クソニートと呼ばれた兄は、私たちの前に現れる
※本作はカクヨムにも投稿しています。
第7話です。
物語の核心に少しずつ近づいていきます。
「……ちょっといい?」
唯一が、スマートフォンを握りしめたまま言った。
父と母が顔を上げる。
「どうしたの?」
母が不思議そうに聞く。
唯一は、少しだけ迷う。
だが、すぐに口を開いた。
「……もしかして」
「アイツ、売れてる絵師かもしれない」
一瞬、空気が止まる。
「……は?」
父が眉をひそめる。
「何言ってるんだ」
「でも、見て」
スマートフォンを差し出す。
『島波桃花、新作発売初日で異例の売上』
その下にある名前。
『イラスト:ハイスロープ』
「……」
父の視線が止まる。
母も覗き込む。
「同じ名前なの」
出版社資料・契約の欄。
"ハイスロープ、本名、高坂真人"
唯一が続ける。
「苗字も、名前も、全部」
沈黙。
だが、その沈黙を破ったのは父だった。
「……もしそれが本当なら」
口元が歪む。
「面白いことになるな」
「え?」
唯一が顔を上げる。
「アイツは俺たちが育てた」
父は迷いなく言った。
「なら、アイツの稼ぎは俺たちのものだ」
「そうよね」
母も当然のように頷く。
「家族なんだから」
「……じゃあ」
唯一がゆっくりと口を開く。
「私たちのお金ってことよね?」
「当然だ」
父が即答する。
その瞬間。
この家族の方向は、完全に決まった。
もう後戻りはない。
「探せ」
父が言う。
「連絡先でも何でもいい」
「……分かった」
唯一は、画面を見つめたまま頷いた。
胸の奥に残る違和感を、押し込めながら。
数日後。
出版社の受付。
「本日はどういったご用件で?」
丁寧な対応。
だが、父は遠慮なく言い放った。
「高坂真人に会いたい」
受付の女性が、一瞬だけ表情を変える。
「申し訳ありませんが、個人情報に関わることですので」
「家族です」
父が言い切る。
「本人の家族です」
空気が、わずかに張り詰める。
「……少々お待ちください」
通されたのは簡単な応接スペースだった。
唯一は膝の上で手を握る。
本当に来るのか。
信じていないはずなのに、どこかで確信している。
扉が、開く。
「失礼します」
その声で、時間が止まった。
入ってきたのは。
見慣れた顔。
見慣れているはずなのに、まるで別人のように見える姿。
「……」
言葉が出てこない。
真人は、少しだけ戸惑ったように視線を動かす。
そして。
家族の姿を見て、表情が変わった。
ほんのわずかに、眉が動く。
「……」
一瞬の沈黙。
だが。
次に出た言葉は。
「……今さら、何しに来たんだよ」
低く、はっきりした声だった。
さっきまでとは、まるで違う。
迷いも、遠慮もない。
唯一の呼吸が止まる。
(……何それ)
さっきまでの姿と違いすぎる。
あの、頼りなかった兄じゃない。
目の前にいるのは――
知らない誰かみたいだった。
「……なんで、そんな言い方」
唯一が言葉を絞り出す。
だが。
「理由、分かってるだろ」
即座に返される。
その一言で。
空気が凍りついた。
もう。
あの頃とは、違っていた。
}
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
ここからさらに展開が大きく動いていきます。
続きも楽しんでいただけると嬉しいです。
面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価をしていただけると励みになります




