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終 章  12月(13)

ここからは、めまぐるしい展開になっていきます(のはず)。

龍底が、とうとう現れます。はたして小春は、大丈夫なのでしょうか。陣は、桐生は……。



 ついに、中庭に時が満ちた。

 

 始めはゆらゆらと薄く白い靄みたいなものがゆっくりと地面から立ち昇り、次第に白い靄は、その濃さを増しながら、中庭中から湧き上がり始める。

 それを見た陣が、嬉々として言葉を発した。

「おぉ、偉大なる龍底よ! 我がどれほどこの日を待ち望んだことか! 我が願いに勝る願いを持つ者、ここには無し!」


(この白い靄が龍……底?)

 その白い霞は、地面から上へ上へと、空へと向かって立ち昇っていく。中庭全体が、みるみる白くけむっていった。地面に近い部分は、真っ白なその靄に覆われて既に何も見えない。

 

 私は、自分の中からすべての雑念を払いのけようと気持ちを集中させながら、静かに心の中で念じる。

(龍底よ。あなたが正しき願いを聞き届けるのならば、どうか私の、私たちの思いに耳を傾けたまえ)

 中庭が、私と陣の気がぶつかりあって危うい均衡で静まり返っているように、私の心の中でも、陣への憎しみと皆の願いとが、危うい均衡を保っていた。しかし、長い時間を自分の気持ちを律する自信が、私にはない。

(今は、まだ存在してはならないその者たちを、あなたの元でひとときの間、預かりたまえ)


 靄で見えなくなる空間が、上へ上へと拡大してゆく。その場にいる人間たちの姿もおぼろげになっていく。


 再び中庭に、陣の声が高らかに響き渡った。

「出でよ、龍底! 大いなる地の力を我に!! 桐生家の悲願を、かなえたまえ!!」


(どうか、どうかその存在が許されるその時まで……その者たちに安らかなる眠りを)


 地面が白い靄に覆いつくされたせいで、私のために巻き込まれた4人のその姿を見ることは、もはやできない。

 「麻莉子、友哉……林さん、鈴木さん……」

 

 次の瞬間。

 私たちは見た。

 白く霞む中庭の空間に、地の底から噴き出したまばゆい光の洪水が、音もなく空に向かってどこまでも真っすぐに延びてゆくのを。そのあまりにも圧倒的な存在感を表現することは難しい。誰もが身じろぎひとつできずに、その場で立ちつくす事しかできずにいた。

 そして、光の柱が見せたその形が。

「五芒……星?」

 その光の洪水は、陣が発布した校則によって生徒たちが歩いたあの五芒星型から、空に向かってまばゆい光を発していたのだった。白い靄にかき消されて見えない地面から、クリスマスツリーとなった木を中心に、星形に上に向かって徐々にその光を強めていき、やがて真っ白だった光の洪水は、オーロラのように、めまぐるしく色を変え始める。


「大地の気、自然の力。古より地上に生けるものを守りし、おおいなるものよ」

 私の唇から、言葉が溢れる。神が存在するというならば、今、私の目の前で圧倒的な力を示そうとしている、地球そのものこそが神ではないのか。

「我が願いに、願う以上のウソ偽りがない事を認めるならば、どうかこの願いを聞き届けたまえ」

 

 陣も叫ぶ。

「地の力を、今こそ我に!!」


 けれども、中庭には、ただ静かな時間が流れていくだけだった。

 白い靄と、五芒星型に空へ延びていく、めまぐるしく色を変える光の洪水と。

 

 それからほどなくした時だった。陣の様子がおかしい事に私は気付く。

「何だ……?」

 陣の不思議そうな表情が、薄靄の向こうに見える。

(陣の表情が……だんだんと歪んでいく)

「なぜだ……どう……して……」

 陣が目を大きく見開きながら、とうとう力なく地面に膝をついた。


(あぁ、私の願いは聞き届けられたんだ)

 

 突然、桐生の声が中庭中に響き渡った。

「小春!! もういい、もういいから止めてくれっ!!」

 桐生はそう叫んだ後で、何を思ったのか、いきなり後ろから私を抱きすくめた。

「なっ、なに!? 桐生、また私の邪魔をする気なのっ!?」

 もがいてもがいて、桐生の腕を振りほどこうとする。

「ここまできたんだ。もう私を止めたところで、何も変わらないよっ!」

 私は、必死で抵抗を試みる。

 

 しかし、がっちりと私を抱え込んだ桐生が話す言葉は、私の想像を超えるものだった。

「違うんだ、違うんだ、小春!」

「桐生! 放して、その手を放してってば!」

「小春、頼むから、これ以上は止めてくれ……」

 私を抱きかかえる強い力とは反対に、桐生の声は弱くかすれていた。

「それじゃ何が違うのか分かるように私に説明してよ!!」

 

 五芒星型の光は、中庭の喧騒とは無縁に、ただ静かに、そしてめまぐるしく色を変えて空へと昇り続けていた。

 


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