話し始めると、藍原さんがそばにホワイトボードを持ってくる。
(これは授業ですか?)
「現在我々は地球に生きているわけだが」
早水坂が一呼吸おく。
「小春くんも、地球人だな」
「地球人の他に何人がいるっていうんですか!?」
「これは失敬、失敬。そんな我々が生きている地球には、古来より地球そのものが持つエネルギー、すなわち《地の気》と呼ばれるものが存在している」
ホワイトボードに、丸い形を書いて内側に地球と書き入れ、その下には矢印を書くと、それに《地の気》と書く。
「そして地球には、この《地の気》の流れる道筋があって、その道筋の事を《龍脈》と呼んでいる。具体的には《龍脈》とは、山脈のことだと考えてくれて間違いない」
早水坂は続いてホワイトボードに、日本列島をさらさらと描き、山脈を大雑把に書き込む。
(やけに慣れてるじゃん)
「一般的には、うねるように連なる山には強い《龍脈》が宿り、そうでないものはパワーが少ないとされている」
(ほぅ、なるほど)
「やがて《地の気》は、高い方から低いへと山並みをたどって落ちていき、《地の気》の溜まる場所、《地の気》が地上にあふれる場所が現れ、ここを《龍穴》と呼ぶ。《龍穴》は、生気が集中するポイントだとも言われている」
早水坂は、先ほど書いた日本列島の山脈に《龍脈》と書き入れると、山脈に平行な矢印と、その山脈から直角方向に下に向かって流れる矢印を書いて《地の気》と記す。
そして平地に向かって流れる《地の気》が、溜まる場所を円で囲んで《龍穴》と書き込んだ。
「サルでも分るように説明したつもりだが、小春くん、ここまでは理解してくれたかな?」
「はい。とても簡潔明瞭で、サルでも分るような説明でしたので、この私でも理解できました」
イヤミで返したつもりなんだけど、果たして通じたものか。
「それならば結構。小春くんは大変優秀な生徒だ」
藍原さんがホワイドボードをもとの場所に戻す。
「それでは小春くん。ここからの事は多少君を驚かすことになるかもしれないが、その点については先に謝っておく。しかし、決して君を驚かせたいわけでも、追い詰めたいわけでもないことは信じてほしい」
(追い詰める――?)
早水坂は、先ほど置いた石を両手で大事そうに持ち上げると
「小春くん、この上に両手を乗せてみたまえ。それと何が起きても、その手は放さないように」
そう私に指示を出した。が、私は躊躇する。
「……」
「ん?どうした?」
「そんなうさんくさいこと言われて、ほいほいと手を乗せる人がいると思いますか?」
「小春くんなら乗せると思ったんだが」
波原小春、売られた喧嘩は必ずかう。
心を決めた私は、早水坂の持つ石の上に、おそるおそる自分の両手をかざしながら、少しずつ距離を縮めていった。そして、その玉と両手の距離が10㎝くらいまで近づいた時だった。
なんと、早見坂の掌の上で、石がほうっと光を放ち始めたではないか。
(石が。光っている!?)
「な、なんで!?」
驚いて手を引っ込めそうになった私に向かって、桐生が怒鳴る。
「波原、いいからそのまま両手を乗せるんだ!」
(なにさまだ、こいつ)
そして、私の手との距離が縮まるにつれて、光の強さはどんどん増していく。
(これから何が起きるというの!?)
悪の秘密結社に取り込まれるんだ、小林のいう事をもっとちゃんと守るんだった、私の学園生活はここで終わるんだ、などど意味不明な言葉を唱えながら私は。
あと、5㎝、4㎝、3㎝、2㎝。
そしてその瞬間が訪れる。
石は、生徒会室の隅々に行き渡る程のまばゆい光を放ち、乗せた手を通じて、私の身体の中にすさまじい勢いで風が吹き抜けていった。
胸元のリボンが揺れて、髪の毛が逆立つ。
――が、その状態もすぐに元に戻ったようで、気付いてみると私はただ石に手を乗せているだけだった。石も最初と同じように、ただの石に見える。
何が起きたのか分らなくて私はぼーっとしていた。他の3人は……激しく驚愕しているようだった。
「まさか、な。これほどまでとは思わなかった」
桐生がぼそっと言うと、早水坂も同意をする。
「これでハッキリしたな。誠也の言ってた事は正しかったワケだ」
藍原さんが一番驚いているようだ。
「本当にこんなことがあるんですね。今、この目で見たというのに、まだ信じられないわ」
「小春くん、もう手を放してもいいぞ」
私はゆっくりとその石から手を放す。
手のひらを見たけれど、特に変わったところもない。
早水坂が話しを始めた。
「小春くん、ここで質問をしたいんだが、小春くんは石と岩の違いはなんだと思う?」
「石と岩……そうですね、大きさの違いとか」
「それもあるな。他にはどうだ?」
「それじゃ石は、岩から切り離されてしまった単独のもので、岩は地中に埋まっているっていうか、地球と繋がっているものだとか」
3人が意外そうな顔をして私を見た。
「なかなか分ってるようだ」
(誉めて貰ったのか?)
