終 章 12月(7)
あぁぁ、血っ、血っ、血がぁぁぁ!
ここで、そうなりますかっ?! という展開です(のはず)。小春たちの運命や、いかに!?
「待って! どうして林さんが?」
「そんなの、簡単なことさ。波原さんと同室の子だったからね」
(――!)
「そんな……そんな理由で……?」
「主役級のまわりって、そういう扱いが普通なんじゃない?」
(私のせいで、林さんを巻き込んでしまった……?)
私はいったいどこからこの状況を理解していけばいいんだろう。頭の中が混乱して自分でも収拾をつけられない。
「陣、教えて。あんたは本当にクローン人間、なの?」
「波原さん、まぁそう急がないでよ。物事には、順序ってものがあるんだからさ」
「順序……?」
陣の、やけに余裕のある態度が、いっそう私をイライラさせた。
「何でもいいから、少しでも波原さんの情報が欲しくて、この子に近付いたんだけどね。残念ながら意外と波原さんの事は分からなかったな。分かったのは、波原さんの好きな食べ物くらいかな」
クスクスと陣が笑う。
「占研で波原さんに御馳走したお菓子は美味しかったでしょ」
(何から何まで陣の掌の上で、私は……)
「でもね、この子、僕に意外と執着してくれちゃってさ。結構うざかったんだよね」
(うざい?)
自分から近付いておいて、好きにさせながら、うざい??
あんなに家庭的で、天使のような優しい林さんを、うざい、って!?
陣に対するどうしようもない憤りがますます湧き上がってくる。
(クローン人間だとか、龍底だとか、早見坂家だとか、桐生家だとか!)
それが重要だったはずなのに、今の私からはだんだん遠くなっていく。
(私の大切な人たちを……絶対に……許さないっ!!)
「僕ね、とりあえずここの生徒たちは生かしておこうとは思っているんだ。ただし、記憶だけは少し操作しないとならないけどね」
(生かしておく……)
「でも、この2人はダメなんだ」
(陣は、何を言って?)
「この2人は、意識下にまでぼくの記憶が残っていきそうだし、なんていうか邪魔なんだよね」
「それはいったい、どういう……」
私がまだ話している最中だというのに、陣が右手を上げて2人に向かってすーっと右から左に動かすのが目に入った。
と、同時に。
そこに立つ林さんの首と、地面に横たわる鈴木さんの胸元に、ぱくっと傷口が開いて、そこから噴水のように真っ赤な血が噴き上がった。目にも鮮やかな、赤い赤い鮮血の噴水。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
中庭に、耳を引き裂く、藍原さんの絶叫が響き渡った。倒れかかった藍原さんの身体を受けとめる早見坂の顔も、目が見開かれ、唇が震えて真っ青だった。
「こんなの、こんなのって……うそだぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
首から半円状に血を噴きあげて、膝からその場に崩れ落ちていく林さんの姿が目に映った。そのまま地面に倒れた林さんの首元から、あっと言う間に広がっていく血だまりに、私はぐらぐらとめまいを感じる。
「大丈夫だよ。彼女たちに意識はないから、痛みなんて感じてないよ。表面上は、僕の恋人だったわけだし、僕にだって情けくらいはあるから、波原さん安心してよ」
「なんで……なんで、なんで! なんで、こんな事をーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
もう。
分からない。
何がなんだかわからない。
現実なのか夢なのかさえもわからない。膝がガクガクと震え、まともに立っていられない。頭の中がぐちゃぐちゃだ。
「あぁ、波原さん、大丈夫かい? お楽しみはこれからなんだから、もうちょっと頑張ってよ」
そう言って、陣はまたくっくっと一人だけ楽しそうに笑っている。不釣り合いな陣の態度に戦慄を感じ、全身に泡が立つ。
もう、陣が人間だろうがクローン人間だろうが、私にとってはどうでも良くなっていた。私が認識しておかなければならない事は、ただひとつ。
(こいつは、普通じゃない!!!)
「それでね、波原さんのクラスメートの久遠麻莉子さんなんだけど」
久遠麻莉子という単語に、びくっと身体が反応する。
(麻莉子と友哉の2人だけは、私が最後まで守り通す!)
震える足で麻莉子のそばに駆け寄った私は、両手を広げて陣と麻莉子の間に立ちはだかり、陣を睨みつけた。
「麻莉子と友哉は、あんたのすきにはさせない!」
「おやぁ波原さん、うるわしい友情だねぇ」
陣の上機嫌すぎる様子は、ますますその狂喜を際立たせる。
「この子ね、僕のまわりをうろちょろして何か探ってたみたいなんだけど、ほっといたのが失敗だった。意外といい線まで迫ってたらしくて、ある日、僕に言ってきたんだ。『クローン人間って、いると思いますか?』ってね。馬鹿な子だよね。何か分かっても、黙っていれば何の問題もなかったのに」
(麻莉子――!)
「それで……それで、あんたは、麻莉子になんて答えたの!?」
「僕は誠実な男だから、ちゃんと正直に真実を伝えたよ。『そうだよ、僕はクローン人間だよ』ってね」
そうだろうと思っている事と、本当にそうだと知る事とは、全然その重さが違う。自分の目の前に立つ人間に、自分はクローン人間だと告白された時、麻莉子はいったいどんな気持ちだったんだろう。
「波原さんは、僕がクローン人間だって知って驚くかい? まぁ最も、クローン人間だろうと思っていた相手は、会ったことのない陣聡介っていう3年生であって、まさか占研で話していた相手が、陣聡介だなんて夢にも思わなかっただろうけどね」
今日の小林は、口が軽い。
「だけどね、波原さんが、この二人を巻き込むことを良しとしていないようだったから、ちょっとだけ僕の力を使って、久遠さんの意識をコントロールしたんだ。本当は、今日の日をもっと面白くするために、久遠さんにはいろいろと活躍してもらいたいところだったんだけどね」
「……」
「ところがだよ。一件落着したと思ったら、今度はその紫月くんが僕のところにやって来て、こう言ったんだ。『麻莉子ちゃんに何をしたんですか』って。ホント、波原さんの周りにはバカが多いよね。だいいち、こんな男に、いったい何ができると思う? 自分のできる事とできない事を理解せずに敵陣に突っ込むなんて、愚の骨頂さ。不完全な人間と愚かな人間は、存在するに値しないでしょう?」
(こいつはっ――!!)
「友哉に何をしたの?」
「いや、まだなにも。本日、こうしてここにお越し頂いたくらいでね」
陣は話しを続ける。
「それじゃ波原さん、今度はこの2人の番ってことで、そろそろ始めてもいいかな」
「――ッつ!!!」
(友哉! 麻莉子!!)




