第6章 9月(1)
小春は相変わらずおとぼけで、麻莉子もけっこうおもしろかったりします。
3人が、なかなか良い味を出し合っている中に、桐生が……?
どんどんハナシは進んでいきますよ~!^^
☆☆☆
早水坂と桐生の会話の後、私はいろいろと考えを巡らせていた。というか、考えずにはいられなかったというのが正解だろう。
早水坂家ではその実験は成功していないという認識でいるが、桐生家では既に実験は成功済みという認識であり、両家とも100年後の今年は地の気が増す年に当たるため、今でも続けられているはずの実験が、その力を利用してさらに大きな何かを引き起こすと考えている。
その大きな何かというのが、早水坂家ではクローン人間が誕生する事ととらえているようであり、桐生家では……。
(あれ?)
今、思い返してみると、100年後に起こるだろう事については、あの時、桐生は何も触れなかったような気がする。
(もしかすると桐生、大事な事を隠してたりしてない?)
それにしても。
クローン人間生成実験が成功していたとして、クローン人間はどこにいるんだろう。
想像したくもないけれど、クローン人間って、もしかして既にたくさん存在してたりするんだろうか。
(社会の中に紛れて生活していたりとか?)
それならば、桐生家では100年後の今年に、何が起こる事を期待しているというのだろう。
桐生は、いったい何を止めようとしているのか。
少しずつ分かってきたようで、でも結局はあまりよく分からないままだ。
桐生家の掟があるにしたって、どうして桐生はすべてを早水坂に打ち明けてしまわないんだろう。
(いっ!??)
そこで私は、とんでも無い事を思い出してしまう。確か、桐生家の話を聞く交換条件として、私は桐生家の人間になることを暗黙のうちに了解してしまったんだった。
でも、私の両親は既に他界しているんだし、桐生家と養子縁組を組むにしたところで、どうこう言う身内もいない。
(おじさんとおばさんは、哀しむかなぁ)
それと、もう一つ。
私が二人の話を聞いてから、心に決めた事がヒトツだけあった。
クローン人間の話が身に迫ってきて、それに伴ってクローン人間の完成以上のどえらい事が起きるかもしれないと分かった以上、もう友哉も麻莉子も巻き込めないという事だ。
今後は、早水坂や桐生と協力していく事が、最良の選択なんだろう。
私が力をコントロールできるようになる事や、その力を具現化させるようになる事で、なぜ対抗できるのかは全然私には分からないけれども、今は二人についていこう。
桐生にののしられても、今は生徒会室にある石に、私のパワーを蓄積する事に集中していこう。
(どうかXデーが、創立記念前夜祭でありますように)
その日に向けて準備をしていくため、できるだけ多くの日数を与えられるように、私は心から願った。
そんなこんなで、私の夏休みは過ぎていった。
☆☆☆
あっという間に暑い夏休みも終わり、新学期が始まる。実家に帰っていた生徒たちも、新学期に合わせて数日前から寮に戻り始め、同室の林さんも、友哉も麻莉子もみんな帰ってきた。
夏休み中、部活などで残っていた生徒たちも多かったが、寮棟にはまた本来の賑やかさが戻っている。 暑い夏休みが終わっても、まだまだ暑い日は続く。
新学期、一ヶ月ぶりで見るクラスメートたちの顔も懐かしいというもの。
そして、いつものように麻莉子の声で一日が始まる。
「小春ちゃんっ!!」
珍しく麻莉子の鋭い声が耳に入る。
私の姿を見つけた麻莉子は、息を切らせながら慌てて走り寄ってきた。気がつくと、麻莉子の後ろには顔面蒼白の魂の抜けたような友哉ももれなく付いてきている。
「麻莉子、いったいどうしたの!? その友哉の姿はいったい何!? どうして友哉はそんなんなのっ!?」
「ふぅふぅふぅ……」
麻莉子はこの暑さの中で小走りだったせいか、頭からは湯気が立ちのぼり顔も真っ赤だ。
友哉の蒼白な顔色とはあまりにも対照的な二人の姿に、私はなんとなくイヤな予感を覚える。
走り寄ってきた麻莉子の表情は、見たこともないくらい怖かった。
「小春ちゃんっ! なんで小春ちゃんは友哉くんと麻莉子に大事な事、隠してるのっ!?」
いつもはおっとりと話す麻莉子だが、今日は噛み付きそうな勢いだ。そのただならぬ様子に、クラスメートたちも、ちらちらと私たちを盗み見しているような気がする。
「ちょ、ちょっと麻莉子、とりあえずは落ち着いてよ。みんながこっち見てるよ。ちゃんと分かるように話してくれないと、隠し事って言われたって、なんの事だかさっぱり……」
そんな私の会話を途中でさえぎった麻莉子の声が、教室内に響いた。
「小春ちゃん、小春ちゃんはぁ。小春ちゃんは、この夏休み中に桐生くんと婚約の約束をしたんじゃないのぅ!?」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
私の反応は絶叫に近かった。そしてその絶叫と同時に、クラス中からも喚起の声が上がった。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
そして顔面蒼白の人物が、教室内にもう一人増える。その人物の名前は、仲京香。顔面蒼白な二人の目からは、大粒の涙がつつーっと溢れ出す。
「ちっがーーーーーーーーーーーう! 違う、違う、違う、違う!!」
私は大慌てで、全力で否定する。
「ちょ待って!待って、待って、待って!! 麻莉子、なんでそんな発言に至ったのか、順序だてて説明して!!」
絶叫した私だったが、麻莉子は机の上に星杜新聞をばーんと置く。
「これ、ここの大福占いコーナー、読んでみてよぅ。これは、小春ちゃんと桐生くんのことでしょぉ?」
星杜新聞……私がガサガサと新聞を取り上げて読み始める。
『背の高い男子生徒と背の高い女子生徒が、夏休み中にラブラブになるぜ。二人は永遠に一緒だぜ』
……わからない。どう考えてもわからない。
なんで、これだけで麻莉子は、桐生と私に結びつけるに至ったんだろうか。
「大福占いがチョー当るのは、みんな知ってる事だよぅ。これは絶対に小春ちゃんと桐生くんのことだよねぇ!」
(麻莉子よ、なにを根拠にそこまで断言する?)
