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第6章  9月(3)

とうとう桐生が小春に……(笑。

そして、星杜学園に流れる月日の経過とともに、事件もどんどんと核心に迫っていきます。

さぁ、物語も後半にさしかかっていき、盛り上がっていきますよ~^^

☆☆☆

 数日後の放課後、3年生の期末テスト主席情報の第2弾が麻莉子から入ってきた。友哉と私はウチワを持ってあおぎつつ、麻莉子の話に聞きいっている。もちろん、話す麻莉子もウチワでぱたぱたとあおぎながら。

 その日は、雨模様ではあったが、そのせいで湿度がぐんと上がり、気温もそうだが不快指数もいっそう高い。

「それでねぇ、今回の一番は陣聡介って人なんだってぇ~。成績順位は貼り出されないからはっきりとは分からないんだけど、普段は30番以内に入った事もない人みたいなんだよぅ」

(だから麻莉子。出ない成績順位の事まで、なにゆえキミは知っている?)

「そうなんですか、確かにそれは凄いことですよね。たいてい1番とか2番の人って、ちょっと他の人とは頭の作りが違うっていうか、どうやってもかなわないって感じじゃないですか。雲の上の人だから、最初から度外視っていうか。それなのに、いきなり30位以内にも入らなかった人が1番になるなんて、普通ならありえませんよね」

(そんな1番や2番を、友哉は狙っているんじゃんか)

「ん~~~、たしかにねぇ~。見た感じだって、どこにでもいそうなフツーなタイプで、そんな賢そうには見えなかったしなぁ~」

「え? 麻莉子、あんた、もうはやその陣っていう人を見てきたの?」

「うん、見てきたよぅ。情報通の麻莉子をなめないでよぅ~」

 この行動力がなければ、情報も集められないということか。

「それとねぇ、この陣聡介って人、小春ちゃんのルームメイトの林さんと付き合ってるみたいなのぅ」

「へぇ~、そう?」

 林さんが誰とお付き合いしようが、私には何の関係もないことだ。

「で、麻莉子ちゃん。いったいどんな校則が発布されることになるんでしょうか?」

「それはねぇ、次回発行の星杜新聞に掲載されることになるんだけどぉ」

 そう言うと、麻莉子は、次回発行とやらの星杜新聞をガサガサと取り出した。

(だから麻莉子。発行前の星杜新聞まで、なにゆえキミは入手している?)

 新聞の第一面を飾るデカデカの文字が目に入ってくる。


『学年トップに陣聡介さん!!』

『校則発布される!』


「なになに……えっ、これが校則?」

 波風が立つような、学園中で問題視されるような、そんな校則が発布される気構えでいた私は、大きな脱力感を覚える。

「『中庭を星型に歩いて大福グッズをゲットしよう!』なんなの、これ?」

「これって新聞部とタイアップってことなんでしょうか。大福グッズなんて、勝手に制作できないでしょうし」

「それがねぇ、陣さんって人の彼女、つまり林さんなんだけどぉ。彼女のリクエストみたいよぅ~。彼女さんが、大福グッズを手に入れたくて、彼氏さんにお願いしたんだってぇ~」

(麻莉子、そんな事まで……)

「そういえば、いつだったか、2年生の掲示板に大福グッズが掲示されたとかで、大変な騒ぎになったことがありましたもんね。ってことは、大福グッズは存在しているわけですし、存在しているのなら欲しくなる気持ちもわかりますね」

 それを貼ったのは私で、その大福グッズは占研の小林本人から貰ったものだ。今回の事って小林は許したのか?

 ……などと私が心配する必要なんてないんだろう。

 小林は新聞部に占いを提供しているんだし、今回の件についても、事前に新聞部から何らかのアクションがあっただろう。星杜新聞に掲載された以上、小林も納得しての事だと考えても間違いないと思われる。


「でねぇ、麻莉子は、もうちょっと陣聡介って人のことをリサーチしてみようかと思ってるのぉ。なんだかねぇ、とぉーーーーってもスクープの匂いがするんだよぅ~」

 久しぶりに麻莉子に闘志がみなぎっている気がする。

「でも、麻莉子ちゃん。仮にその陣って人がカンニングして1位になったんだとしても、カンニングの証拠は見つけられないと思いますけど」

「うーん、確かにそうなんだけどねぇ~。でも、麻莉子の勘が何かを囁いている以上、情報通の麻莉子としては、どうしても確かめずにはいられないっていうかぁ、血が騒ぐっていうかぁ~」

