終 章 12月(3)
いよいよ終章に入りました。
ここまでのお付き合い、ありがとうございます♪
最後まで楽しんで頂ければと思っています。
小春は、たった一人で星杜学園を守りきることができるのでしょうか!?
☆☆☆
星杜学園は、とうとう12月24日――時満ちる日を迎える。
一晩中眠ることができなかった私は、頭の中でぐるぐると同じ事を考えている事しかできなかった。決して一番上の階にはたどり着けない螺旋階段のように。
(眩暈がする)
自分で選んで星杜学園に進学したはずが、実は大きな力に引き寄せられたのだと告げられ、これから学園内に起こるだろう事件に否応なく巻き込まれていくだろうと、占研の小林に透視されたあの日から。
(本当にいろいろな事があった)
寮祭のゴール寸前に、私の身に起こった不思議な出来事や、それについて鈴木さんから受けた忠告。
真夏の暑さに倒れそうになりながら友哉と麻莉子と3人で探検した閉鎖棟。そして、そこで発見した初代学園長の日記と、その日記に書かれていた星杜学園の秘密やクローン人間の生成実験の話。
私の持つ不思議な力が、星杜学園を救うために必要なのだからと近付いてきた生徒会長の早見坂と桐生。生徒会室で聞かされた龍脈や龍穴、龍底の話、そして私の力にまつわること。また、その生徒会室には不思議な力を発する石があって、そこから始まった私の修行の日々。
早見坂家と桐生家の長い因縁物語、その結果起きているクローン人間生成実験に関する認識のズレ。
途中、陣という生徒が発布した校則によって中庭に出現した五芒星の形に、桐生と私は、陣聡介という人物がクローン人間である可能性が高いと睨んだ。その逆五芒星を逆に見るならばで、それは悪魔の力を連想させる形だと認識したあの日。
そして一番重要な事――それは、アステール星が地球に近付く年に、龍底が発現すると言われていて、今年がその年にあたるということだ。
早見坂家では、それによってクローン人間生成実験が完成するかもしれないという危惧を抱いていて、なんとか阻止しようとしている。
その一方で桐生家では、クローン人間生成実験は成功したと伝えられており、さらなる力を得ることで、世の中にクローン人間という存在を認めさせ、己の力を誇示しようとしていた。ただし桐生本人は、桐生家の思いとは一線を画している。はずだ。
(いよいよ今日、何かが起きる。100年前にも現れたはずの龍底が出現する)
それなのに。
体調万全で臨まなければならない今日だというのに、眠れなかったこともあって身体がなんとなくだるい。でも、その最大の原因が他にあることは、私自身よく分かっていた。
(とうとう、気を具現化させる方法を会得できなかった……)
自分のものにできなかった事で、どれほど私が落胆し、焦燥感を感じていることか。
(こんなんじゃ役に立てないよ……)
とはいっても、仮に具現化させる事が出来たとして、それをどのように使えばいいのかなんて、桐生は教えてくれていない。
(って事は、出来ても出来なくても、結局のところはそう変わらないって事と同じかぁ)
そんなふうに自分を慰めてみたりもする。
桐生が、2人での修業を終わりにすると言ったあの日、卒業祝いだと言って、気を具現化させた光景が蘇ってくる。あの日、桐生は私の目の前に、優しく微笑む、亡くなった母の姿を出現させた。今にも私の名前を呼ばんとする母がそこに立っていたのを、私はこの目ではっきりと見た。
(そもそも、そんな大それた力を、私なんかが短期間で習得できるはずがなかったんだ)
桐生に合わせる顔がない。
しかし、そんな桐生とは入院したと聞かされた日からずっと連絡がとれないままで、紛失した石の存在も要として知れない。修行であれだけエネルギーを蓄積したにも関わらず、その気配さえも感じられないということは、すでに学園内に、石の存在は無いのかもしれない。
(友哉)
(麻莉子)
そして私は、昨日の3人でのランチを思い出す。
