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『放課後スカイステージ』やり残した宿題より、大切なもの。  作者: 右上梓
第二章 ~Aozora Drop~ 復活した伝説のアイドル部、学校から潤沢な活動費を引き出したので、最高の衣装とパフォーマンスでアイドル界に殴り込みます!
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第18話「非公式活動記録」

八月某日――朝。


「今日こそ本気で遊ぶよ!」


雫がそう言ったとき、みんなは自然に頷いていた。


数日前、音楽室で“夏らしいこと、なにかしようよ”と話し合って決めた特別な一日。

照のスケジュール帳にはしっかりとこう記されている。


「終日:自由行動(※部費使用禁止)」


部の活動とは別――そう、“完全にプライベート”な思い出づくりである。


「交通費も、アイスも、全部“自腹”って、こんなに自由なんだね……!」


「いや、それ普通の休日だからね?」


「こういうときに、部費を出せるようになるのが“強豪校”ってやつなんだよ」


「どんな強豪校だよ、それ」


――そんな他愛もない会話を交わしながら、一行は海へと出かけていった。


午前――海

目的地は、学校から電車で一時間半ほどの小さな海岸。

人気の観光地というわけでもないけれど、その分、どこかのんびりとした空気が漂っていた。


雫はというと――ビーチサンダルで小走りに浜辺へ出ると、真剣な表情で波打ち際をじっと見つめる。


「……やっぱり海って、足首までがちょうどいい」


「雫ちゃん、それ、完全に“水着着てる意味”がないやつ!」


そらが笑いながら言うと、雫はいたって真面目な声で返す。


「波打ち際でちゃぷちゃぷするくらいが、夏っぽくていいんだよ」


「それ、ちょっと哲学っぽいね!」


一方、照は張り切ってビーチボールを手にし、「誰かラリーしよ!」と呼びかけるも、そらと海が軽く参加してすぐにばてる。


その様子を、パラソルの下からスマホのカメラ越しに見守っていたのは――未碧だった。


「はい、こっち見て――いいね、照くん、笑って! そらちゃん、雫ちゃん、もうちょっと寄って」


「先輩、なんでそんなに慣れてるんですか……?」


言いながらも、全員きちんとポーズを取るあたり、未碧の撮る写真にはそれだけの“信頼”があった。


海は途中から貝殻を拾いながら「これ、使えそう」とスケッチブックに何かを描きはじめ、

月音はというと、パラソルの下で文庫本を開いていた。


「読書する気、満々だったのね……」


「……日差しは苦手……でも、この雰囲気は好き」


それぞれの自由な過ごし方。だけど、なぜか調和している。


“今だけ”という特別な時間に、みんな自然と笑顔になっていた。


夜――夏祭り

日が落ち、街の明かりがぽつぽつと灯りはじめる頃。


「浴衣、着崩れてない……?」


「うん、ばっちり。かわいいよ」


「……あついけど……金魚すくいだけは絶対やる」


わたあめにラムネ、冷やしきゅうりとリンゴ飴。

手に持ちきれないほどの屋台グルメを抱えながら、みんなであちこちを歩き回る。


月音は、食べきれなかったチョコバナナを片手に持ったまま困っていた。

海は「衣装に応用できるかも」と、金魚の柄のうちわを真剣に観察している。


「金魚すくい、もう3回目だよ?」


「だって……捕まえたいじゃん……」


「飼えるの?」


「うーん……うち、猫いるし……でも、見てると愛着わいてくる……」


そんな雫の様子を、未碧は少し離れた場所から、浴衣姿のまま静かに見つめていた。


そらはその視線に気づき、声をひそめて問いかけた。


「……先輩、見守ってるみたいですね」


未碧は、やさしく笑って頷いた。


「……みんながこんなふうに夏を楽しんでるのを見ると、なんか……嬉しくて」


部活とは違う空気。けれど確かに、“仲間”といる時間。


「なんでこんなに“思い出”って感じなんだろうね」


雫がぽつりとつぶやく。


誰も返事はしなかったけれど、その問いの答えを、心のどこかで分かっていた。


いま、一緒にいるこの時間こそが、きっと一生ものなのだと。


そらは、ふと空を見上げる。


(……来年の夏も、こうやって笑っていられたらいいな)


その願いに応えるように――


夜空に、大きな花火がひとつ。

遠くの空でやさしく弾けた。


――祭りの熱気もすっかり落ち着いた頃。

そらたちは、学校近くの駅までゆっくりと戻ってきていた。


線路沿いの道を歩いていると、ぽつりと、ため息のような声がこぼれた。


「……今日は、楽しかったね」


「うん……ほんとに」


浴衣姿のまま、コンビニの明かりに照らされた路地を歩く一行。

昼間の賑やかさが嘘のように、街は静かだった。


「なんか……夢みたいだったね」


そらの呟きに、雫がこくりと頷く。


「もうちょっとだけ、帰りたくないね……」


誰もがふと足を止めて、夜空を見上げる。


さっきよりも星が増えていた。

ほんの少しだけ涼しくなった風が、浴衣の裾をそっと揺らす。


そらは、胸いっぱいに夏の空気を吸い込んだ。


(……この夏を、忘れたくない)


いつもの街、いつもの道。

けれど、今日は――ほんの少し違って見えた。


《非公式活動記録》

照はこの日の写真をきっちりフォルダ分けして保存した。

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