終 章 12月(10)
麻莉子と友哉の過酷な運命と、どんどん巻き込まれていく小春の運命。クローン人間が求めるものは何なのか? はたして小春は、クローン人間に立ち向かうことができるのか。
ラストがいよいよ近いです!^^
「ふっ、くっくっくっ、あーーーーっはははははっ。波原さん、久遠さん、とうとう死んじゃったみたいだねぇ」
私は麻莉子の身体をそっと地面に横たえた。
(麻莉子、ごめん。本当は怖かったよね、痛かったよね)
「こうなったのも全部さぁ、波原さんのせいなんだけど、ちゃんと分かってる?」
「……なに言って……」
「波原さんと仲良くならなければ、こんなふうに巻き込まれる事もなかったのにね。あー、残念、残念」
陣が、やけに嬉しそうだった。
「そ……んな」
「紫月くんだって、廃人になるのももう時間の問題でしょ? ホントかわいそうにねぇ」
友哉は地面に突っ伏したまま、さっきからずっと言葉にならない声でうなり続けていた。変わり果てた友哉の姿を見るのが辛すぎて、直視することができない。
(友哉……麻莉子……ごめん、本当にごめん。守り切れなかった。結局2人を守る事はできなかった……。私に特別な力があったって……修業を重ねてきたところで、私には2人を守れなかった!!)
涙の止め方がわからない。
涙でにじんでよく見えない向こう側にいる陣が、憎くて憎くて仕方がない。
何を考える事もできず、無意識のうちに口の中でつぶやく言葉。
「許さない、許さない、許さない、許さない、絶対に許さない、許さない、絶対に許さない……!!」
「さて、と。早見坂会長」
陣は、続いて早見坂の方に向き直った。
早見坂でさえも、先程から一言も発することができずに、目を見開いて立ちすくんだままでいる。
「女子生徒に絶大なる人気を誇る生徒会長様が、真っ青になってブルブル震えてる姿を見るっていうのも、なかなか楽しいもんだねぇ」
「……」
早見坂は身じろぎひとつできないようだった。
「早見坂くん、聞こえてるのかな。返事くらいして欲しいんだけど」
「う……」
言葉を発することができず、早見坂のうめき声だけが漏れる。
「まさかさ、クローン人間の生成実験が成功してたなんて、思ってもみなかったでしょ」
何が嬉しいのか、にやにやと薄笑いを浮かべている。
「そんなはずが……」
「でもさ、僕はねぇ、正真正銘のクローン人間なんだよ」
「――!! そんなわけが……」
早見坂の言葉は続かない。
「でもね、残念なことに、なぜだかよく分からないんだけどクローン人間って長く生きられないんだよね。なんと、クローン人間は、ぼくで5世代目になるんだ」
「……ん……だって!?」
(5世代目……)
果たしてクローン人間は、そんなに簡単にできあがるもので、そして、そんなに簡単に死んでいってしまう存在なのだろうか。何代ものクローン人間が、既にこの世の中に生きていたというのだろうか。陣を目の前にしてもなお、私には容易に信じることが難しかった。
「早見坂くんたちと同じように、僕たちも食べて寝てきちんとした生活を送っているのにね。どうしてなんだろうなぁ」
陣の表情が、少しだけ陰る。
「でもね、嬉しいことに早見坂くんのおじいさんが発見した石板には、クローン人間が長生きできる方法だって、ちゃあんと刻まれていたんだよ。早見坂くんはその事を知っていたかい?」
「長生きできる……方法?」
「うん、そうそう。長生きできるっていうか、正確にいうと永遠に生きられる方法っていうかさ」
陣の発する理解できない単語に、私は思わず反応してしまう。
「永遠に生きる!?」
オウム返しにその単語を口にした私に、再び妖しく輝く陣の視線が戻ってきた。
「そうなんだよね、波原さん。なんと今日は、桐生家の100年の望みが、ようやく叶えられる日になるんだよ」
「桐生家の100年の望み……!?」
「ねぇ波原さん。若くして命を失っていくクローン人間の存在って、なんだか人間よりも劣っているみたいに感じないかい?」
ギリギリと噛みしめたその唇が切れたのか、陣の口元から一筋の血が流れる。
「不完全なものってさぁ、ホント醜いんだよねぇ」
陣の顔は歪んでいた。
「じゃここで波原さんに質問ね。永遠の命を手に入れた僕は、どういう存在になるでしょう?」
「どういう存在?」
「僕ね、この世の神になれるんだよ」
歪んでいた陣の顔が、急に明るくなる。
「か……み?」
『その男は、私の話す石板の内容を聞いている途中からどんどんと興奮していき、話し終えた私にこんな事まで言ったのだ。《この出会いは我々の運命である。石板に記されている内容が真実である事を必ずや我々の手で証明し、今度こそ世間をあっと言わせようじゃないか。そうして我々は、この世界の神たる資格を手中にするのだ》と』
かつて、クローン人間を作り出すことで神たる資格を得ようとした人間が存在し、今、私の目の前に、永遠の命を得ることで神になろうとしているクローン人間がいる。
(狂っている)




