クソニートと呼ばれた兄の名前を、私はまだ否定する
※本作はカクヨムにも投稿しています。
第5話です。
少しずつ状況が動き始めます。
――私は、高坂唯一。
高坂家には、もうお金がない。
父が株で失敗した。
それだけで、全部が壊れた。
家も。
生活も。
未来も。
何もかもが、簡単に崩れた。
(……意味が分からない)
せっかく。
あのヒキニートと縁が切れて、せいせいしていたのに。
やっと普通の生活に戻れると思ったのに。
なのに。
私立高校も辞めて、公立に転校。
友達も、環境も、全部やり直し。
(……ふざけないで)
どうして、私がこんな目に遭うの?
何も悪いことなんてしてないのに。
ずっと我慢してきたのに。
あんなのが兄だなんて、恥ずかしくて。
外で誰かに知られたらどうしようって。
ずっと思ってたのに。
(……全部、あいつのせいだ)
あのヒキニート。
何もせず。
何も生み出さず。
ただ家にいるだけの存在。
(あいつがいなければ)
こんなことにはならなかった。
きっと、そうだ。
――そうに決まっている。
---
スマートフォンを手に取る。
何となく。
現実から目を逸らすように。
画面を眺める。
その時。
ふと、目に止まった記事があった。
『島波桃花、新作発売初日で異例の売上』
「……へぇ」
小さく呟く。
名前は知っている。
有名な作家だ。
学校でも話題になることがある。
だが。
その下に並ぶ関連トピックに、指が止まった。
『挿絵が神すぎると話題』
『今回の絵師、誰だ?』
『ハイスロープって何者?』
「……は?」
なぜか、引っかかる。
理由は分からない。
でも、妙に気になる。
そのまま、記事を開く。
表示された情報。
『イラスト:ハイスロープ』
『本名:高坂真人』
「……え?」
一瞬、思考が止まる。
同じ苗字。
しかも名前まで...
(……そんなわけ、ない)
あり得ない。
そんなこと、あるはずがない。
だって。
あいつは――
(……ヒキニート、なのに)
画面を見つめたまま、動けなくなる。
胸の奥に、引っかかる感覚だけが残る。
消えない。
無視できない。
でも――
「……違う」
小さく、呟く。
否定するように。
「そんなわけ、ない」
そう言い聞かせる。
自分に。
それでも。
その名前だけが、頭に残り続けていた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
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