表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
放課後スカイステージ ~伝説は、この屋上から生まれた~  作者: 右上梓
第二章 やり残した宿題より、大切なもの。
44/53

第13話「遠足じゃなくて、視察です」

期末テストを終えた午後、音楽室には、どこかふぬけたような空気が漂っていた。


「……夏休み、どうする?」


照のひとことで、その空気がふわりと動き出す。


「海くん、また衣装の素材探しに行くんでしょ?」


「うん。布地の問屋まわりたいなって思ってる。ちょっと見たい新素材があって」


「月音ちゃんは?」


「……花火とか……あと、できれば冷房のきいた静かなところ……」


「そらは?」


「私は、みんなと一緒ならどこでも!」


笑い声がこぼれたその瞬間、いつもの放課後が、ほんの少しだけ特別な空気をまとう。


そして――雫は少し迷いながらも、ぽつりとつぶやいた。


「私は……お台場でやる、アイドルフェス……観に行ってみたいなって」


一瞬、全員が「おっ?」という顔になる。


「ステージとか、どんな感じなのか、ちゃんと観てみたい。……“本物のアイドル”の」


数秒の沈黙。けれど、それは否定ではなく、想像のための静けさだった。


「観に行くだけじゃなくて……いつか、出る側になれたら」


そらが、思わずぽつりとこぼす。


それに、照がにやりと笑い、


海が、スケッチブックをぱたんと閉じる音を響かせる。


「……なら、衣装の研究もしとかなきゃな」


誰かが笑い、誰かが目を輝かせる。


“夢”はまだ遠い。だけど、ここには確かに――それを追いかける仲間がいる。


……と、そこへ。


「ふふ……いい顔してるわね、みんな」


不意に扉が開き、東雲先生が音楽室に顔を出す。


(なぜかこういうときに限って、絶妙なタイミングで現れるのがこの人だ。)


「先生!」


そらがぱっと顔を上げ、他のメンバーもすぐに姿勢を正す。


「……で、さっきから何の話?」


(いま来たばっかりなのに、なんで“さっきから”って言えるんだろう……)


「夏休みの予定です!」

「お台場のアイドルフェス、部のみんなで観に行けたらなって……!」


雫の言葉に、東雲先生は少し目を細める。


「……そうね」


と、意味ありげに小さくうなずいたあと、こんなふうに続ける。


「実はね、あのパレード――吹奏楽部と舞台芸術部の合同パフォーマンス、とても評判がよかったのよ。市の教育委員会からも“ぜひ今後もこうした文化活動を”って、正式に評価されてる」


「えっ……すごい」


「学校の中でも、“ちゃんとした部活動として機能している”って見なされたの。だけど、正式な“部”になったということは、もう、ただの友達同士の遠足気分で、県外のイベントにホイホイ出かけることはできなくなる、ということよ。“部活動”としての、ちゃんとした目的と計画書がなければ、学校は許可を出せないわ」


先生の言葉に、一同が黙り込む。


「そんな……」と、雫がうつむいた、そのとき――


「……それなら」


静かに口を開いたのは、部長である照だった。

「先生。ただの“遠足”がダメなら、“研修”や“視察”という名目ならどうですか? 俺たちは、次のステージの参考にするために、プロの現場を“見学”しに行く。これは、立派な“部活動”ですよね?」


その言葉に、全員の顔が、はっと上がる。

東雲先生は、一瞬驚いたように目を見開き、そして――にやりと、満足そうに笑う。

「……面白いこと、考えるじゃない。いいわ。その方向で、ちゃんとした計画書を提出できるなら、私が上に話を通してあげる」


「……はいっ!」


みんなの声がそろう。


その瞬間、静かな音楽室の中に、夏の予感がふわりと立ちのぼる。


そらが、小さく呟いた。


「観に行くだけでも、絶対、何か変わるよね」


それは、きっと誰の心にもあった気持ちだった。


ほんの小さな種火だけど、確かに――


この夏は、何かが始まる予感がする。


そして、それはまたひとつ、“空のステージ”に続く道になるのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