私とアタシ
えっと……とりあえず、怖い話をしてくれって言われたんですけど、人選ミスってませんか?
あ、大丈夫?
そうですか……
怖い話、と言えるのかはわからないんですが、せっかくなので私の友人から聞いた話をご紹介しようかと思います。
さて、みなさんは自分が自分で無くなっていく感覚って、想像できますか?
自分の体で、別の自分が活動している恐怖が……
その子も、始まりがいつからだったのかは思い出せないらしいんですけど……
例えば学校で友達に、した記憶の無い会話について聞かれたり。
楽しみにしていたプリンがなくなってて親に聞いたら「あんたが昨日食べたじゃん」って言われたり。
そんな風に、気が付くと記憶が1日跳んでいる事が増えていったらしいんです。
その子も、最初は「もしかして私は認知症みたいな病気なんだろうか……」って心配になったらしいんですけど……
両親とか友達とか、周りの人達があまりにもいつも通り過ぎて、どうしても言い出せなかったらしいんです。
そんな風に悩みながらも生活していたんですが--
小学校四年生の頃のある日、クラスメイトの男子に声をかけられた時に事件が起きたらしいんです。
その子は、なにかとちょっかいかけてくるその男子の事が苦手だったらしいんですけど……
取り巻き数人連れて声かけてきて、苦手なのと用事が有った事が重なってちょっと冷たく返事しちゃったら腕を掴まれたんですって。
痛い!って言いながら振りほどこうとしても中々逃げられなくて、最後には階段から足を踏み外して転がり落ちちゃったらしいんです。
……その直後。
すぅーっと意識が遠くなって行くと同時に、頭の中に自分とよく似た、それでいて暗く低い声で――
『……“敵”に優しくする必要なんか、ないよね』
――って声が響いたそうです。
そして、その後保健室で目を覚ました時に、先生から件の男子達がケガをして家に帰った、と聞かされたんですって。
その時は、その男子のせいで階段から落ちた、って気持ちが強すぎて、気にしてる余裕無かったらしいんですけど……
その日の夜に、その子達が滅茶苦茶怯えながら、親に連れられて謝りに来て、その姿を見た瞬間頭の中に--
『まだアタシの前に顔出せるとか……もっとしっかり心折るべきだったわ』
--って聞こえて来て……
思わず悲鳴を上げて、自分の部屋に逃げ込んだんです。
その様子を見た相手のご両親は、とんでもないトラウマを刻んでしまったと酷くショックをうけたらしく、泣きながら土下座して帰っていったあと、しばらくしてその一家は引っ越して行ったんですが、それは置いておいて。
自室に逃げ込んだその子は、自分がおかしくなってしまったと思って、枕に顔を埋めながらひたすら泣いて、そのまま寝ちゃって――
次に目を覚ましたら――
がらんとしたドアも家具も何もない部屋にいて――
壁の一辺にある大きなガラス張りの窓のような場所から、外の様子が見えていて――
そこから見えていたのは、見覚えのある通学路――
学校で友達と話して――
みんなと授業を受けて――
そんな風に、なんの変哲もない“ダレカ”の1日の視点を、まるで音の無いテレビ画面で見ているような感覚で呆然と眺めていたその子でしたが、ある疑念が沸き上がった事で呼吸すら忘れ、ガラスに張り付くようにして“ダレカ”の動向を見ていたんですけど……
その“ダレカ”が帰ってきた家を見て、声にならない悲鳴を上げてしまいます。
なぜなら、その“ダレカ”が帰ってきた家が、何年も家族と暮らしていた自分の家だったから。
両親が“ダレカ”と笑い合っているような光景を見つめながら--
『それは私じゃない! 私じゃないよ! お母さん!』
--と必死に叫びながら、震える手で目の前のガラス窓を叩き続けたけれど、外に見える両親には全く伝わらない。
そして、そのまま時間が過ぎて、その“ダレカ”がお風呂場の洗面台の所に立った事で納得したそうです。
--洗面台の鏡に映っているのが、よく見慣れた自分の顔だったから。
自分の中に芽生えた“ダレカ”に、自分が乗っ取られたのだ……と。
自分の姿をした“ダレカ”の行動を、その“ダレカ”の中から見ている事しかできない事実に、泣きながらへたり込むと、またあの声が響いてきたんです。
自分によく似た、暗くて低い声で--
『これであなたはもう苦しまなくていいよ。 敵はアタシがぜーんぶやっつけて……あなたを守ってあげるから』
さぁ、これでアタシのお話はおしまい――
えっ?
そのあと友人はどうなったのか?
…………
さぁ?
どうなったんでしょうね。
体を取り戻したのか、それとも魂を入れ替えながら2人で1つの体を使っているのか――
――あなたはどっちだと思います?
そうそう、あなたの周りに居る人も、もしかしたらいつの間にか体を乗っ取られて別人にすり替わっているかもしれませんね。
――だってほら。
口調や好みが少し変わるだけで、見た目は一緒なんですから。
今あなたの目の前で話してるアタシは……本当に冒頭の“私”と同じなんでしょうか?
なぁんてね…………




