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第7章  10月(3) 

小春をとりまく状況が、めまぐるしく変わります。

一緒にドキドキして下さい(笑。

☆☆☆

 生徒会室で4人が話し合った日から数日、私は今日も桐生と修行に励んでいる。

 が、どうも桐生が変だ。いつものあの人を見下すような、人を小馬鹿にするような罵声が何一つ飛んでこない。私が将来的には桐生家の人間になる(フィアンセとしてでは、決してない!)事もあって、最近はちょっと優しかったりもしていたが、基本、修行内容は厳しかったのに。

 修行の成果があって、私は、とりあえずは大地の気と自分の気を共鳴させて増幅して、自分の中からその気を放出させるという作業については、ほぼ会得していた。そしてその放出した気を、桐箱に納められているあの石に直接蓄積させる事も、今ではたやすくできていた。そして、これまでに私が石に蓄積した気のパワーったら、もの凄い事になっていたりもする。

 が、哀しいかな、その先がまだまだ難しいのだ。

 次の段階で私が目指すべきは、放出させた気を具現化させる事なのだが、言葉でいうのは簡単でも、この技術を習得するのは、非常にハードルが高い。

 なかなか会得できないでいる私に対して、石に気を蓄積させる事も怠らないようにと、桐生には言われ続けていた。桐生いわく、最後の時にはこの石が我々を守ってくれるのだそうだ。

 確かに、これだけ毎日私が気を蓄積しているわけなんだし、たかが石とはいえ、ここぞという時には、どでかい事をやってくれそうな感じはヒシヒシとする。


 石に気を蓄積しながら、私は桐生に話しかける。他に何かをしながらでも、石に気を蓄積できるくらいの余裕ができたって事は、すごい進歩だ。

「桐生、あのさ」

「うん?」

「話したい事があるんだけど」

「わかってる」

「ふぅん、わかってるんだ?」

「それで小春、おまえはその件に関連して、何か自分では調べてみたのか?」

「あっ、う、うん。ちょっとぐらいはね」

「なら、それ以上に何を話したいんだ?」

 私の周りには、私が思っている事や話そうとしている事を、私が口に出す前から分かっている人間が多い。やりにくいったらありゃしない。

「う……。あの、調べてはみたんだけどね。調べてみても、あの時の桐生がなんであんなに動揺してたのかが、どうしても分らなくて」

「そうか。あの時、おまえは俺を見ていたというわけだな」

「まぁ、ね」

「五芒星、か」

 一言つぶやいた桐生がそばに寄ってきて、石に気を蓄積していた私の手をいきなり握った。

「きゃっ」

 突然の事に驚いた私は、反射的に手を引っ込める。と同時に、それまで集中していた気がぱっと霧散した。

「ほぅ、なかなかかわいい反応だな」

(こっ、この場面で嫌がらせをするってか!?)

 が、桐生の瞳は拍子抜けするほどに優しかった。

「調べたのなら分かっているとは思うが、五芒星にそれほどの重要な意味はない。洋の東西を問わず、5つの要素を図案化したものとして古くから使用されている形というだけだ。それに5つの要素というのも、さまざまだしな」

 私は気を取り直して、疑問に思っていた事を聞いてみる。

「それなら、なぜ桐生はあんなに動揺してたの?」

「小春。逆さに五芒星を見る時には、実はそれは守護と反対の意味を示すことになるんだ。逆五芒星は、悪魔を降臨させて魔の力を得るとも言われている」

(魔の力……?)

「小春」

 桐生から、小春と呼ばれる事にも慣れつつある今日この頃。

「なに?」

「陣聡介は、クローン人間……だと思うか」

「!!」

(そっちですか!)

「びっくりさせないでよ、桐生。いきなりの核心に迫る質問なんだもん。うーーん、私は、そう思ったんだよね、話を聞いていた時に」

「まぁ……やっぱりそう思うよな」

「でもさ。早見坂や藍原さんは、クローン人間の実験が成功したって知らないから、陣っていう人がクローン人間だなんて事は、夢にも思っていないんだろうね」

「……」

 しばらく気まずい沈黙が続いた後で、ぼそっと桐生がつぶやく。

「なぁ、小春。クローン人間は、悪なんだろうか? どうしても、その存在は許されないんだろうか?」

(桐生、今さら何?)