私のこの疑問は、他のクラスメートたちの疑問でもあったらしい。急速にみなの興味が失せていくのがわかった。一番露骨に安堵しているのが、仲京香のようだった。
そして、そんな空気を感じとったのか、麻莉子もにわかにトーンダウンする。
「え? え? 違うの?」
「麻莉子。だから違うって言ってるでしょ。天地がひっくり返ったとしても、そんな事はありえませんから。だいたい友哉も、その反応は変だよ?」
ようやく友哉がここにきて口を開いた。
「ち、違うんですか? だって麻莉子ちゃんが、小春さんと桐生くんの事だって断言して……麻莉子ちゃんの勘は鋭いですし。小春さんと桐生くんは、出身中学が同じで仲も良いようにみえたし……」
「だから、ち・が・う!っての!」
「ち、ち、違うんですね? 麻莉子のちゃんの思い過ごしなんですねっ!?」
友哉に少し顔色が戻ってくる。
「はい、違います!」
私はきっぱりと否定する。
それにしたって、どこをどう見たら、私と桐生が仲良しに見えるんだろう。
そして当の麻莉子はと言えば、しれっとしていつもの麻莉子ののんびり口調に戻ると
「えぇ~? なぁんだ、違ったのぅ~? だって麻莉子ねぇ、大福占い読んだ時にピーンときたんだけどなぁ~。麻莉子の勘ってわりと当たるだけど、今回ははずれってことぉ~?」
(まるではずれてますから)
「そっかぁ、友哉くぅん、それなら良かったねぇ~」
そんな事を言いながら、ケラケラと笑っている。
良かったなんて他人事のように言ってるけれど、起こさなくてもいい騒動の原因を作ったのは麻莉子なんだから、そこんとこは、ちゃんと認識して頂きたい。
「麻莉子さ、ピーンとくるのはちっとも構わないんだけどね。確認もしないで断言するのはどうかと思うよ?」
「え~、もぅいやだなぁ、小春ちゃんったらぁ~。だからぁ、麻莉子は今、こうして小春ちゃんに事実を確認してたんじゃないのよぅ」
果たして今までのは、確認作業と言えるのだろうか。隠し事をしている罪人の取り扱いみたいだったように思うけど(とはいえ、有り得ない話にしても、夏休み中は桐生と秘密裡に行動を共にしていた事が多かったので、痛い腹を探られて多少焦ったのも事実ではある)。
と、その時だった。
桐生がなにやら自分の席から立ちあがり、こちらに歩いてくるではないか。
再び皆の目が集中する。
(な、なに?)
そして私たちのそばまで来た桐生は、制服のズボンのポケットに両手を突っ込んだまま少し腰を屈めると、なんと麻莉子の耳元でなにやら囁き始める。
その桐生の言葉を聞いていた麻莉子の目はどんどんと見開かれてまんまるになると、しまいにはこぼれ落ちそうになった。
(桐生、いったい何を?)
麻莉子が最後に大きくうなずく。
それを見届けた桐生は、何事もなかったかのように自分の席に戻っていった。
二人の間で何が話されたのかは分からないが、麻莉子の次の言葉で、友哉はすっかり元気を取り戻すこととなる。顔面蒼白になったり元気になったりと、友哉もなかなか忙しい。
(ホント、友哉の態度はさっぱり不明だわ)
「友哉くぅん、桐生くんねぇ、大福占いは自分のことじゃないって言ってたよぅ。夏休み中、桐生くんは
女子には会わなかった、だってぇ~」
果たして、そんな事を、わざわざ麻莉子の耳元で、麻莉子だけに囁く意味があるのだろうか?
(そうですか。私とあなたは毎日のように顔を合わせていたはずですが、私は女子のカテゴリーには入れて貰ってなかったって事のようですね!)
そんな事は、私にとってはどうでもいい事だ。
どうでもいい事ではあるんだけれど、その日の放課後の修行が、険悪なムードになったのは、致し方のないことではあったろう。




