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三題噺もどき4

賑やかな夜

作者: 狐彪

三題噺もどき―ななひゃくにじゅうに。

 




 ぼんやりとした月が浮かんでいる。

 まだ満月になっていないせいか、端の方が三日月型にかけている。

 それを薄い雲が多い、更に輪郭をぼかしている。

 そのせいで、はたと見れば、満月と見紛うような形をしている。

「……」

 雲はかかっているものの、昨日よりは天気がいい。

 星が見えるし、月もこうして見える。

 雨の匂いも今はまだしていない。遠くにかすかにしているような気配はするが。

 予報では雨が降ると言っていたが、まぁ丁度タイミングよく雨具もと雨雲の隙間だったのだろう。

「……」

 昨日はあいにくの天気で散歩に出られず、公園にも行けなかったからな。

 今日はこうして晴れた隙間に出られたし、足は迷わず公園に向かっている。

 もう既に、歩き慣れた道ではあるので体が覚えてしまっている。

「……」

 たまに道を変えたりしてみるのだけど、今日はそんな気分でもなかった。

 特に寄り道をする予定もないのだから、真っすぐ公園への道を歩いている。

 街灯の少ないこの道は、夜には人通りはほとんどなく、立ち並ぶ住宅が静かに眠りに落ちている。

「……」

 車通りもないような道なので、先月は聞こえなかったセミの声がよく聞こえる。

 この声を聞くだけで暑さが増すような気分で嫌になるが、聞こえないと、それはそれでどこか少し寂しく思えてしまう。

 あったらあったで、うるさいことこの上ないのだけど。

「……」

 きっと彼らは短い命を嘆きながらも、次へとつなげるために必死なのだ。

 残念ながら、短命とは縁のない私だから、そんな悲願は分からないけれど。

 それでも彼らが生まれて、羽化する姿は美しいものだと思う。

「……」

 過去に、月光に照らされて、羽化するものを見たことがあるが。

 確かにアレは神秘的という言葉がぴったりとあてはまると思う程に、美しく不思議なものだった。その後に残る抜け殻は、夏休みの小学生たちが大量に集めていたが。

「……、」

 吹く風が少し冷たい。暑いこの夜には丁度いいが、今は少し待って欲しい。

 この感じだと、もう数時間ほどで雨が降るかもしれないなぁ。

 まぁ、公園はもう目の前だ。早く切り上げることになるかもしれないが……夏休みで来週にはお盆を迎える子供たちと違って、年がら年中ここに来れるのだから、問題はないだろう。

「……」

 それにあそこには、ブランコ以外の遊具だってたくさんいるのだ。

 あの子は、子供の精神に引っ張られすぎているからか、言動がどこか幼いしすぐに拗ねるけれど。他の、ジャングルジムや地球儀やシーソーなんかは、ここに居る歴が長いのかかなり大人びている印象だ。しょっちゅう慰めている。

「……」

 あぁでも。

 この間から公園に行くと、あの犬まで居座るようになっていて……別に遊ぶのはいいのだけど、下手に懐かれすぎるのはあまり好ましくない。そもそも犬はあまり得意ではないのに。関わった私が悪いのだけど。

「……お前」

 辿り着いた公園の入り口に。

 案の定犬がいた。

 その足元には、なぜかサッカーボールが転がっていた。どこで見つけてきたのだ……どこぞのサッカー少年の忘れ物ではなかろうな。

「……、」

 転がっていたサッカーボールを拾い上げながら、公園へと入っていく。

 こちらに気づいたブランコが嬉しそうな声を上げたと思えば、憑いて来ていた犬に気づき何やら喚きだす。彼らの関係が未だによく分からないのだが、まぁ悪い仲ではないようだ。

「……まぁまぁ、」

 宥めながらブランコに腰かけ、ボールを軽く投げてやる。

 犬はそれを追いかけ、ブランコは楽しそうに話しかけてくる。

 ……今日の夜も、にぎやかになりそうだ。





「……なんで濡れてるんですか」

「思ったより早く雨が降り始めたんだよ」

「……タオル持ってくるので待っててください」

「あぁ、頼む」












 お題:夏休み・シーソー・サッカー


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