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第5章  8月(1)

星杜学園も夏休みに入りますが、小春は、やはり生徒会室で修業の日々です。

この辺から、事件に向けて、小春が、桐生や生徒会長らとの繋がりを深めていくことになります。

どんどん進んでいきますよ~^^

 学園祭が終わった後は、学園は1カ月の長い夏休みに入る。家に戻る1年生もいるが、部活に入っている1年生はお盆前後に数日帰る程度で、寮生活のままでいることも多い。だが、華道部に所属している友哉と麻莉子は、夏休み中はとくに活動もないということで帰省するらしく、その前に私たちは一度ゆっくり善後策を練ろうという事になった。


 私たちは放課後に作戦会議を開くことに決め、どこか涼しい場所で会議をしようと探すものの、夏真っ盛りの中、そんな快適な場所なんてそうそうあるはずもなく、結局私たちは、各自持参のバケツに水を汲んで素足をその中に突っ込んで涼をとりながら話をすることにする。

 こういうとぼけた雰囲気を醸し出していれば、まさかクローン人間の話をしているなどとは、クラスの誰にも想像できないだろう。多少浮いてる感は否めないが……。

 

 そんな感じで足をちゃぷちゃぷさせつつ、先ほどから私たちはボソボソと話をしている。

「……ってことなんじゃないのぉ?」

「確かに麻莉子ちゃんの考え方は当たらずとも遠からず、って気がしますよね」

「それって、つまり今年は100年に一度のアステール星の近づく年で、龍底の力が現れるのは100周年創立記念祭じゃないかって意味だよね?」

「うん、麻莉子はそう感じるのぅ。だってさぁ、12月は24日の創立記念祭に向けてまた学園に生徒たちのパワーがみなぎるんだよぅ? 大地の気とかと呼応してパワー倍増になるのは当然のように思えるんだけどぉ」

「ぼく、実は先日の学園祭にも、龍底が現れる可能性があるんじゃないかって、ちょっと考えてました。内心びくびくしてたんですけど、学園祭で特になにも起きなかったとなると、次に何かが起きるとすれば、創立記念祭にという事は多いに考えられますね」

 とりあえず私たちは、Xデーはいつなのか? というテーマで話し合っていた。

 Xデーを、学園に龍底が現れる日ということで認識し合ってはいたが、残念ながら肝心の龍底については、その力がいったい何を引き起こすものなのか、まったくもって分からない。

 だが総合的に考えて、100周年の創立記念祭が、龍底が現れるXデーじゃないかというのも、強ち間違いじゃないような気もしている。

 最初は冷たかったバケツの水も、すぐにぬるくなった。

「でもさ、創立記念祭って1年の最後の12月だもん。その前に龍底が現れる事も考えておかないと、もっと早くに何かが起きちゃったりしたら困るよね?」

「うわぁ、小春ちゃんったらぁ、たまに賢さ全開だねぇ~」

「あれ? 何かな、麻莉子ちゃん。たまに、ってのは余計じゃないのかな?」

「えーーーー、麻莉子、何か間違ったこと言ったぁ?」

 麻莉子が悪びれないのを見て、私はすかさず友哉に振る。

「友哉はどう思う?」

 麻莉子、あわてて口をはさむ。

「あーーーっ。小春ちゃん、友哉くんに振るなんてずるいよぅ。友哉くんはぁ、小春ちゃん贔屓だって知ってるでしょぉ~」

「そうですねぇ。ぼくは小春さんの意見は、いつでも賢いと思って聞いてますよ」

 友哉はそう答えたが、麻莉子は口をとんがらせて不満そうだ。

「ふふん、さすがは友哉だわ。分かる人には分かるってことね」

 勝ち誇った感が出すぎてるかもしれないが、たまにはいいだろう。

「小春ちゃんに言っておくけどさぁ。友哉くんの小春ちゃんに対する評価はぁ、全然客観的じゃないんだからねぇ~。それだけは認識しておかないと、小春ちゃん、勘違いして失敗することになるよぅ」

(本日の麻莉子は劣勢なり、友哉サマサマ、だ)

