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放課後スカイステージ ~伝説は、この屋上から生まれた~  作者: 右上梓
第二章 やり残した宿題より、大切なもの。
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第11話「本日の主役」

パレードの通りを少し先に進んだ地点。


そこでは、陽向学園ダンス部によるパフォーマンスが始まっていた。


制服をアレンジした衣装に身を包んだ十数人のダンサーたちが、息の合ったフォーメーションで一斉に跳ね、回り、腕を伸ばす。

流れているのは――本家『青春の影、私の光』


観客のざわめきが徐々に歓声に変わっていく。


「去年もやってたよね、これ」「ああ、また見られると思わなかった」「陽向学園のダンス部ってレベル高いよなあ」


拍手がひときわ大きくなったその直後、ふと、誰かが口にした。


「……あれ? この曲……」


通りの先、別のグループが近づいてくるのが見える。


マーチングバンドアレンジされた『青春の影、私の光』の音に乗せて、ゆっくりと踊る3人の少女。


白から空色にかけてのグラデーションが陽の光を透かし、ふわりと羽ばたくようなレースと羽根飾りが、ひとつの風景を描き出していた。


「……あれも陽向学園?」


「えっ、ていうか、歌ないけど同じ曲?」


「でも、こっちは三人……?」


人数の差に、一瞬、観客の誰かが言葉を飲む。


けれど次の瞬間、衣装が光を受けて宝石のようにきらめき、

振付の流れに合わせて揺れるたびに、その動きがまるで“魔法”のように視線を奪っていく。


ただ揃っているだけじゃない。

心で踊っているような、その3人のダンスに――


「……なんか、切なくて綺麗だね」


隣の誰かが、ぽつりと呟いた。


夕焼けが、街をオレンジ色に染めていく中で、

その静かな言葉は、風に乗って消えていった。


その頃――

「……なにあれ、かっこいい!」


「プラカード持ってるだけで絵になるのずるくない?」


「『本日の主役』の襷、え、ネタ? ガチ?」


照はと言えば、完全に真顔で行進しながらも、沿道からスマホを向けられ、軽くバズりかけていた。


そんな視線をまったく意に介することもなく、プラカードの角度を微調整しているあたりが、逆に本気っぽくてまた面白い。


東雲先生、未碧、そして海は、沿道からその様子を見守っていた。


「……ふふ。あの顔、見て」

先生が小さく笑った。

「なんであんなに堂々としてるのかしらね」


「……でも、目立ってる。写真撮られてるな、あれ」

海は、どこか呆れたように感心する。


「うん。なんか、名物みたいになってるね」

未碧が肩をすくめながらも、どこか誇らしげに呟いた。

「……ほんとに、“本日の主役”って感じ」



――夕焼けが街をゆっくりと染めていく。


先ほどまでの行進曲が終わり、マーチングバンドのリズムがふっと引いていく。


少しの静寂――


その隙間を埋めるように、クラリネットとフルートが奏でる、透明な旋律が流れ出す。


聴き慣れたイントロ。だけど、生の息遣いが宿ることで、まるで新しく生まれ変わったような音。


「……吹奏楽?」

「いや、これ……Aozora Dropだ……!」


誰かの呟きが、沿道にさざ波のように広がる。


チューバとユーフォニアムが、柔らかく支える低音の土台を奏ではじめ、トランペットがハーモニーに差し込む。


華やかでありながら、音の間に風が吹き抜けるような、澄んだアンサンブル。


その重奏のなか――そら、雫、月音が肩掛け式の拡声器を携え準備を始める。

マイクは小さな四角い車掌型。カールコードが揺れ、スピーカーがその声をまっすぐ伝える。


「うつむいた視線の先 いつも同じ景色

胸の奥 閉じ込めてた 小さなためいき」


そらの声が通りを包み込む。

アスファルトの熱気と風の中、あたたかな感情だけが浮かび上がる。


雫がステップを刻み、月音の動きがその流れを導く。

淡いグラデーションの衣装が、風に乗ってふわりと揺れる。

陽の光に透けたレースが雲のように広がり、羽根の刺繍がきらめく。


「影がふたつ 並んでる

ただ それだけで

こんなにも温かいなんて 知らなかったよ」


カメラを構えていた人が、思わずシャッターを切る。

衣装の宝石が夕日を反射し、しずくのような光が胸元に宿る。


「……きれい……」


どこかから、そんな声がこぼれた。


そらたちは歌いながら前を向いていた。

まるで――この街ぜんぶに「歌」を差し出すように。


「ぎこちない一歩も

きっと無駄じゃないから

信じてみたくなる みんなといる未来」


吹奏楽部の低音が、しっかりと彼女たちを支える。

トロンボーン、チューバ、ユーフォニアムが息を重ね、

歌の後半、希望の光を照らすようにホルンが響く。


「涙のあとには

澄み渡るこの青空

手招くの 新しい物語が」


そらの足元をすり抜けて、風が吹いた。

その瞬間、空を見上げた誰かの頬に、光が一粒、落ちたように見えた。


「Hope is calling us

希望が降りそそぐ」


歌いながら、3人の少女たちは手を取り合うわけでも、見つめ合うわけでもなかった。

けれど、心の芯だけがしっかりと重なっている。


それが、沿道の人々に――まるで「本物」だけが持つ音の温度として伝わっていた。


「影がふたつ 並んでる

ただ それだけで

こんなにも世界は優しいと 感じてるんだ」


そして――


「羽ばたこう その名前を呼んで 輝け

Aozora Drop to the endless sky!

未来へと――」


ラスサビの盛り上がりにあわせ、トランペットが高らかに鳴り響く。

3人のステップがぴたりと揃い、衣装のレースが舞い、宝石が光を反射する。


その刹那、まるで本当に空から降ってきたかのように、

どこまでも透き通った余韻が、街を包んだ。


拍手。

歓声。

そして、夏の風。


ひとしずく、確かに落ちた――Aozora Drop

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