「岩が地球と繋がっていると理解できるならば、先ほど説明した地球がもつエネルギー、すなわち《地の気》が、岩になんらかの影響を与えていると聞かされても、不思議には思わないだろう」
「はぁ、まぁ」
「では、その岩から切り離された石に、特別な力が残るということは?」
「――って事は、この汚い石はそういう特別な石なんですかっ!?」
「汚いっていうのは余計だが、……まぁそう結論を急ぐな」
「はぁ」
そこからは桐生が話しを継ぐ。
「波原。お前、中学時代にもあったと記憶しているが……そうだな、最近で言うと、英語の授業での暗唱。あれなんかは、おまえの実力じゃなかったんだろ?」
『波原さん。君ってさ、普通の人にはない力を持ってるでしょ?』
『君のまわりには、君の力を知っている人間がいるな』
ふいに小林の言葉が蘇ってくる。
「き、桐生。い、いったい何を言い出すのさ」
「おまえね。この石を光らせておいて、おまえ自身も石から強烈な力を受けながら、今更、取り繕えると思う方が間違っているだろう」
早水坂がまた両手でその石を持つ。その石の上に、桐生と藍原さんが順番に手を乗せたけれど、当然ながら何も起こらない。
「これでわかっただろう?」
「なにが?」
「波原、お前は特別な人間なんだ」
「……」
「お前は、地球のエネルギーを取り込むことのできる特殊な体質なんだ」
(特殊な体質?)
「さっき石が光ったのは、《地の気》がお前を通してこの石に流れ込んだ結果、起きたことだ。おまえは、まだその力をコントロールすることができないので、少しだけ早水坂に手伝ってもらったんだ」
ここらあたりから、だんだんと理解が追いつかなくなってくる。
「???」
「まぁ、一度に理解できなくても、それはしょうがない。」
藍原さんが口を開く。
「星杜学園はね、まさに《地の気》が集まる場所に建てられた特別な学園なの。そして今年は創立100周年を迎えます。波原さん、私たちは、この星杜学園をこのままずっと守りたい。それには、あなたの力がどうしても必要なの」
ますます意味不明度は上昇し、混乱する。
「小春くん」
早水坂から私の手に石が渡される。でも、それだけでは何も起こらない。
「君一人だけでは、この石はただの石ころだ。でも、ただの石ころじゃないことは、君が経験したとおりだ。そして今日の最後のキーワードは《龍底》だ」
(リュウ、テイ?)
「この《龍底》に関してだけは、残念ながら詳しくは分らない。分っているのは『100年後に開放される偉大なる力』ということだけだ」
「『100年後に開放される偉大なる力』?」
「波原小春くん。我々に協力して欲しい」
「波原さん、あなたの助けが必要なの」
「波原小春、それが自ら決めて星杜学園に入学してきたお前の運命だ」
《『いいなぁ~』と独り言を口にした人間は、今日は何かヤバイことが起こるぜ。気をつけ
ろだぜ》
☆☆☆
6月末、それなりにがんばった中間考査も、気がつけば終わっていた。
生徒会室での出来事は、確かに人生最大のインパクトだったけれども、それよりも入学して始めての試験
の方が私にとって重要だったのは、星杜の一生徒の立場からすれば、当然のことではあるだろう。
そういえば一つ、気になることがあった。
生徒会室へ行った日の翌日、私の靴箱には小林からの手紙が入っていたのだ。生徒会室付近で、これまでにない程の気の乱れを感じたことや、それに私が関係していたのだろうかとか、傍観者であっても何が起きたのかは興味がある、などどいう事が書かれてあった。
その時は心身ともに余裕がなかったので、小林とコンタクトはとらなかったけれど、近々折を見て占研を訪ねてみようと思っている。
さて、そんな私の中間考査の結果はといえば、蓋を開けて見れば可もなく不可もなくというところだった。ただし、英語のテストだけは満点に近かった。理由は、おわかり頂けるとは思うが。
いつものように昼休み。今日は3人、学食のテラスでのんびりと、各自好きなメニューを取って食べている。
「えっ!?友哉が学年2番??」
私たちは、先日の中間考査の結果について話をしていた。
「えっと、えっと、なんだかそうみたいなんです」
相変わらずに控えめな友哉だ。
「そうそう。友哉くんから聞いてぇ、麻莉子もビックリだよぅ」
「そうなんだ、それはスゴイね、友哉! がんばったじゃん」
自分が2番をとったワケじゃないけど、なんだか嬉しい。