 こんな具合で、話合いも結局のところは脱線してばかり、何も進展しないまま時間が過ぎていく。

 クローン人間に関しては、3人ともまだ心の準備ができていなかったものか、あえて触れずにいた。だいたい蒸し暑い夏の放課後の教室で深刻な話なんて、始めからできるはずもなかったのだ。3人とも暑さで頭がぼーっとなっている。深刻な話をするには、深刻な話をするにふさわしい状況・場所でなければならない事を、身を持って知った作戦会議となって、終了したのだった。


 学園の方は夏休みに入り、二人はそれぞれ実家に帰っていった。休みの期間に、それぞれ今一度冷静になって考えてみようという話にはなったが、考えたところでどうにもならない事なんて、最初から分かりきっていた。重大な案件を前にしての気休めといったところだったか。


 そして、寮に残り組みの私には、生徒会室での桐生との修行が再び始まる。

「夏休みの間まで桐生と顔を合わせないとならないなんてさ、幸というか不幸というか」

 そんな私の嘆き節で再開した修行。

「つまらん事をいちいち言うな。俺が夏休みの暑い中、わざわざおまえだけのために時間を費やしているんだぞ。幸に決まってるだろう」

 相変わらず俺様仕様だが、これが桐生スタイルなので別に今更どうってこともない。

 ロッカーの中から石を納めた桐箱を取り出そうとした時だった。私の背中ごしに桐生の鋭い声が飛んでくる。

「波原、おまえ!」

「え?」

 驚いたような、いぶかしんでいるような雰囲気も、桐生の声の中に混じっているように感じる。

「その気は……なんだ?」

 小林にも似たような事を言われていたので、すぐにピンときたが、桐生に背を向けたままで返事をする。

「えーーーーーっと。桐生には隠せないとは思うけど、波原小春、とりあえず黙秘権発動します」

「なんだ、その言い草は」

 桐生の視線が背中に突き刺さっている。視線が痛いといういのは本当のようだ。

(どこまで隠し通せるか)

「おまえ、何かに接触したんだな。おまえから感じられるはずのない陰の気が残っている」

 小林と同じ事を言う桐生に、これまでの事が事実なんだと嫌でも再認識させられる。

「そうか、そういうことなのか。……久遠や紫月も」

(そんなことまで)

「それで波原。いいのか、このままで」

 その言葉は、桐生にだけは言われたくなかった。ずっと迷いを振りきれないでいる私の気持ちを知ってか知らずか、追い打ちをかけるようなその言葉が私の胸に痛い。

「いいか、波原。このままいけば、間違いなく二人も巻き込むことになるんだぞ。普通の高校生活を送る久遠や紫月には、あまりにも酷な話なんじゃないか」

 普通の高校生として学園生活をエンジョイするはずだった私を、こんなふうに引きこんだのは、どこのどいつだったのかと思い、偉そうにそんな事を言ってくる桐生に腹がたった。


「波原、どうだ。なにがあったのか、俺に話してくれないか」

(今度は、猫なで声ってわけか)

「……」

 普段は切れ間なく口答えする私が完全黙秘をする姿に、桐生もあきらめたのだろう。それ以上は、この話題について触れてこようとはしなかった。多少は空気を読んでくれたということか。


「そういえばさ。桐生が、学園祭の舞台発表で仲京香と踊ったデュエットダンス、あれはなかなかカッコよかったよ」

 桐生も、話の接ぎ穂ができてほっとしているのが分かった。

「それは誉めて貰ったということでいいのかな」

「誉めた、っていうかね。正直な感想だけど」

「そうだな。確かに仲さんの熱の入り様は、かなりなものがあったな。練習しようとさんざん持ちかけられたしな」

(ええ、ええ。そりゃそうでしょうとも)

 桐生と一緒にダンス発表をするとなれば、桐生にゾッコンの仲京香の事だ、全精力を傾けて取り組んだ事は容易に想像だつくというもの。。満面の笑顔で桐生と練習を重ねる仲京香の姿が目に浮かぶようだ。が、残念ながら(ここはあえて、残念という表現にしておく)、二人は、容姿的に言ってもも、ダンスの技術的に言っても、あまりにも様になりすぎていた。二人が生徒たちから拍手喝さいを浴びたのも当然で、この点だけは私も認めてもやってもいいと思う。それにしても、桐生にダンスのセンスがあったなんて、全然知らなかった。

