クソニートと呼ばれた俺は、天才と呼ばれていた
※本作はカクヨムにも投稿しています。
第2話です。
眩しい。
外の光が、こんなにも強かったことを、忘れていた。
「……」
ベンチに腰を下ろす。
人の声。車の音。風の匂い。
すべてが、久しぶりすぎて現実感がない。
腹は減っているはずなのに、不思議と感覚が鈍い。
「……スマホ」
ポケットから取り出す。
画面をつけると、未読通知が一気に押し寄せた。
編集部。
出版社。
知らない番号。
「……」
ひとつ、開く。
『先生、締切を過ぎております。至急ご連絡ください』
次。
『今回の件、どうしても先生でないと困ります』
さらに。
『どちらにいらっしゃいますか?』
「……」
ため息を一つ。
ノートパソコンを開く。
電源を入れる。
いつもと同じ手順。
ペンを持つ。
線を引く。
迷いはない。
構図は、すでに頭の中にある。
ただ、形にするだけだ。
――カリ、カリ、と。
静かな音だけが、流れる。
「……」
気づけば、周囲の視線が集まっていた。
「え、すご……」
「なにあれ、プロ?」
小さなざわめき。
だが、どうでもいい。
手は止まらない。
止める理由もない。
――あの子は、天才だった。
編集長は、ふと昔を思い出す。
四年前。
編集部に、一枚の絵が送られてきた。
無名。
経歴不明。
ただの投稿。
――のはずだった。
「……なんだ、これは」
最初に目にした時の感覚は、今でも忘れられない。
圧倒的なデッサン力。
線に迷いがない。
構図に無駄がない。
何より――完成していた。
その時点で、すでに。
年齢を確認したとき、言葉を失った。
――中学生。
あり得ない、と誰もが思った。
だが。
その絵は、現実だった。
ちょうどその頃。
島波桃花が、新作の挿絵を探していた。
そして――
「この人にお願いしたい」
彼女は、迷わずそう言った。
それが、すべての始まりだった。
「……」
画面の中で、キャラクターが形になっていく。
違和感はない。
むしろ、しっくりくる。
いつも通りだ。
ただ――
「……場所、か」
視線を上げる。
電源はいつまで持つか分からない。
Wi-Fiも不安定だ。
ここは、作業する場所じゃない。
「……」
スマホが、また震えた。
今度は、着信。
画面に表示された名前。
「……」
一瞬、考える。
だが、出た。
「……もしもし」
『どこにいるんですか!?』
耳に飛び込んできたのは、切羽詰まった声だった。
『連絡が取れなくて、どれだけ――』
「……悪い」
短く返す。
『悪いじゃありません!』
一拍。
『何度も言いますが、今回の案件、あなたじゃないと無理なんです』
強い言葉。
迷いのない声。
『代わりなんていません』
「……」
少しだけ、空を見上げる。
青い。
やけに、広い。
「……場所、ある?」
一言。
それだけだった。
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居場所は、まだない。
だが――
必要としている場所は、確かにあった。
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