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7/10

クソニートと呼ばれた兄は、私たちの前に現れる

※本作はカクヨムにも投稿しています。


 第7話です。

 物語の核心に少しずつ近づいていきます。

「……ちょっといい?」


 唯一が、スマートフォンを握りしめたまま言った。


 父と母が顔を上げる。


「どうしたの?」


 母が不思議そうに聞く。


 唯一は、少しだけ迷う。


 だが、すぐに口を開いた。


「……もしかして」


「アイツ、売れてる絵師かもしれない」


 一瞬、空気が止まる。


「……は?」


 父が眉をひそめる。


「何言ってるんだ」


「でも、見て」


 スマートフォンを差し出す。


『島波桃花、新作発売初日で異例の売上』


 その下にある名前。


『イラスト:ハイスロープ』


「……」


 父の視線が止まる。


 母も覗き込む。


「同じ名前なの」


 出版社資料・契約の欄。


 "ハイスロープ、本名、高坂真人"


 唯一が続ける。


「苗字も、名前も、全部」


 沈黙。


 だが、その沈黙を破ったのは父だった。


「……もしそれが本当なら」


 口元が歪む。


「面白いことになるな」


「え?」


 唯一が顔を上げる。


「アイツは俺たちが育てた」


 父は迷いなく言った。


「なら、アイツの稼ぎは俺たちのものだ」


「そうよね」


 母も当然のように頷く。


「家族なんだから」


「……じゃあ」


 唯一がゆっくりと口を開く。


「私たちのお金ってことよね?」


「当然だ」


 父が即答する。


 その瞬間。


 この家族の方向は、完全に決まった。


 もう後戻りはない。


「探せ」


 父が言う。


「連絡先でも何でもいい」


「……分かった」


 唯一は、画面を見つめたまま頷いた。


 胸の奥に残る違和感を、押し込めながら。


 数日後。


 出版社の受付。


「本日はどういったご用件で?」


 丁寧な対応。


 だが、父は遠慮なく言い放った。


「高坂真人に会いたい」


 受付の女性が、一瞬だけ表情を変える。


「申し訳ありませんが、個人情報に関わることですので」


「家族です」


 父が言い切る。


「本人の家族です」


 空気が、わずかに張り詰める。


「……少々お待ちください」


 通されたのは簡単な応接スペースだった。


 唯一は膝の上で手を握る。


 本当に来るのか。


 信じていないはずなのに、どこかで確信している。


 扉が、開く。


「失礼します」


 その声で、時間が止まった。


 入ってきたのは。


 見慣れた顔。


 見慣れているはずなのに、まるで別人のように見える姿。


「……」


 言葉が出てこない。


 真人は、少しだけ戸惑ったように視線を動かす。


 そして。


 家族の姿を見て、表情が変わった。


 ほんのわずかに、眉が動く。


「……」


 一瞬の沈黙。


 だが。


 次に出た言葉は。


「……今さら、何しに来たんだよ」


 低く、はっきりした声だった。


 さっきまでとは、まるで違う。


 迷いも、遠慮もない。


 唯一の呼吸が止まる。


(……何それ)


 さっきまでの姿と違いすぎる。


 あの、頼りなかった兄じゃない。


 目の前にいるのは――


 知らない誰かみたいだった。


「……なんで、そんな言い方」


 唯一が言葉を絞り出す。


 だが。


「理由、分かってるだろ」


 即座に返される。


 その一言で。


 空気が凍りついた。


 もう。


 あの頃とは、違っていた。


}

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


 ここからさらに展開が大きく動いていきます。

 続きも楽しんでいただけると嬉しいです。


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