 そんな事をつらつらと考えながら修行の準備を進めていた私は、桐生が次に発した言葉で一瞬で我を失ってしまう。

「波原。おまえもなぁ、仲さんくらいの熱心さで修行に取り組んでくれたら、もっと成長も早かろうに」

 瞬間、私の手が止まった。

「は!?」

 私の中で、何かがピキンと弾ける。

「ちょっと桐生! 今、なんて言ったの? あんたさ、デリカシーなさすぎじゃない? なんで私が仲京香と比べられなきゃならないわけ? マジで意味不明だわ」

 思っている事が顔に出るならば、今の私はそうとう凶悪な顔つきをしていることだろう。

「おいおい、なんだよ、急に。そんな激昂されるような事、何か言ったか? それとも、あれか。自分が弱みに思っている部分を、他人に指摘されて思わずカッとなるっていうヤツか?」

 ただでさえ暑くて忍耐レベルの低い時に、なぜ桐生はよりにもよって私のキライな仲京香の話を振って、私の神経を逆なでするんだろうか。

(私が気持ちよく修行できるように取り計らうことが、桐生の務めなんじゃないの?)

「今日は、もう帰る!!」

 暑いという要素が加わっていなければ言わなかった言葉だろうが、何を考える間もなく私はそう叫んでいた。そうして、くるりと背を向けて生徒会室を出ようとした時に。

「波原、ちょっと待て!」

 私は、追いかけてきた桐生に、なんと後ろから抱きすくめられてしまったのだ。頭の中が真っ白になって、身体が金縛り状態になる。

「なっ――!」

 小パニックを起こして身動きできない私の耳元で、桐生が囁いた。

「波原、悪かった。そんなつもりじゃなかったんだ。許してくれ」

 腕をふりほどこうとしたものの、桐生の力が予想外に強くて抱きすくめられたまま動けない。


(なっ、なんだ、なんだ、なんだ? 今、何が起きている!?)


 と、そんな状況の時に生徒会室のドアをガラリと開けて、一人の人物が入ってきた。早水坂だ。

(こ、この状況は誤解を招かないか?)

 早水坂の姿を見て再びのパニックに陥りそうになった時、桐生の腕が離れるのが分かった。

「なんだ、誠也。どうやらタイミングが悪かったようだな。邪魔したか?」

 早水坂のニヤニヤ顔は、絶対に誤解していると思われたが、そんな早水坂に、桐生はしれっと答えた。

「いいや。今日は暑いから、もう修行なんかしたくないと言って、子供みたいに暴れて帰りそうになっていた波原を、仕方なく腕ずくで引きとめていたところだった」

「そうなのか? それは悪かったな。もっと早く来るつもりだったんだが、ヤボ用があって時間が遅くなった」

(なんですか? この二人の会話は?)

 桐生は、表情のあまりない、いつもと同じ冷たい顔だ。

 私を引き止めるのなら、抱きすくめる以外にももっと適切な方法があったんじゃないだろうか、なんて考えつつ、もやもやした気持ちだけが置いてきぼりをくって、やり場に困る。

「修行再開ということで、小春くんの腕が鈍ってないかどうか確認するために同席を申し出たんだが。来るのが遅れてしまったことで、はからずも小春くんが暴れるところを目撃することになったようだ」

(悪いのは、この私なんですかっ!?)

「そうだぞ、恭一。これがけっこう大変でな。身体もでかい、力も強いこのお嬢さんを抑え込むというのは、なかなかの重労働だったんだ」

 誰か私の憤りを静める方法を教えて下さい。


(この先ずっと、間違ってもこいつらは信用しない!)


 そして生徒会室は4人が揃い(会長の早水坂がいるところには、副会長の藍原さんももれなく現れる)、修行が再開されることとなる。そして、私の実技披露が終わると。

「なんとも……これはたいしたもんだ」

「波原さんは、本当に私たちの予想を、いい意味で裏切ってくれますのね」

「それなりに努力はしていたようだな」

 4人の前に置かれた石は今、私の気を吸いこんで強いオーラを放っている。早水坂や藍原さんにさえも、その石の放つオーラが見えるという事は、今回の結果はかなり凄いって事だと思われた。