「クローン人間だったとしても、ごく普通に平凡に生活しているのなら何が悪いというんだ? 本人が、クローン人間として生まれたくて、生まれてきたわけじゃないというのに」

「桐生……何かあった?」

 桐生の顔が歪む。

「あぁ、すまない。俺は……本当にどうしたんだろうな」

(桐生の感情が揺れている?)

 桐生家の人間だから、曾祖父の実験に対して本当は肯定的なのかもしれないと、私の中に疑念が生まれた瞬間でもあった。


「小春」

「なに?」

「俺との修行は、今日でおしまいにしよう」

「えっ?」

(何で突然に!?)

「気を具現化させる修行は、これからおまえ一人で取り組んでいくしかないんだ。俺が教える段階は終わった。あとはおまえの努力次第だな」

「いきなり、そんな事、言われたって」

「小春、時はもう近いぞ。気を抜くことは許されない」

「桐生、なんで突然そんなこと言いだしたの?」

 桐生は私の質問には答えない。

「小春。今日で最後だから」

「最後だなんて、勝手に決めないでよ!」

「特別におまえに気を具現化する瞬間を見せてやろう。これまでの修行に対する、俺からの卒業証書だ」

 言い終わるか終らないうちに、桐生がすっと精神統一に入っていくのが分かった。

「桐生、私の話もちゃんと聞いて!」

 私の言葉は届かない。

 

 桐生が、地の気と共鳴する時間はあっという間だった。そして私は感じる。

(この気は……私の気とは違う)

 桐生が操る陰の気とは、こういう感覚なのだろうか。

 目を閉じた桐生の内側で、今、まさにパワーが増幅されている。そして、桐生の手がすっと前に差し出された。

「おまえにだけ見せよう」

 そう言った桐生の指先からものすごい勢いでエネルギーが放たれていった。そのエネルギーはやがて渦を巻き、熱を放ち、私の目の前で少しずつ形をなして、彩色されていく。

 私は、自分の目の前で起きている事が信じられないでいた。

 困惑。驚愕。唖然。畏怖。


(桐生は。桐生は、これほどまでの力の持ち主だったのか……!)

 

 桐生が私にだけ見せると言って具現化させたものが、完全な形を成して、私の目の前に立ち現れた。

「こっ、この姿は……」

 自分の目からあふれ出る涙をぬぐう事さえも忘れて、私はその場で放心する。

「いいか、小春。具現化したといっても、瞬間のまぼろしと何も変わらない。気が途切れてしまえば、そこまでだ」

 桐生のその言葉とともに気の気配が瞬時に消えていき、私の目には先ほどまでの生徒会室の光景が再び戻ってきた。


「小春、忘れるな。おまえだけが頼みの綱だ」

「そんな事、言われても……」

「それと。最後におまえに贈りたい言葉がある。小春、受け取ってくれ」

「桐生、最後って、いったいどうい意味?」

「『たったひとつの希望があれば、どんな未来へもたどりつける』」

 桐生の腕が下がっていく。

「きりゅう?」

 桐生が、私に微笑んでいる。

(そんな顔、そんな顔、私はこれまでに一度だって見たことがない!)

「桐生!?」

「俺は今日はこれであがるが、小春は引き続き修行をするように。明日からは同席しないが、いいか、俺がいないからってさぼるなよ」

 それだけ言うと、桐生は私に背を向ける。

「待ってよ、桐生」

 既に桐生は、生徒会室のドアを開けていた。

「桐生、お願い。私を一人にしないで!!」

 叫んだ私の言葉は、はたして桐生に届いたのだろうか。振り向きもせずに、桐生は廊下へ出て行ってしまった。後には、私一人が生徒会室に取り残される。


(桐生まで)


 そうか。私は誰にも頼らず、己の意思で未来に突き進まなくてはならないんだ。それが例え、結末の決まっている未来なのだとしても。

 私は息を深く吸い込むと、これから起こるであろう事に立ち向かう気構えを、今一度自分の中で固めた。


(この波原小春。課せられし我が運命、とうに受け入れている!)


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