終 章 12月(14)
あぁぁ、小春が、小春が……!!
書いていて、かわいそうになりました。が、最後まで何が起こるかわかりません。
残り数回、最後までお付き合い下さい。
しかし、次に口を開いたのは陣だった。
「桐生さぁ、だから僕、ずっと言ってたじゃない。波原さんにすべてを伝えておくようにってさぁ」
陣は苦しそうに顔を歪めている。
「いったい何のことよっ!?」
私の声に自然と熱がこもる。
「2人で何を隠しているのっ!?」
桐生の辛そうな声が、私の後ろから聞こえる。
「……小春、もう止めてくれ……。頼むからクローン人間の存在を……その存在を抹殺するのは止めてくれ! 抹殺だけはしないで……くれ!」
「何よ、今さら!! 会長と藍原さんとあんたが、私を巻き込んだのは、クローン人間の歪んだ望みを断ち切るためだったじゃない!」
「お前の力で願うことは、あまりにも力を持ちすぎる。俺の想像をはるかに超えていた」
「あんたは、桐生家の間違った望みを断ち切るために、私を巻き込んだんじゃない!」
背中に感じる桐生の身体が震えているように感じるのは、間違いだろうか。
(桐生――?)
「だから……波原、違うんだよ」
「何が違うか、バカな私が理解できるように説明してよ!!」
はっきりと語ろうとしない桐生に、私はいらつく。
その一方で、苦しそうな陣の言葉も聞こえてくる。
「それでもあの時、桐生が大丈夫だって言ったからさぁ。波原小春の事は俺が一番分かっているから任せておけなんて言ったからさぁ、この僕が、あえて君の言うことに従ったって言うのに」
(陣は、何の話をしている?)
「この状況、早くなんとかしてくれいかなぁ。身体が燃えるように熱いんだよねぇ」
「桐生! 説明して!!」
私は渾身の力を込めて、桐生の腕を振りほどこうともがき続ける。桐生の腕は、緩まない。
陣の苦しそうな言葉が続く。
「桐生誠也。そろそろ逆転ホームランをかましれないと、僕、そろそろ本気でヤバイような気がする」
「陣! あんたとはここでお別れだね!」
桐生に拘束されていても、龍底は確かに私の、私たちの願いを聞き届けてくれたようだった。
白く霞む中庭で、めまぐるしく七色に変化しながら星形に空に昇っていくまばゆい光の柱。
「どうして……だ……ろ、ぼく、波原さんを怒らせすぎちゃったのかなぁ」
桐生は、何も言わなずに、ただ私を拘束し続けているだけだ。
「桐生!!」
(こいつは、後で絶対ぶんなぐる! 一番わけの分からない存在だ!!)
「それじゃあさぁ……僕から言っちゃおうかなぁ」
桐生が私の後ろで息を飲むのがわかった。
「陣! 止めてくれーーーーー!!」
私の耳の後ろで叫んだ桐生の声がうるさい。
「なにっ!?」
「いい、波原さん、これから僕が話す言葉をよく聞いてよね」
「陣っ! それだけは!!」
桐生がうるさい。
「波原さんさぁ、僕の存在が消えることになったらね、遅かれ早かれ君だって道連れになるんだよ」
「???」
陣の言葉が、急には理解できなかった。
「分からないの? だからさぁ、君も僕と同じ運命をたどるんだってば」
(――え?)
「そこにいる桐生誠也が、君には最後まで言うなっていうから、今まで僕も黙ってたんだけどね。波原さんさぁ、君、自分もクローン人間だってこと、気付いてないよねぇ?」
「な……ッつ!!!!!!」
私の全身から力が抜けた。
後ろから抱きすくめていた桐生が、私の肩口に顔を埋めてくる。
「あたしが……クローン人間……?」
桐生の声は震えていた。
「すまない。俺も知らなかったんだ。陣に接触して始めて聞かされたんだ……」
そういえば、桐生はあの時。
『なぁ、小春。クローン人間は、悪なんだろうか? どうしても、その存在は許されないんだろうか? クローン人間だったとしても、ごく普通に平凡に生活しているのなら何が悪いのか。本人がクローン人間として生まれたくて、生まれてきたわけでもないというのに』
「あの話は……あたしの事だったんだ……」
私の身体が震えているんだか、桐生の身体が震えているのか。いや、2人とも震えていたのかもしれない。
「俺に、迷いが生じてしまった。クローン人間なんて存在させてはいけないと思っていたはずが、おまえがクローン人間だと知ったその時から――」
陣がしびれをきらしたようにイライラと言葉を発する。
「桐生誠也、早くなんとかしてくれないかなぁ。なんだか僕ねぇ、すごく苦しいんだけど。桐生家の悲願を叶えるために、君だって選ばれた人間なんでしょ?」
自分がクローン人間だと聞かされた私は、もう何をしたいんだか、何を望んでいたんだか、わけがわからなっていた。私自身も、頭が溶けそうに熱い。
「あたしは……あたしは、自分を消滅させるために、今日まで……?」
桐生の腕に力がこもる。
「小春、すまない。おまえを巻き込んでしまった事を、俺は後悔してもしきれない」
「あたしは、父さんと母さんの子のはずで……」
「許してくれ、俺を許してくれ」
桐生が泣いているようだった。
麻莉子の死で、体中の涙を流したと思ったはずが、私の目からは再び大粒の涙が後から後からこぼれ落ちる。
「いやあぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」




