クソニートと呼ばれた俺を、誰かが初めて知ろうとした
※本作はカクヨムにも投稿しています。
第6話です。
少しずつ違和感が確信に変わっていきます。
作業室のドアが静かに開く。
島波桃花が、一歩外に出た。
ほんの少しだけ息を吐く。
中の空気とは違う、現実の空気。
だが、その余韻はまだ残っている。
「……高坂くん、流石ですね」
編集長に向かって、静かに言った。
「あれほどの絵師と出会えたのは……奇跡的です」
その言葉には、誇張もお世辞もなかった。
純粋な評価だった。
「……そうだな」
編集長も、小さく頷く。
だが、その表情にはわずかな陰があった。
「高坂くんの家族は……」
ぽつりと、漏らす。
「あれほどの才能ある青年を、捨てるなんてな」
「……え?」
桃花の表情が変わる。
今の一言は、聞き流せるものじゃなかった。
「……今更ですが」
ゆっくりと、問いかける。
「高坂くんは、どうして住むところがなくなったんですか?」
空気が、少しだけ重くなる。
編集長は、わずかに視線を落とす。
「……本人から直接聞いたわけではないが」
一拍置いて、口を開いた。
「家庭の事情らしい」
「家庭の事情……?」
桃花の眉が寄る。
「家族とうまくいっていなかったそうだ」
それだけなら、よくある話だ。
だが。
「最終的には……一方的に追い出されたと聞いている」
静かな声。
だが、その内容は軽くなかった。
言葉が、止まる。
数秒の沈黙。
「……なに、それ」
桃花の口から、思わず漏れる。
「酷すぎるでしょ」
はっきりとした怒りが、滲んでいた。
編集長は、何も言わない。
ただ、静かに頷くだけ。
「……あんなに」
桃花の視線が、作業室のドアへ向く。
「……あんなに、ちゃんと仕事してるのに」
それは、評価でも同情でもない。
理解できないという、純粋な感情だった。
どうして、そんな人間が。
どうして、そんな扱いを受けるのか。
答えは、ない。
それでも。
「……分かりました」
小さく、呟く。
その声は静かだった。
だが。
そこには、確かな意思があった。
再び、作業室へと視線を向ける。
中では。
高坂真人が、いつも通りペンを走らせている。
迷いのない線。
無駄のない動き。
そして――
真剣な横顔。
何も知らないまま。
ただ、描いている。
その姿を見て。
桃花は、ゆっくりと目を細めた。
(……この人は)
ただの絵師じゃない。
(絶対に、守らなきゃいけない)
その想いは、まだ言葉にならない。
それでも。
確かに、そこにあった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
ここから一気に物語が加速していきます。
引き続き楽しんでいただけると嬉しいです。
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