『小春ちゃ~ん、今日はぁ、クリスマス・イブイブランチ会をするんだからねぇ~』
『クリスマス・イブイブランチ会?』
『ぼく、腕をふるっちゃいましたよー』
断ることは許さない、という勢いで二人に囲まれ、突然に始まった豪華で楽しいランチ会だったが、その裏に含んでいる意味を、私たち3人は分かりすぎるほど分かっていた。
楽しいおしゃべりや、友哉特製のランチメニューは、明日に向かう私への壮行会。
『小春ちゃん、忘れないでよねぇ。どんな事が起きたって、私たちはずうーっと仲良し3人組みなんだからねぇ』
麻莉子は、にこにこしながらそう言って、ジュースの缶を持ちあげると、
『そうですよ。小春さんは一人じゃありませんからね』
そう言って、友哉も最高の笑顔で缶を手に取った。私が缶ジュースを持ちあげると、友哉と麻莉子は、自分たちの缶をコンと打ち合わせてきて、3人で大きく頷いたのだった。
(何も言わなかったのに)
友哉と麻莉子には、私が必至に何かを隠そうとしていた事なんて、とっくにお見通しだったのかもしれない。私が、あえて2人を遠ざけようとした事も知っていて、何も聞かずに2人は私を遠くから見守っていてくれたのかもしれない。
(私の事、信じてくれてるんだ)
私はベッドから半身を起こした。
「寒い……」
室内にしんと張り詰めている冬の特有の空気の冷たさに、身震いをヒトツする。だがそれは、単に寒いだけの震えだけでは、決してなかった。目の前で起ころうとしている何かに、私はどうしようもない恐れを抱いていた。
自分の腕を両手でさすって暖めながら、これまで心の奥底に押し隠していたはずの、底なしの不安や恐れが、急速にせりあがってくるのをどうする事もできずにいる。
この先のシナリオは、小林の透視したように進んでいくのだろうか。あの日、小林はどんな結末を見たのだろう。その中で、私は、どうなっていたのだろう。
(まだ15歳の女子高生だよ……)
星杜学園を救う責務を負っているなんて、ありえない。
(怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い……!!)
本当はずっと逃げ出したかった。自分が役に立てるなんて、本当は一度も思った事なんてなかった。
小林の透視だって、信じたくなかった。私は、ただ楽しく高校生活を送りたい、平凡な一人の女子高生なんだ。
(なのに)
ここまで来てしまった。
(それでも、私が選んで歩いてきた結果なんだ)
最初に私を巻き込んだ桐生とは、あれから連絡がつかないままで、早見坂は事情を知っているところで特に何ができるワケでもなく、小林はどこかからか息を潜めて静観しているだけで、友哉と麻莉子は絶対に巻き込みたくなかった。
折れてしまいそうなこの心をまるごと受けとめてくれる存在が、今の私にはないのだ。
(お父さん。お母さん)
「波原さん? もしかして、もう起きてる?」
ふいにベッドの下段から林さんに声を掛けられる。
「え? あ、うん」
私は、なんとか返事をする。
「やっぱりね! 何か楽しい事がある時って、波原さん、いっつも早起きだもんね!」
「あ、そ、そうだったね」
「実はね、私もすごい楽しみなんだ~。創立記念前夜祭の今日は、なんたってクリスマスイブ! ロマンチックだよねー」
林さんの声は、朝からとても弾んでいた。
(林さん……まだ陣と付き合ってるのかな)
あの校則が発布される時に、林さんが陣に頼んだという大福グッズ。
なぜ私は、その真相を林さんに聞かなかったんだろう。聞いていたら、もしかして何か別の道が拓けたのだろうか。
(林さんの付き合ってる相手は、クローン人間……?)
ささいな事が大きな足かせになるような、重大な分岐点を見誤ったような、そんななんともいえないイヤな感覚が私の身体中に広がっていった。
(……?)
些細な、けれども重要な何かを見落としてきたような気がして、私は身震いをヒトツした。