 でも陰でコツコツ努力してたなんて事実は全く無く、正直言うと私が一番驚いているくらいだ。気脈から大地の気を吸い上げ、私自身と共鳴させることによってエネルギーを何倍にも増幅させるところまでは会得できたが、増幅したそのエネルギーをコントロールして外へ放出させる事は、ずっとできなかった。それが一ヶ月近くも修行から離れていたにも関わらず、コントロールできるようになったなんて、4人の中で誰が想像できただろう。私自身が一番想像できなかったと言っても過言ではない。

「誠也、今のは、小春くんの掌から石へエネルギーが受け渡されたという理解でいいんだな」

 早水坂が桐生に確認する。

「ああ、そうだ。俺との修行中には何度挑戦しても、自分の中でエネルギーを増幅させるところまでしか出来なかったんだが、いつの間に身に付けたものやら。波原、どこでコントロールする術を?」

 そんなこと、私に聞かれたって分からない。っていうか、私の方が教えてほしいくらいだ。

「え、と。なんとなくっていうか、感覚でっていうか」

「そうか。うん、感覚で、な」

 そんな答えで良かったものか、桐生の機嫌が、なんとなく良さげで不気味に感じられた。

「誠也、ここまできたら、あと一息だな」

「波原さんが、気をどこまで増幅できるようになるかがポイントになりそうね」

早 水坂と藍原さんの会話は、いまひとつ私には理解できない。

「波原、おまえに言っておきたい事がある」

 突然3人の目が一斉に私に集ったので、思わずたじろぐ。

「なっ、なに?」

「ここでの修行を始めてからは、特別だと思っていた力が無意識に発動するようなことはなくなったな?」

「えっ、まぁ確かに無かったけど」

「それじゃ今後も、力を発動するような事はしないでほしい。仮に人生を掛けたいという場面に出くわしたとしても、力を利用して有利な状況をもたらしたいなどとは間違っても考えないでくれ。今後、その能力を勝手に発動させる事はいっさい厳禁とする」

 また、ピキンとくる。

「はぁ!? なんでそんな事まで桐生に言われなきゃならないワケ? あんたは私の一体なんなの?」

 興奮しかけた私に、早水坂が声を掛けてくる。

「小春くん、すまんな。君も分かってるとは思うが、コイツはこんな言い方しかできないヤツでね。悪気はないんだろうが、私が出会った頃から、きちんと理由を説明するという能力が欠如しているんだ」

「恭一、この俺に向かって能力が欠如してるとはどういうことだ。まったくもって失敬なヤツだ」

 桐生が憤慨しているようだ。

「能力があっても出来ない人間は、そう言われても仕方ないって事さ」

 藍原さんも、くすっと笑ったのが見えた。私も、早水坂の意見に諸手を挙げて賛成したい。

「小春くん。われわれは、ある時期までは、学園内で大きなエネルギーを発生させる事は極力避けたいと思っている。現在の君は、入学当初に比べて、気脈から力を取り込む能力が格段に増している。取り込んだ力を増大させる能力に磨きがかかっていることは、君自身が一番分かっているだろう」

「はぁ、まぁ」

「小春くんの進歩は、我々が懸念しているある事柄に対抗するためには欠かせないが、逆にそれが引き金となって、時が満ちないうちに事が動き始める可能性が十分に考えられんだ。なので、準備なくその時を迎える事だけは避けたい。そういった意味で、我々の与り知らぬところで、小春くんの力が発動してしまって最悪の結果を招く事のないようにとの配慮から、先ほどの誠也の発言に繋がったんだ」

 私の中では、早水坂と桐生は同じカテゴリーだが、早水坂の方がずっとましなようだ。

「それって、以前に説明してくれた龍底に関係あるってことですか?」

「そうだ。というか、我々はそうだと思っている」

「まだ会長にも、龍底がなんなのかは分からないんですね」

「あぁ、残念ながら分からない。ただし、創立100年にあたる今年は、莫大なエネルギーが蓄積される時に、龍底の力が現れるものと我々は確信している」

(やっぱり、最後は龍底……なのか)

 こうして私の状態を4人で確認しあったが、なかなかどうして、まだまだ私の修行の道のりは遠そうだ。桐生の嬉しそうな一人言が耳に入ってくる。

「よし。ようやくこれで、本格的にしごく事ができるようになるんだな」

 今までの修行は、本格的ではなかったらしい。

(もっとひどい扱いになるってこと?)

 

 私は一人、こっそりとため息をついた。


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