「それでねぇ、小春ちゃん。一番は誰だと思うぅ~?」
「え? 誰だろ? 私の知ってる人?」
「それがですね、うちのクラスの桐生くんなんです」
対抗意識を燃やしているのか、友哉の口調が珍しく強い。
「桐生がトップなんだ?」
私には全然関係ない次元の話とはいえ、桐生が一番なのは、なんだか悔しい。
「ぼっ、ぼく、今度こそ一番を取りますから、小春さんっ、見ていて下さいねっ!」
私が、友哉の張り切り具合の理由を知りたいと思っているところへ、情報通の麻莉子が種明かしをしてくれる。
「あのねぇ、小春ちゃん。星杜学園の変わった伝統の一つに、こんなのがあるんだけどねぇ」
「伝統?」
「生徒会長がいる学年だけはぁ、1番になった人が、次のテストまで期間限定の校則を発布することができるんだよぅ~」
「えっ? それじゃ今回は、桐生が勝手に校則を作れるってこと? 『波原小春に飯を食わしてはいけない』、みたいな?」
「小春ちゃん、違うよぅ。生徒会長の学年だけが対象なんだよぅ」
「ふぅん、生徒会長の学年だけなのか。それにしてもおかしな伝統があるもんだね」
「そうかなぁ、変かなぁ~」
小首を傾げて考えていた麻莉子だったが。
「小春ちゃん、ちっちっち! これはね、きっと粋っていうことなんだよぅ。粋な伝統なの」
粋の使い方は、はたしてこれで合っているんだろうか。
「だってね、小春ちゃん。伝統なんて、だいたいがそんなもんでっしょ~」
そういわれれば、星杜の学園には不可思議な伝統がいくつもある。私は、寮棟を死ぬ思いで走った事を思い出す。
「でもさ、本当に勝手にどんな校則でも作れるの?」
「もちろん法律に触れるのとか、エッチなのはダメだよぅ」
(確かにそこは問題だろう)
「でもねぇ、これまでは代々の生徒会長が主席を守ってきてるから、そんなおかしな校則が発布される事はなくて、事実上は形骸化してるみたいなのぉ~」
「へぇ、そんなもんなんだ?」
「小春ちゃんさぁ、変な人が一番とって、変な校則が発布されちゃったら、どうするよぅ? 『波原小春に飯を食わしてはいけない』みたいな校則とかさぁ~」
「それは問題だ、確かに問題だ、とても問題だと思われる」
「そうでしょ~。だから学園の秩序を守るべき生徒会長は常に1番でいて、へんな校則が発布されないように頑張る義務があるのよぅ」
「ふぅん? なんていうか、生徒会長やるってのも楽じゃないんだね。まぁその当たりの事は、とりあえず分ったけどさ。でも麻莉子、それがなんで友哉が一番を目指す理由になるわけ?」
「うーーん、友哉くんはぁ、自分で校則を発布したいっていうよりもぉ、麻莉子が見たところによるとぉ、生徒会長になりたいって事の方が重要みたいだよぅ~。主席になった人は次期生徒会長に選ばれる資格あり、ってことだからねぇ~」
「生徒会長?」
「そうそう。友哉くんさぁ、もしかすると、何か理由があって生徒会長を狙ってるんじゃないのかなぁ~?」
麻莉子がにやにやしている。
「友哉が生徒会長を? なんで??」
(似合わない。似合っていないし、想像もできないんだけど)
友哉、何やらブツブツつぶやいている。
「ぼくがテストで一番を取り続けたら、きっと生徒会長になれるはず。そうしたら副会長には小春さんを指名して……。ぼくたちは早水坂会長と藍原さんのように、いつも二人で一緒に活動するんです。寮祭にはあの台の上に二人で並んで……。だから絶対に桐生くんに会長の座は渡せないっ」
友哉、妄想全開のようだが、残念なことに、既に友哉はいろんな前提を間違っている。
副会長は選挙で決まるのであって、会長の指名ではない。仮に桐生が会長になったとしても、その時に私が副会長になることは、天地がひっくり返ろうともありえるはずもない。
「ところで麻莉子。今回のテスト、3年生は会長が1番なの?」
「そうみたいだよぅ。生徒会室の廊下に順位が張り出されるみたいだからぁ、小春ちゃん、一緒に見に行くぅ?」
「あ、ううん、あんまり興味ないし」
「ふぅ~ん、まぁいいけど。それでねぇ、聞いてよ、小春ちゃん。1番の早水坂会長が今回発布した校則なんだけどねぇ、『笑う角には福来たる』だってぇ~。こんなの、校則って言わないよねぇ~」
そう言って麻莉子は、ケラケラと楽しそうに笑った。テラスを吹く風が、麻莉子のふわふわな巻き毛を揺らしていく。
これから星杜学園は、7月末の学園祭に向けて忙しくなる。