第6話「最初の喝采とキツネ様降臨」
※YouTubeチャンネル「@AozoraDrop」で劇中歌を公開していますので是非お聴き下さい♪
【劇中歌プレイリスト】
https://youtube.com/playlist?list=PLXQVDdlnX86cDoXjk4TfuBJ8d58lJ8Baj
ステージの上。
3人の視線がふと重なり、呼吸がひとつに溶け合った瞬間——
静かに転調し、その音は未来を示すように一段上の光を帯びる。
雫が一歩、前へ。
そらと月音もそれに続き、立ち位置をわずかに変えて肩を並べた。
Aozora Drop to the endless sky!
その言葉とともに、澄んだ高音が空間を満たす。
今までの軌跡をすべて抱きしめ、なおその先へ手を伸ばそうとするかのような、切なくも力強い声。
照明が静かに広がり、ステージ全体を柔らかな光で包み込む。
――未来へと
その一節だけを残して、曲は音を止めた。
ジャジャン、と短く響いた終わりの音は、まるで話の句読点のように控えめだったが、その直後、静寂が生まれる。
一瞬の間。
そのあまりの透明さに、観客の誰もが息を呑んだ。
そして——
「うおおおおおっ……!」
会場を包むような拍手と歓声が、ステージに押し寄せた。
最初の頃の冷めた空気が、信じられないほど熱を帯びていた。
彼女たちの歌は、間違いなく“届いた”のだ。
(……伝わってる。きっと、少しずつだけど)
雫がそう思った瞬間、ふと客席の最前列に目が留まった。
さっきまで一歩引いたように見ていた女の子が、スマホをそっとしまい、まっすぐこちらを見ていた。
その表情には、最初に見せていた戸惑いはなく、むしろ――少しだけ、憧れのような光が宿っていた。
「ありがとうございまし……た!」
そらが震える声でそう言うと、3人は頭を下げて、ステージをあとにする。
袖に戻ったその瞬間、月音がそっと一歩を踏み出した。
「……じゃあ、いってくる」
「あまつぶ、ね」
「うん」
未碧がそっと背中を押し、照が小さく頷いた。
ステージに、再びピンスポットが落ちる。
月音のソロ、『あまつぶの小径』。
照明が変わり、音楽室で聴いた優しいピアノのイントロとは似ても似つかぬ、重厚なバンドサウンドが会場を揺らし始めた。ドラムの力強いビートとベースの重低音が床を震わせ、歪んだギターが空気を切り裂く。
その上に、シンセサイザーの高速シーケンスフレーズが鋭く響き渡り、耳をつんざくようなエネルギーを放っている。
部員(仮)たちは思わず顔を見合わせ、唖然とした表情を隠せなかった。
袖で見守る黒瀬照の視線は、客席後方で腕を組み、ニヤリと笑う東雲先生に釘付けだった。
その不敵な笑みを見て、内心で思わず突っ込む。
「……やりやがったな、先生……」
不敬だとわかりつつも、どうしてもそう思わずにいられなかった。
客席もざわめいている。予想外のサウンドに戸惑う空気があったが、そのざわめきはすぐに興奮へと変わっていった。
だが、ステージの中央で歌う伏見月音の目は、誰よりも真っ直ぐに前を見据えていた。
肌を刺すスポットライトの熱さが、彼女の内側に眠っていた“魂”をたたき起こす。
……それはずっと心の奥に仕舞い込んでいた、もう一人の自分。
“静けさ”の裏にひそんでいた“叫び”――それが、いま目を覚ました。
ブリッジミュートを効かせて刻む歪んだギターのリフに乗せ、彼女の歌声が会場を支配する。
歌うというより、叫ぶようだった。
紡がれる言葉は、詩ではなく刃。
痛みを知る者だけが持つ、誰かの心を救うための武器。
その声に、誰もが息を呑んだ。
まるで何かに憑かれたかのような圧倒的な存在感。声は切れ味鋭く、強烈なビートを纏いながらも、時に優しく、聴く者の魂を揺さぶる。
驚きに見開かれた瞳。
思わず息を飲む音。
誰かが拳を突き上げた。
それが引き金となり、客席は一つの塊のようにうねり始める。
照はステージ袖からそれを見て、心の中で静かに感嘆した。
「控えめに言って、最高じゃん……」
かつて、ひとりきりで言葉を紡いでいた少女が、今は多くの視線を一身に受けて――
不器用で、まだ未完成かもしれない彼女たちの“今”が、この瞬間、確かに「届いた」——そんな確信が、照の胸に強く刻まれた。




