クソニートと呼ばれた俺は、ようやく切り捨てる
※本作はカクヨムにも投稿しています。
第8話です。
大きな転機となる出来事が訪れます。
応接室の空気は、最初から張り詰めていた。
向かい合う形で座る。
距離は近いはずなのに、やけに遠く感じる。
「……お前は、俺たちが育ててやったんだ」
父が、椅子にふんぞり返りながら言った。
見下すような視線。
「分かってるよな?」
続ける。
「家に金を入れるのは当然だろう」
その言い方は、命令だった。
相談でも、お願いでもない。
当たり前のように、押し付けてくる。
(……何なんだよ)
胸の奥が、ざわつく。
(やっぱり金かよ……)
予想はしていた。
していたけど。
ここまで、露骨だとは思っていなかった。
「……」
何も言わない。
言う必要がない。
全部、分かってしまったから。
「ちょっと、あんたも何か言いなさいよ」
母が、苛立ったように口を挟む。
「こっちはどれだけ苦労してきたと思ってるの?」
その目には、怒りしかない。
「アンタみたいなのがいるだけで、どれだけ肩身の狭い思いしてきたか」
一言一言、突き刺すように。
「それを少しでも返そうとか、思わないの?」
そして。
「家にお金を入れるのが当たり前でしょ」
決めつける。
疑いすらない。
「……」
静かに、息を吐く。
もう、迷いはなかった。
目の前にいるのは。
家族でも何でもない。
ただの――他人だ。
「……断る」
はっきりと言った。
一瞬。
空気が止まる。
「……は?」
父の顔が歪む。
「何言ってるんだお前」
「そのままだよ」
視線を逸らさず、返す。
「金は出さない」
「ふざけるな!」
机を叩く音が響く。
「誰のおかげでここまで――」
「俺の力だよ」
言葉を、遮った。
はっきりと。
「ここまで来たのは、俺の力だ」
沈黙。
誰も、すぐには言葉を返せない。
「……何様のつもり?」
母が、低く言う。
「親に向かって」
「親?」
思わず、口に出た。
自分でも驚くくらい、冷たい声だった。
「……捨てたよな」
一言。
それだけで、十分だった。
「……っ」
母の表情が歪む。
父も、言葉に詰まる。
「住む場所もなくして」
「行く当てもなくして」
「それで、今さら“家族”?」
静かに、言い切る。
「都合いいよな」
沈黙が、落ちる。
重い。
逃げ場のない空気。
「……あんた」
唯一が、震えた声で言う。
「そんな言い方……」
「じゃあ何だよ」
視線を向ける。
「違うって言えるのか?」
言葉が、止まる。
何も返せない。
その沈黙が、答えだった。
「……帰ってくれ」
短く言った。
「これ以上、話すことはない」
「ふざけるな!」
父が立ち上がる。
だが。
「その辺にしていただけますか」
低く、静かな声が割って入った。
全員の視線が、一斉に向く。
そこに立っていたのは――
編集長だった。
その後ろには、数人の社員。
「ここは、会社です」
淡々と、言う。
「個人的なトラブルを持ち込まれては困ります」
だが、その言葉の裏には。
はっきりとした“拒絶”があった。
「……何だお前は」
父が睨む。
「関係ないだろう」
「関係あります」
即答だった。
「彼は、うちの大切な作家ですので」
その一言で。
空気が、変わる。
完全に。
「……」
誰も、何も言えない。
「お引き取りください」
静かに、告げる。
だが。
逆らえない強さがあった。
父が舌打ちをする。
母が睨みつける。
そして、そのまま踵を返した。
唯一も、ゆっくりと立ち上がる。
そのまま、ついていこうとして――
一瞬だけ、止まった。
ちらりと、真人を見る。
何かを言おうとして。
でも、結局何も言えずに。
そのまま視線を逸らした。
そして、家族の後を追うように部屋を出ていった。
扉が閉まる音が、やけに大きく響いた。
静寂。
何もかもが、終わった後のような空気。
「……大丈夫か?」
編集長が、少しだけ柔らかい声で言う。
「……はい」
短く、答える。
本当は、分からない。
でも。
ひとつだけ、はっきりしていることがあった。
もう――戻ることはない。
あの家には。
もう、何も残っていない。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
大きく動いた一話となりました。
ここから先の展開も、ぜひ見届けていただけると嬉しいです。
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