終 章 12月(5)
ここから、いよいよ本格的にクライマックスに突入することとなり、この物語の終わりも近付いてきました。
誰が味方で、誰が敵なのか。
何が本当で、何がウソなのか。
是非あなたの目で確かめて下さい!^^
ピキィィィィィ……ン。
私の頭のてっぺんからつま先まで、電流のようなものが走った。
と同時に、私の目の前にいる生徒たちの動きが止まる。虚ろに開かれた目の焦点が、誰もかれも合っていない。目の前で話していた小林からも表情が失せ、何を見ているのか視線の先がわからないまま硬直していた。
(とうとう……!)
本当に私は、パニックに陥る寸前だった。
その時、どこからか私の名前を呼ぶ声が頭の中に響いてきて、私は我に返る。
『小春くんっ!!』
その声の持ち主が早見坂だと知った私は、静かに目を閉じる。それから何度か大きく深呼吸を繰り返すと、修業の要領で少しずつ精神を集中させていった。
(中庭――か)
私は、そう感じ取るや否や、中庭を目指して走り出す。早鐘のように心臓が鼓動し、全身からはじっとりと汗が噴き出す。途中、廊下ですれ違う生徒たちも皆、動きが止まっていて、まるでマネキン人形のようだ。
私の目に、中庭に立つ数人の影が確認できた。そこには、やはり早見坂がいた。そして藍原さんの姿も見える。2人は他の生徒たちとは違って、少し動いているようにも見えるが、でも何がなんだか分からないという感じで、その場に立ちつくしているようでもあった。
中庭に飛び込む。
「会長っっっ!!」
早見坂の視線が私をとらえると、明らかにほっとした表情をみせた。
「あぁ、小春くん!」
続いて、藍原さんの声。
「波原さんっ!」
2人に掛け寄ろうとした私は、少し離れた所にたたずんでいる、別の4人の姿をとらえた。
(……え?)
早見坂や藍原さんに駆け寄ろうとしていた私の足が急に止まる。
なんと中庭には、早見坂や藍原さんのほかに、林さんと鈴木さん、友哉と麻莉子の4人までもが、生気のない虚ろな眼差しで力なく立っていたのだった。
「なんでっ!? 麻莉子っ!? 友哉っ!?」
いくら呼び掛けても、反応はない。
「会長、いったい何があったんですっ!?」
早見坂の方に向き直って問いかける。早見坂を責めるかのように、口調がきつくなるのが自分でも分かった。
「それが私にもよくわからないんだ。今朝、登校してきたところまでは覚えているんだが、気がついた時には……。聞くと、琴音もそうだと言う」
「それじゃこの4人は?」
「わからない。私が気がついた時には、4人とも既にここにいたんだ」
(どうしてこの4人が……)
胸の中に、いいようのない不安がどんどん広がるのを感じる。
「会長。残念ながら、学園の生徒たちはみな、既にこの4人のような状態です」
「とうとう龍底の……龍底の影響が出始めた、ということなのか?」
だが、そんな早見坂の質問に答えたのは、私ではなかった。
「そろそろ時が満ちるな」
聞き覚えのある声に振り向いた私は、桐生の姿をそこに見つける。
(桐生! 間に合ってくれたんだ!)
安堵感で、全身から力が抜けそうになった。
「桐生! 今までいったいどこに!?」
桐生に駆け寄ると、私はその腕を掴む。
「事故にあったって、入院したって……全然連絡もとれないし、ホントに心配してたし……それに、とうとうこんな状況になって、もうどうしていいのか、あたし……」
言いたい事や聞きたい事が山のようにあった。でも、今はそんな話をしている場合じゃない。
と。
次の瞬間、腕を掴んでいた私の手を、桐生はうるさそうにはねのけた。
「え?」
見上げた桐生の表情が、いつにもまして冷たい。
「桐生……?」
私が戸惑いを隠せないでいるところへ、早見坂が近付いてくる。
「誠也、せめて連絡の1本くらい寄越せ。この大事な時に、どれだけ心配してたと思うんだ」
早見坂も、桐生の登場で心強くなったのだろう。いつもの強気が多少、戻ったように思えた。
だが、そんな早見坂の言葉を聞いた桐生が、一瞬鼻で笑う。
「心配だって?」
桐生の低い声が、不気味に響いた。
(桐生?)
「連絡? なぜ俺が、おまえなんかに?」
そのあまりにも冷たい声に、ぞっとなる。薄く含み笑いをした桐生が、言葉を続ける。
「恭一、ひとつ、良い事を教えてやろう」
桐生の目に怪しい光が宿るのが見えた。
「早見坂家では知らなかったようだがな。クローン人間の生成実験なんて、とっくの昔に完成してたんだよ!」
「なんだって!!?」
早見坂の顔は蒼白だった。
(あぁ。桐生は……結局は桐生家の人間ってことなんだ)
驚愕した早見坂が、憔悴していくのが、はたで見ていてもはっきりと分かった。
「誠也、それは本当の事なのか? 本当なら、なぜ今まで黙っていた? おまえは私を騙していたのか!?」
「そうだな。騙すつもりはなかったが、隠していた事にはなるのかな」
そう言って桐生がくっくっと笑う。
「そういうわけで、恭一。クローン人間の生成実験阻止なんて考えはまったくもって無駄だぞ。ついでに言うと、クローン人間は既に学園内に存在している」
桐生の言葉を聞いた早見坂の顔が、今度は怒りで次第に赤くなっていく。
「すでに……学園内にクローン人間だと!? そんな重要なことをおまえは……」
「すまんが、俺は、桐生家の人間なんでね」
「そんな事、分かってる。おまえが桐生家の人間だって事は、最初から承知の上だ。承知の上で、私はここまでおまえと一緒にきたつもりだった」
「ほんと、おめでたいヤツだよ」
(違う! あの時の桐生は!)
私は、反射的に叫んでいた。
「ウソだ! 桐生は、そんな人間じゃない! 桐生はあの時、確かに私に言った。自分は桐生家の人間だけど、クローン人間に関しては、会長と同じ考え方だと思って構わないって!」
瞬間桐生の顔が揺らいだようにも見えたが、すぐに元の冷たい表情に戻る。
「波原。この世の中では、その時々に応じて真実なんて変わるんだよ」
桐生が、吐き捨てるように言う。
(そんな! 変わる真実だなんて!)
少し冷静さを取り戻したように見える早見坂が、静かに口を開く。
「誠也、教えてくれ。おまえはクローン人間がこの学園内にいる事を、いつ頃から知っていたんだ?」
「恭一が、テストで首位を明け渡した時だよ」
早見坂が、その事実をようやく受け留めたようだった。
「それじゃまさか、クローン人間っていうのは……」
やっと気付いたのかとでもいうように、桐生が目の奥で嘲笑った。




