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第9章  12月(2)

クリスマスの時期になりました。

物語は、もう少しで終息をみます。

クローン人間が求めているものは何なのか?

小春たちは、星杜学園を守りきる事ができるのか?


どうか最後まで、おつきあい下さいますよう。

☆☆☆

 12月に入ったある朝、中庭の中心部に高さ3mもあるような巨大なクリスマスツリーが出現していた。いや、一夜にして本当に突然に出現したのだ。

(こんなこと、ありえるわけ?)

 中庭を取り囲むような五角形の廊下、その廊下の窓から私はクリスマスツリーを眺めている。

 まだ飾り付けが施されていないツリーを窓越しに見上げながら、クリスマスイブがXデーなのだと頭では分かっているつもりでいても。

(ワクワク感があふれてくるのは、許してあげてもいいんじゃない?)

 そう思ったって、誰も私を責めたりしないだろう。


「どうだ、なかなか立派なもみの木だろう?」

 すぐそばに忍者のように音もなく現れた早見坂に、ちょっとばっかり驚く。

「あ、会長……いきなり話しかけられたのでビックリしましたよ」

「それは失敬、失敬。それにしても小春くん、どうだ、今年のツリーは。なんといっても100周年記念だからな、思わず力が入ってしまった」

 早見坂がこの木を育てたわけでも、運んできたわけでもないだろうに、やけに得意げなのが面白い。

「力が入る……はぁ、そういうもんなんですかねぇ」

 早見坂は、中庭の木を見上げて、すっかり悦に入ってる。そんな早見坂を、横目で見ながらの返事になったが、私には他の答えは思いつかなかった。

「ところで、会長。あの木ってどうやって運んだんです?」

「うむ。ま、なんと説明したらいいものか……それはだな、小春くん。聞かないのが暗黙のルールではないのか?」

「はぁ?」

 この学園には、暗黙のルールがどれだけあるというのだろう。


「ちなみに、小春くんのクラスでは、オーナメント用の玉はもう配られたかな?」

「ハイ、数日前にクラス委員が配っていました」

「その時に、オーナメントの説明もあったと思うが」

 クラス委員の説明によると、クリスマスツリーのオーナメントは、金色や銀色の丸い玉と電飾のみで、その丸い玉は全校生徒に一つずつ配られ、各自で下げるらしい。しかも、このオーナメント用の玉は、来年度のミスター&ミス星杜を選出する『投票玉(?)』としての役割も兼ねているらしく、上部には長さ3㎝程度の細長い穴が開いていた。ここからミスター星杜・ミス星杜にふさわしいと思う男女各1名の名前を書いた紙を入れるとのこと。集計した結果に基づいて、来年度のミスター&ミスが決定されるしくみだ。

「やはり、ミスターやミスがいるのといないのとでは、学園の生徒たちの覇気にも多いに影響が出るからな」

「覇気……ですか」

 ミスター星杜やミス星杜の存在は、早見坂が言うほど生徒たちに影響はあるんだろうか。一度アンケートをとって確認してみたいものだ。

「昨年の前夜祭では、まだ1年だった琴音が、圧倒的な投票数で選出されたが、まぁ至極当然の結果ではあったな」

(要するに、ノロケですか?)

「そういえば、会長。今年のミスター星杜って誰なんですか? 私、そういう事には興味がないので、よく知らないんですよね」

 なにげにした質問だったが、早見坂の癇に障ったらしくて雲行きが怪しくなる。

「今年のミスター星杜など、ミス星杜のレベルに比べれば雲泥の差だ。あいつが、琴音と並ぶ姿を見ているだけで、私なんかは琴音が不憫に思えてしょうがない」

「でも、会長はミスターには選ばれなかったんですよね?」

 私が一言多いのは昔からなんだけど、早見坂の顔が一瞬歪むのを見て、自分の失言に気付く。

(やばっ!)

「む。ま、まぁ、結果だけを取り上げて論じるならば、そういうことにはなるが……しかし、だな」

 と、珍しく早見坂が言い訳がましい発言を繰り返しているところへ、噂の藍原さんが、小走りでこちらに近付いてくるのが見えた。そばまで来て、早見坂に話しかける。

「会長、こちらにいらっしゃいましたか」

 二人っきりの時はどうだか知らないが、藍原さんは、人前では副会長の立場を崩すことは決してしない。そのあたりは好感がもてる。

「あぁ、琴音。今、おまえの話を、小春くんに聞かせていたところなんだ」

「まぁ。まさかお二人で、私の悪口を言ったりしてたんじゃありませんよね」

 そんな事が絶対に無いことを分かっていて、藍原さんはわざとそう言う。愛情の表現は、人それぞれなんだなぁ、なんて思いながら2人を眺める私。

 早見坂は、誰にも見せないような笑みを浮かべながら、軽く藍原さんのおでこを指でつついたりしてる。

(もしもし? 他の生徒さんが見てたら、暴動が起きますが。いろんな意味で)

