エピローグ
最終回、これにて完結~~~~~!!!
ありがとうございました♪
続編「星杜学園1年 波原小春 170㎝64㎏ チョコレート事件勃発!?」連載中です^^
私が目を覚ましたのは、これまで修行してきた生徒会室のソファの上だった。
「あ……れ?」
心配そうな顔が、私の顔をのぞいている。
「あ、小春ちゃんが目を覚ましたよぅ!」
みなの顔がいっせいに明るくなる。
辺りを見回すと、麻莉子に友哉、桐生に、早見坂、藍原さん……そして陣の顔が見えた。陣の顔が見えた途端に、反射的に私は身を起して叫ぶ。
「なんで陣がここに!? 龍底に私の願いは届かなかったの??」
(え? じゃあ、麻莉子はなんでここに……?)
なにがどうなったか分からずにとまどいを隠せないでいる私に、麻莉子がぎゅっと飛びついてきた。
「まっ、麻莉子!?」
「小春ちゃあん、ごめんねぇ。こんなに小春ちゃんを追い詰めることになるなんて、麻莉子、思ってもみなかったのぅ」
「どういうこと? クローン人間はまだ存在してるの?」
そんな私たちのやりとりに、友哉が加わってくる。
「小春さん、騙してたみたいで、ごめんなさい。実はですね、これまでの事って、星杜の伝統のヒトツとして動いてきてたんです」
「これまでの事? 伝統? 友哉、いったい……何を言ってるの?」
友哉がすまなそうに、でも楽しそうに笑って私の顔を見ている。
そして、そんな私の質問に答えたのは、早見坂だった。
「小春くん、本当に申し訳なかった。伝統行事……と呼ぶのが正確かどうかは置いておくが、我が星杜学園では、毎年、学園全体で1年かけて映画を撮っているんだ」
「学園全体で……1年かけて……映画を撮る……?」
麻莉子は身体をはなすと、クリクリとした、いたずらっぽい目で私を見つめながら
「主演女優は、波原小春!」
そう言って私を指さし、続いて自分に向けて指をさすと
「そして助演女優は、この久遠麻莉子ぉっ!」
と、言い放った。
「しゅ……えんじょゆう?」
理解が追いつかない私に、今度は藍原さんが、とびっきりな優しい表情で話しかけてくる。
「波原さん、本当にごめんなさいね。今年は、入学する生徒さんに、役者さんが揃っていたものだから、私までついつい悪ノリしちゃったわ。台本はもちろんあるのよ。でも、波原さんには言わない方が、良い作品になるだろうって桐生くんが言うものだから……。それに、他のみんなも賛成してくれた事もあって」
そんな言い訳をしながら、藍原さんは舌をペロリと出した。こういう藍原さんは始めて見たけれど、これはこれで茶目っ気たっぷりな感じで、別の意味でそそるかもしれない。
などど思ったりする余裕は、本当は私にはないのだ。
けれど、それにしたって。
「みんな、って、みんなって言いますけど、それっていったい誰ですかっ!? 何人以上で、みんな、なんですかっ!?」
私の口調が荒くなったとしても、それは私のせいではないはずだ。
「本当に……ごめんなさい。辛かったでしょ」
藍原さんが、少しだけ神妙な表情になった。
「藍原さんっ! あたし……確かに辛かったですけど、そうですとも、辛かろうはずなんです!」
日本語の正しい使い方を忘れそうになっている。
「いっ、いったい、どこからが作り話で、どこまでが本当なんですかっ!?」
今の気持ちを、どう表現したらいいのだろう。今日までギリギリの精神状態で生きてきたと言ったとしても、そんな私を笑う事なんて誰にもできないんじゃないだろうか。いや、実際、ギリギリの精神状態だったのだ。
「詳しい事を聞きたいおまえの気持ちは、よく分かるがな、小春。今、ここでその話をしていたら、次の予定が滞ってしまう。それはまた日を改めて別の機会に、ということで勘弁してくれないか」
今度は桐生だった。
「う……でも……そんな事言われても、このままじゃワケわかんないままだし……」
「小春、本当に悪かった」
桐生の瞳に、冷たさは感じられない。
「でも、桐生、これだけは教えてほしい」
「なんだ?」
「あたしは……あたしが桐生家の人間だっていうのは?」
「いや、それはないな」
桐生が、珍しくいたずらっぽい表情で笑った。
「じゃ、あたしがクローン人間だっていうのは…?」
「ありえないんじゃないか?」
「じゃ、じゃあ……桐生が、わざわざ星杜学園から私の中学校に転入してきて、本当は年上だったってハナシは?」
「そんなワケあるか。俺は、正真正銘おまえと同じ年齢だ」
(こいつはっ!!)