 そんな麻莉子の言葉を聞いていた友哉と私は、ヤレヤレまただよ、そんな意味合いのアイコンタクトを交わす。


『中庭を星型に歩いて大福グッズをゲットしよう!』という校則は、全校生徒がこぞって守る校則となり、限定の大福グッズがあっという間に在庫無しとなったのは、言うまでもない。



☆☆☆

 今日も今日とて、私は桐生と修業している。


(何かが変だ。何かがおかしい)


 私に対する最近の桐生の態度が、今までとなんとなく違うように感じるのは、私の間違いだろうか。

「……ということで、お前が増幅した地の気を開放、つまり放出させる時に……」


(何か重大な事があったような気もするけれど、それが何だったのか思い出せないというか、思い出してはいけないような気もする)


「……みはら。おい、波原」

 私の内側で、地の気が膨張を始めている。

「おいっ。俺の話をちゃんと聞いているのか」


(ヤバイ、何かを思い出しそうな……)


「波原。波原っ!」

 条件反射的に、パワーを放出する段階に移行していく。


「小春っ!!」


「えっ、ええーーーっ!?」

 いきなり名前を呼ばれて現実に意識が戻った途端、それまで溜めていた力が私の中からしゅうぅぅっと霧消していく。

「桐生、なにぃぃっ? 今の呼び方!?」

「なにぃ、じゃないっ! 上の空で俺の話なんてろくに聞いちゃいないし、いったい何を考えてたんだ?」

「何って……あっ、い、いや、その、なんていうか桐生の態度がね……。ううん、な、何でもないよ」

「なんだ? 頼むから、せめて俺が理解できる日本語で話してくれ」

「う~~~~。だから、あのさぁ」

「だから?」

「だからね。その……下の名前では呼んでほしくないっていうか……」

「下の名前?」

「それにさ、だいたいにおいて、呼び捨てっていうのはありえないじゃん」

 ふっと桐生が不思議そうな顔をした。

「なんでだ?」


(なんでだ、って、それこそなんでよ?)


「なんでって……だってさ、桐生にそう呼ばれる理由なんて、あたしにはないし」

 その言葉を聞いた桐生がふっと笑うのを見た瞬間、私の全身に警戒警報が響き渡った。

(えっ!? 地雷でも踏んだ!?)

「ほぅ、理由だと?」

(このまま聞いても良いのか!?)

「ならば聞かせてやろう」

(聞いちゃいけない!)


「フィアンセが相手の名前を呼ぶのに、なにか理由がいるのか?」


(あーーーーーーーーーーーーーーーーーー……!!)

 すーっと血の気が引いていき、封印していた記憶が蘇ってくる。

(あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ)

「まぁそうだな。この際だし、これからはお互い名前で呼び合う事にするか。俺の事も名前で呼んで貰って構わないぞ。近い将来、同じ苗字になるんだし、いつまでも苗字を呼ぶっていうのもおかしいだろう」

「……」

 

 ニホンゴ、リカイデキマセン。


 そんな時だった。生徒会室の扉がガラリと開き、早水坂と藍原さんが入ってくる。

「誠也、ちょっとじゃまするぞ」

「あぁ、構わん。ちょうど一区切りついたところだ」

(一区切りついたんですかっ!?)

「波原さんと桐生くん、毎日お疲れ様。学園の未来をお二人の働きにお任せするしかないなんて、本当に心苦しいわ。私たちには何もできなくてごめんなさいね」

 そう言いながら藍原さんが冷たいジュースを差し入れしてくれる。

「誠也、例の詩のことなんだが、今日は小春くんも交えて、ちょっと意見交換をしてみようと思ってな」

「早水坂家に伝わる、例の詩のことだな」

「あぁ、そうだ」

(早水坂家に伝わる詩?)

 『詩』という単語に反応したのは、初代学園長の日記にも意味のよく分からない詩が書いてあったのを思い出したからだ。

 と、早水坂たちの登場のおかげで新たな展開になり、それまで桐生と話していた事をすっかり頭から追い払ったというのに、再び。

「小春、おまえにも聞いて貰いたい詩がある。」


(うぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!)


「あらっ? 桐生くんが波原さんのことを『小春』って……」

 あのー、藍原さん。早水坂の耳元で囁いているつもりなのかもしれませんけど、すみませんけど、だだ漏れですから。全部聞こえてますから。

「琴音、そういう事はさらっと聞き流すのが大人の気遣いというものだ」

「うふふ、そうよね。突然のことで驚いちゃって」

 そういって二人、いい感じで意味ありげに目配せしている。

(なんとでも言って下さい(泣))