 私がいるにも関わらず、藍原さんが要件を切り出す。

「それよりも会長。お耳に入れたいことが」

 すぐに2人の間の空気が普通に戻った。

「うん? 生徒会室へ戻った方がいいんなら、これから戻ってもいいが」

「あの、あたし、これで失礼します。近くには誰もいませんし、わざわざ戻らなくてもここで、どうぞ」

 私だって、気の一つや二つは遣えるところを見せたつもりだった。

(いつまでも、ニブイなんて思われてるのも癪に障るしさ)

 だが藍原さんの言葉は。

「いいのよ、波原さん。あなたにも一緒に聞いて貰った方がいいから」

 その言葉を聞いた瞬間、私の心臓がドクンとはねた。私も聞いておいた方がいいと言うのなら、それは。

(あ、私……)

 今だに、気の力を具現化させる事ができない事実を、2人には伝えなければならないだろうか。

(できないままだったら……どうしよう)

 そんな怖いことは考えないようにしたいけれど、現実にはもうほとんど時間がないところまできている。


「実はですね、会長。生徒会室に置いてあった桐箱が見当たりません。今朝からずっと探しているのですが、みつからないままです」

(え――? そんなバカな!)

 私の動揺は、尋常じゃなかった。具現化させる方法を会得できなくても、石にエネルギーさえ蓄積しておけば、石がなんとかしてくれるなどと、そんな他力本願的な気持ちが私の中にあったからだ。

「あ、藍原さんっ! あっ、あの、昨日の帰りまでは確かにありました! 本当です! 修行を終えた後、あたし、きちんと元の場所に戻しました! その事は間違いありませんっ!!」

(どうして、どうして、どうしてっ!!?)

「まてまて。小春くんが紛失させたなどと誰も言ってないだろう。落ち着きたまえ」

 私の心をなだめるように、早見坂がゆっくりと優しく言葉をかけてくれる。

「会長。それと、もうひとつお話ししたい事があるんですが……」

 藍原さんが逡巡する。

「なんだ」

「あの……私の勘違いなのかもしれませんが……桐生くんの様子がおかしいんです」

 早見坂が眉をひそめる。

「誠也が、おかしい? それはどういうことだ、琴音。具体的に話してみろ」

「はい。実は先ほど桐生くんを見かけたのですが、雰囲気がまるで別人のようでした。会長もお会いになれば分かると思いますが、紛失した石の件について話そう思ったのに、話しかける事はおろか、近寄る事さえ私にはできませんでした。あの拒絶感は、どう考えても普通じゃありません」

「誠也に何かあったんだろうか?」

「詳しい事はなんとも……」

(桐生が、おかしい?)

 妙な胸騒ぎを覚える。

「こんなふうには思いたくないが……誠也のおかしな態度と照らし合わせると、あいつが桐箱ごと石を持ち出した可能性も出てくるってわけだな」

「私も悪い考えがどんどん沸いてきて……。石の存在は限られた人間しか知りませんし、石の紛失と時を同じくしての桐生くんの変化を考えてみると、可能性は低くはないんじゃないでしょうか」

 早見坂が黙って何かを考えている。

「ったく、なんだってこの大事な時期に、あいつはわけのわからない事をやってるんだ!?」

 私は黙っていられなくなる。

(別に、桐生をかばおうとするわけじゃなくて、可能性の話をするだけなんだから)

「でっ、でも、でもですね、会長。桐生が石を持ち出したと決まったワケじゃありませんよね。何か他の理由で、様子がおかしかったんじゃないですか?」

 早見坂が驚いたふうで、私の顔を見た。

「あっ、ああ、確かにそうだな。結論づけるには早急過ぎた。事が事だけに、私とした事が、つい短絡的な考えを起こしていたようだ」

 早見坂は、意味ありげな表情で私を見ると

「持つべき者はフィアンセということか。今度誠也に会った時には、小春くんの今の言葉を伝えておこう」

「……結構です」

「しかし、今の小春くんの様子じゃ、小春くん自身も、誠也の事は何も知らなさそうだな」

「はい、特には……」

 というか、桐生と私の関係なんて、今現在はほとんど接触もなければ繋がりもないくらいだ。桐生をかばいたいわけではない。でも、どうしても重苦しい、嫌な感じが後から後から噴き上がってくるようで、気持ちが悪い。


「誠也に連絡入れてみるか」

 早見坂は制服のポケットからスマホを取り出し、アドレス帳から桐生の電話番号をタッチする。

「なんだ? 電源を切っているのか……?」

 結局、桐生には連絡はつかなかった。


 私は、翌朝のHRで桐生が事故にあって入院した事を聞かされた。

 命に別状はなく、程度は軽いものの、本人の希望があって病院名などは公表しないと言う。

(教えないって、なんなのよ!?)

 

 この大切な時期にきて、いったい何が起こっているのか。

 いや。この時期だからこそ、いよいよ起こり出したと読むべきなのか。

 

 早見坂と私の焦燥感は日に日に増していったが、どうすることもできないまま時間は過ぎる。


 桐生の存在が、学園内にないということ。

 エネルギーを蓄積させていた石が、紛失したということ。

 気を具現化させる事が、今だにできないままだということ。

 そして、一層の不安定な学園内の気の流れ。


(婚約者に、何の連絡もなしって言うのは、どういう事なのよ!?)

 人というものは、時々に応じて、自分の立場を都合よく変える生き物なのかもしれない。



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