「それじゃ陣……陣先輩は!?」
ここで始めて、陣が申し訳なさそうに口を開く。
「波原さん、これまで騙してきてごめんね。あと……最後に嫌な思いまでさせちゃったし。でも本当の僕は、いたって気の良い人間さ」
「陣先輩も、映画のストーリーを演じていただけなんですか?」
「うん、そうだよ。僕さ、波原さんや桐生くんのように、ちょっとだけ気を操れる人だったからさ。あ、ひとこと言っておくけど、寮祭の時に力を発動させて波原さんの足を引き止めたのは、僕じゃなくて桐生君だけどね」
へなへなへな、と。本当にそんな音が自分の中でしたような気がした。
「責任者、ここへ出てこいーーーーーーーーーーーーーーっ!!! ぶん殴ってやる!!!」
私は、もうめちゃめちゃ暴れだしたい気分だった。
「映画だ、お芝居だなんて……波原小春を、いったいなんだと思ってんだーーーーーーっ!! はぁはぁはぁ」
「小春ちゃぁぁ~ん」
「小春さん~」
「波原さーん」
「小春くん」
みなが私の名前を呼ぶ。
「まぁまぁ小春。そんな怖い顔するな」
「桐生ね、あんた、いけしゃあしゃあとそんなふうに言うけどね。あたしが今までどんだけ……」
と、突然に桐生が、私の唇に人差し指をあてて言葉をさえぎる。
「小春。今から、早見坂と藍原のダイフクロースが、大福もちを配って回るメインイベントが始まるところだ」
桐生の言葉に、まだ創立記念前夜祭が続いていることに気付く。
(ダイフクロース……)
そういえば、そんな提案をしたような記憶も蘇ってくる。もう遠い昔の話のように思えたが。
「波原さんのアイディアのせいで、私は、最初で最後の着ぐるみスタイルになるんですもの、今回の事は、おあいこってことで許してもらえない?」
(藍原さん、おあいこって……そんな)
「小春くん、その後は、いよいよミスター&ミス星杜の発表になるぞ。今年は、意表をつくような結果が出そうな勢いだ」
(そんなこと、私にとってはどうでも……)
「うんうん、だってねぇ~、小春ちゃんの一挙手一投足が、4月にキャストが発表された時からずーーーーーっと全校生徒の注目の的だったからさぁ~。小春ちゃんの正義感、男らしさっぷりが、称賛されまくっちゃってるのぅ。うんうん、小春ちゃんがミス星杜に選ばれるのも夢じゃないかもよぉ~」
(一挙手一投足?)
「でっでも、ぼくは、小春さんがミス星杜になるのは、なんとなくイヤだっていうか、遠くなっちゃうような気がするっていうか……」
「またまた友哉くんは、こんな時にまでぇ~」
生徒会室にどっと笑いが起こった。
「なにせ今回は、小春くんの出方しだいでは、正反対のラストになる可能性もあったからな。途中途中で細々とした修正はしたものの、最後の場面では、さすがは小春くんだった。こちらで描いていた通りの結末を導いてくれた事に感謝する。本当に圧巻のラストとなった」
「他のみなさんとは、だいたいの流れは打ち合わせてあったけれど、波原さんの出方しだいで、どう転ぶか未知だったものねぇ」
(そんな……会長……藍原さん……)
褒めてもらったのかどうか、いまいち微妙な気はする。
「いいえ、だからそんな心配はないと、最初から僕が言ったでしょう? 小春の頭の構造は単純なんだから、ちゃんと筋書き通りに運ぶことになってたんですよ」
藍原さんに対する、桐生の言葉使いが少し丁寧になっているのに気付いた。
(そっか。桐生が3年生っていうのは映画の中での設定なんだ)
「残る編集作業が終われば、今年の星杜映画も完成ですね。過去の映画の中でも最高傑作になるんじゃないでしょうか?」
最後にそう話すのは陣先輩だった。
「小春ちゃ~ん、この映画ね、3年生の追い出しコンパでお披露目になるんだよぅ~。すっごく楽しみだねぇ~」
「ぼくが映画に出てるなんて、今でも信じられませんよ」
(もう、みんな好き勝手なこと言ってる)
でも、なんだろう。
この笑えてきそうな感じ。
その時、実行委員の一人が生徒会室に顔を出して、声をかけてきた。
「会長、副会長。そろそろ準備をお願いします」
「さて、と。小春くんの意識も戻ったことだし、琴音。我々はダイフクロースに着替えるとしようか」
「はい、会長」
(会長……か)
藍原さんが、早見坂の事を『恭一さん』と呼んだ声が、私の耳に残っている。結構呼び慣れていたようにも感じたけれど、それは私の勘ぐり過ぎなのだろうか。