 それから早水坂は一枚の紙切れをテーブルに置いて私の方に差し出す。何かからコピーしたもののようだ。そして桐生が。

「小春、読んでみろ」

 その呼ばれ方には違和感・抵抗感大有りだったけど……とりあえず私は差し出された紙に目を通す。


  約束の星が近づき、深きに眠れる力は覚醒する

  互いに呼び合うものが無となりし時、大いなるもの発露せり

  そが目覚めしより、生は生に、死は死へと返り

  新たる100年の時を刻み始むるなり


 果たしてそれは、私の想像した通り、あの日記に書いてあったのと同じものだった。

「どうだろう、小春くん。この詩を読んで何か思いつくだろうか? 100年前、約束の星が近づいた時、初代学園長が石板を発見して、この星杜学園を創立した。そして100年後に約束の星が再び近づく時には、眠れる力も再び覚醒して、何かが起きそうな気がしないだろうか。どうだろう?」

 私は、友哉に読み解いてもらった日記の内容を、麻莉子と二人で聞いたあの日の事を思い出していた。もうずっと遠い昔の事のようでもある。

 初代学園長は、桐生のひいおじいさんにあたる人と一緒に、100年前に発見した石板に刻まれていた方法に従って、クローン人間の生成実験に取り組んだ。学園長の日記には、生成実験は途中で止めたと書かれてあったが、私の尊い犠牲の上で知り得た貴重な事実としては、桐生家にはクローン人間の実験は成功したと伝わってきている。

「うーーん、そうですね。この詩を読むと、確かにアステール星が近づく今年中には何かが起こりそうな感じを受けますよね」

 始めて訪れた占研で私の未来を透視した小林から、これから学園内に大変な事件が起こり、私が巻き込まれるのが見える、そしてそれは私の運命だとも言われた。

(入学してからずいぶんいろんな事があったなぁ)

 などと私が思っていた時だった。

 その場にいた桐生、早水坂、藍原さんが息を飲んだ。そして、すぐに私は、早水坂に肩口を掴まれて鋭く問いかけられる事となる。

「小春くん。今、なんと言った!?」

(……?)

「え? えーーーーと、あたし、なにか変な事言いましたっけ……」

「小春、おまえ」

 桐生も絶句している。続いて、藍原さんも。

「波原さん、どうしてアステール星の名前を……」


(あぁぁっ!! やっちまった!!!)

 

 私は『約束の星』の名前を、ポロリと漏らしてしまったという失言にようやく気付いた。どう腹をくくるべきか。

「小春、おまえ、何か隠し事してるな?」

「い、いや、隠し事っていうかね」

 冷や汗がどっと吹き出る。波原小春、絶対絶命。


 結局、私は日記について発見したいきさつから、友哉に解読してもらった内容に関してまで洗い浚い話すハメになってしまう。この3人の追及をかわせる人間がこの世にいるとするならば、是非ともお目にかかりたいものだ。

「なるほどな。そういえば一時期、おまえたち3人から陰の気を感じたことがあったが、そういう事があったってわけか」

 おまえたち3人というのは、もちろん友哉と麻莉子だ。

「小春くん、その日記というのは、今は紫月くんが持っているんだね」

「はぁ。失くしていなければ、今でも持ってると思いますけど……」

 だが、日記の話がいまさらこの3人にバレたところで大勢に影響はない。早水坂からも桐生からも重要なハナシは既に聞いている。

「そうか。小春くんがクローン人間の生成実験を知っていたんなら、あえて隠す必要もなかったわけだな」


(早水坂会長。桐生はその部分でアナタに隠し事をしてますが……)


「そして、その日記の最後には、先ほどの詩と同じものが書いてあったわけだ」

 桐生に確認されて、しょうがなく答える。

「一言一句覚えているわけじゃないけど……ほぼ同じだと思う」

「小春くん。学園長の日記は、私に、というか早水坂家に戻してもらっていいだろうか」

 命令形じゃない早水坂なんて、ビックリだ。

「嫌だという権利は、私にはありません」

「小春くん、ありがとう」

 早水坂が本当に嬉しそうな顔をしたので、人助けをしたような気分になった。 

「今日は奇せずして小春くんから初代学園長の日記というファクターの提示があった。私はすぐにこの日記の入手算段にとりかかるつもりではいるが、小春くんからの話を聞く限り、この日記には目新しい事は特に書かれていないように思われる。今後はクローン人間の実験についても、小春くんに隠す必要も無くなった」

 

 桐生が、クローン人間の生成実験が成功した事を早水坂に告白する日は、はたして来るんだろうか?


「今日は時間も遅くなったことだし、最後の詩についてはまた機会を改めて話し合う事にしよう」

 

 いつの間にかけっこうな時間が過ぎており、その日は解散となったが、寮までの距離を、桐生が私の横を当然という顔で歩いていて、すれ違う生徒の視線がやけに気になった私だった。


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