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起点

終電に乗ったはずだった。


気づいたとき、俺はそこに立っていた。

電車は止まり、ドアは空いている。

外は『駅』のはずなのに、人の気配が一切感じない。

見覚えのない空間。

しかし完全に否定できない不気味な既視感。

「…どこだ、ここ」

低くつぶやいた声は響き、どこか空間に吸い込まれるように消えていく。

電車内の電光掲示板には、こう表示されている。

『次の発車:未定』

時計を見ると1時13分から針が一切動いていない。

事態を把握できず呆然としていると後ろの方から声が聞こえてきた。

振り向くと自分のほかに3人の乗客が立っていた。

一人はスーツを着た落ち着いた雰囲気の女性。

一人は体格がよく少々強引な印象を抱く男性。

そして小柄で不思議な空気を纏った、どこか掴みどころのない少女が一人。

「…ここ普通じゃないわね」

スーツを着た女性が窓越しから駅を見渡す。

体格の良い男も窓に張り付くように覗き込み周囲を見渡す。

小々窓が曇っており、あまり外の様子は見えないがぼんやりと薄暗いホームが続いてる。

「なんだよここ…誰も居ねえじゃねえか」

「ここ普通じゃないかも、嫌な感じがする」

少女は3人から一歩引いて呟く。

「どういうことだよ、嫌な感じって!」

少女の言葉に食いつくように男は振り返り少女に投げかけた。

少女は男の気迫に押されたのか、びくっと肩をすくませ下を向きながらか細い声でつぶやく。

「よく分からないけど…全部が止まってる感じがする」

「意味わかんねえこと言ってんじゃねえよ!」

少女に詰め寄る男を制止し俺は自分の時計を男の目の前に突き出す。

「強ち間違ったこと言ってないと思うぞ、俺の時計は止まってる」

スーツの女性も自分の時計を確認し「本当だ、私のも止まってる…」

「意味が分かんねえ…」

男は脱力したようにドカッと座席に腰かけ顔を覆う。

「そうだスマホ!」

おもむろにポケットから携帯を取り出し表示された画面を確認するがこちらも同じ時間で止まっており、圏外になっている。

全員のスマホを確認するが結果は同様だった。

少しの沈黙の後、ふと男が声を上げた

「考えても仕方ねえ。まずは動くぞ」

「そうね、電車も動かなそうだし」

「…」

俺は周囲を見渡した、電車は一両編成でこの4人のほかに乗客はおらず、それどころか運転席に車掌すら存在していない。

あきらかに異常な状況だ。

電車の開いているドアへ移動し外の様子を伺う。

非常灯が点々と灯った薄暗いホームに古びた駅の看板が見える。

『終点:×××』

看板の文字はさびと汚れで擦れて読めなくなっている。

全く人の気配感じない、無機質な地下のホームが闇の向こうまで続いていて先が見えない。

俺は車内に身を引っ込めほかの3人に問いかけた。

「とりあえず自己紹介しないか?名前とか…どこに向かっていたとかさ」

スーツの女性が少し腕を組み手を顔に添えながら考えこみ、応える。

「そうね、この状況だとお互いの事知っておいた方がいいわね。私は月島美月、仕事帰り。普通に家に帰る途中だったわ、でも変ね…どこの駅で乗ったか、曖昧なの」

ガタイの良い男も続いて答える。

「俺は出張帰りだ。新幹線から乗り換えたはずなんだが…」

眉をひそめる。

「妙だな、乗り換えた時の記憶がぼやけてる」

「名前はなんていうんだ?」

俺からの問いかけに男は舌打ちし答える。

「熊谷将太だ」

「俺は平野遼、隠すつもりは全くないんだが、ここまでの記憶がぼやけていて思い出せない。家に帰ろうとしていたことは確かなんだが。」

なぜだろう、何かを思い出そうとしてみたがまるで霞がかかったかのように記憶がぼやけて、なぜ自分がここにいるのかほとんど思い出せない。何かを追っていた気がするんだが。

「記憶喪失かよ…」

最後は少女だ。

しかし将太の気迫にやられてしまったのだろう、彼女は伏し目がちにこちらを伺い、戸惑っているようだ。

俺は将太に目配せをし男は小さく息を吐きだした。

「さっきはすまなかった、少し動揺してたみたいだ。悪かった」

将太からの謝罪に少しほっとしたのか少女は胸の前で固く握った両手の力を抜き下に降ろす。

「君はだれでどこに行こうとしていたんだ?」

「…行こうとしていた場所、思い出せない…名前はそら…だと思う。」

「なんだよ、お前も記憶喪失かよ」

そらはくすんだ窓に手をかけ、不安そうにホームの奥を見る。

「でもね、帰っちゃいけない気がする」

そらの思いがけない言葉に他の3人はお互いに顔を見合わせた。

違和感、そう、なぜか全員目的地の記憶が曖昧なのだ。なのになぜか『帰る途中だった』という認識だけは共通している。そら以外は。そらだけが帰ることに対して違和感を持っているようだ。

「どうしてそう思うの?」

美月からの問いかけにそらは下を向き口を噤んだ。

「大丈夫、私たちはあなたの味方よ。ゆっくりでいいから話してみて?」

「……声が聞こえるの」

「声?」

「そう、誰かが呼んでる」

声なんてものは俺は何も聞こえていない。将太と美月も表情から察するに同じ立場なのだろう、訝し気な顔でそらを見ている。

声とは何なのだろうか?一体だれが呼んでるというのだろうか?一体何をささやいているんだろうか?

頭の中で色んな疑問が絶えず駆け巡っている。

その声はなんていっているんだ?そう聞こうとした。

その時―――

ホームの奥、ほの暗い闇の中、遠くの方から『カツン...カツン...』と足音のような音が響いた。

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