やがて2人は、呼びに来た生徒と一緒に生徒会室を出て行くと、それに続くように、陣先輩も生徒会室を出ていった。
「それじゃ中庭に行こうかぁ、小春ちゃん!」
「行きましょう、小春さん!」
麻莉子と友哉の声が耳に優しい。
2人を失ったと感じたあの時の辛さを思えば、もうこの2人には何でもしてあげたいと心から思える。そして、何でもできるような気さえしてくる。
「うん、行こう。麻莉子! 友哉!」
一足先に、2人の楽しげな背中が生徒会室から出ていった。
「桐生、行こう」
「あぁ、行くか」
生徒会室に残っているのは、これで桐生と私だけになった。
「それと。あんたからは、後でゆっくり話を聞かせて貰うからね」
桐生が肩をすくめた。
「分かった。小春、お手柔らかに頼むぞ」
「さぁ? そこの保証はできないけどね」
桐生と顔を見合わせた私はくすっと笑う。
と、中庭から歓声があがりだした。
「どうやら、2人のダイフクロースが登場したようだな」
「そうみたいだね」
黄色い悲鳴も飛び交っている。ダイフクロースの着ぐるみを着ている生徒が、早見坂と藍原さんである事が明かされたのだろう。
「あの2人に着ぐるみを着せるなんて、小春もたいしたもんだな」
「ふふっ」
なんだか、心の中が急にわくわくしてくる。
「それと桐生。最期にもうひとつだけ聞いておくわ」
「なんだ?」
「あんたとの婚約話って、もちろん映画の中での話だよね?」
「あぁ、そうだな。でも、まぁ俺はどっちでも構わない」
そう答える桐生に
「どっちでも構わないって。なによ、その適当な受け答えは?」
いつもの調子に戻って、私も軽くくってかかる。
ふと、桐生が。
桐生が、私をあまりにも優しい瞳で見つめているのに気がついて、急に居心地が悪くなってしまう。
「きっ、桐生? なに? そんなふうに見られたら、調子狂うじゃん」
それから。
私は、近付いてきた桐生が両腕をそっとまわして抱きしめてくるのを、スローモーションの映像を見ているように眺める事になった。
動くことも出来ずに、その場で立ちつくす私の目の前には、桐生の肩がある。
桐生に抱きすくめられた事は何度かあったが、でも、そういう時は、たいてい後ろからの羽交い締めに近い状況だった。こんなふうに正面から優しく桐生に抱きしめられるなんて、今までは無かった……はず。
それが、いったいどれくらいの時間だったのか。
短かったのか、長かったのかさえも私には分からない。
「桐生……これは映画の続きなのかな?」
私が発した言葉は、はたして空気の読めない言葉だったろうか。
だがしかし、桐生は、私の問い掛けには答えなかった。桐生は、背中にまわした腕をほどくと、今度は静かに私の肩を抱き寄せた。
次の瞬間、ほんの一瞬だけだったが、自分のおでこに桐生の唇が確かに触れたように感じて、私はめんくらう。
「え……?」
けれど、私が何かを聞く前に、すでに桐生は私から離れていた。
そして桐生は、とてもとても穏やかな瞳で私を見つめている。私の気持ちも、こんな事があったにもかかわらず、不思議と穏やかでいる。
桐生が手を差し伸べてきた。
桐生の横で、穏やかな気持ちを感じるとか、こうして手を差し伸べられたりとか。
(今までにも同じような経験をした事がある……?)
奇妙な既視感があった。
「行くぞ、小春」
桐生の声で、私の感覚が一気に現実に引き戻される。
差し出された桐生の手と、穏やかな桐生の顔を見比べて、私は大きくひとつ息を吸い込んだ。
これまでのいろいろな情景が、私の中に浮かんでは消えていく。
「行こう、桐生!」
2人で勢いよく生徒会室を飛び出した。
星杜学園1年 波原小春。
168㎝……いや、入学してから2㎝伸びたので、ただいま、170㎝の60㎏。
私の楽しい星杜学園生活は、最高の仲間たちとこれからも続いていく!
(完)
番外編「星杜学園を救う者、その名は波原小春! ~クローン人間は誰だ!?~」完結 続 編「星杜学園1年 波原小春 170㎝64㎏ チョコレート事件勃発!?」ただ今、連載中です^^
この小説は、これにて完結です!
これまで読んで下さった方に、本当に感謝の気持ちでいっぱいでいます。小春たちが星杜学園を卒業するまでは書く予定でおりますので、機会がありましたら、またよろしくお願いします。
※番外編 完結しました!
※続編のチョコレート事件勃発!? は、ただ今連載中です!^^




