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放課後スカイステージ ~伝説は、この屋上から生まれた~  作者: 右上梓
第二章 やり残した宿題より、大切なもの。
36/53

第5話「カバーじゃありません」

※YouTubeチャンネル「@AozoraDrop」で劇中歌を公開していますので是非お聴き下さい♪

【劇中歌プレイリスト】

https://youtube.com/playlist?list=PLXQVDdlnX86cDoXjk4TfuBJ8d58lJ8Baj

地下ライブハウス・本番直前


袖には、緊張と熱気が漂っていた。


ステージの照明はまだ落ちたまま。小さな空間に、ささやくような観客の声がじわじわと膨らんでいる。対バン形式の無料ライブ――観客の多くは、次に出るグループのファンか、ふらりと立ち寄っただけの音楽好き。


つまり、この空間に「彼女たち」を知る者は、ほとんどいない。


「……いってらっしゃい」


照の声に、未碧は軽くうなずいた。


手には、いつも学校で使っているピアノの譜面。マイクの角度を、さっきリハで覚えた位置に調整し、深く息を吸って――


ステージに、光が差した。


その光の中に、ひとりだけ現れた少女。その小柄なシルエットに、最前列の客の何人かがざわついた。


(えっ……ピアノ? アイドルっていうか、シンガーソングライター?)


そんな戸惑いを含んだ視線を、未碧は受け止めながら、鍵盤にそっと指を置いた。


弾き始めたのは、軽やかで優しいメロディ。

タイトルは――『ツインテールと猫の日』。


最初の数秒、観客の反応は明らかに薄かった。


しかし――


ツインテール揺れてキミと笑う

私のにゃんこちゃん

ちょっと気まぐれな私だけど

猫みたいに自由に生きてる

おうちの中は 私たちの世界


次第に、空気が変わっていった。


未碧の声には、作りものではない「温度」があった。

言葉の端々ににじむ猫への愛しさ。ささやかだけど、確かに「ここにある日常」。


その日常を、音にして、伝えているのだと――

客席の誰かが気づいたとき、その目が少しだけ真剣になる。


(……え、この子、もしかして……)


スマホを握っていた客のひとりが、ふと指を止め、記憶の中の動画と目の前の姿を重ねた。


弾き語りの演奏が終わった瞬間、拍手は控えめだったが、確かに温かかった。

最初に想定されていたよりも、ずっと“届いていた”――そんな反応。


静かに一礼した未碧は、そっと袖へと戻っていく。


「……どうだった?」


「ふふ、まあまあ?」


そう言って微笑んだ未碧のツインテールが、ふわりと揺れた。



『青春の影、私の光』


ピアノのイントロが流れはじめると、静かにステージへ現れたのは――

伏見月音、星野そら、そして翠谷雫。


先ほどの未碧のソロとは打って変わって、3人並んでの歌唱。ダンスはない。ただ、まっすぐにマイクを握り、言葉に想いを乗せる。

音数を絞った伴奏に、まだぎこちないながらも芯のある声が重なった。


それは、あの日の別れをなぞるような静けさと、今日の始まりを告げる確かさを持った歌。


けれど――


「……あれ? これって……」


「知ってる……昔バズってたやつだ」


「いや、カバーでしょ?」


客席の一部から、小さくそんな囁きが漏れた。


ステージから見る限り、反応は――冷静、いや、やや冷ややかですらあった。


拍手はあった。だが、先の未碧のソロよりも控えめだった。


まるで、「知ってる曲を無難に歌っただけ」とでも評価されているかのように。


3人は一礼し、無言でステージの脇に下がる。


続いて現れたのは――黒瀬照と、大須海。


ふたりはセンターに立つと、軽くマイクを手に取った。


「こんにちは、“二代目舞台芸術部(仮)”です」


照の最初の一言に、観客のざわつきが少しだけ収まる。


「さっきの曲――『青春の影、私の光』。知ってる人、いるかもしれませんね。ショート動画で昔ちょっとバズって……でも、あれ、実は今日ここにいるメンバーのひとりが作った曲なんです」


「……“カバー”じゃありません」


海がそれに続くと、一部の客の目が、明らかに変わった。


「この曲は、かつて僕たちの学校にあった“舞台芸術部”という部活の解散の日――そのラストステージで生まれた、最後の曲です。

作曲したのは……さっき、ピアノを弾いていた、朝日未碧」


一瞬の静寂。


そして――


「それから一年と数ヶ月が経って、今日。

この曲を、僕たちの”はじまりの曲”として――もう一度響かせたくて、この場所に来ました」


照の言葉に、ようやく数人の観客が顔を上げる。


目の奥が、少しだけ揺れていた。


海が一歩前に出て、冗談めかして言う。


「ええと……“二代目舞台芸術部(仮)”、って名前なんですけど、部活としてはまだ仮です。仮なんだけど、本気でやってます。

だから、これから歌う曲も、まだ手探りの中で生まれたばかりのものです。でも、ちゃんと、彼女たちの“今”を詰め込んでいます」


「……次の曲は、“Aozora Drop”」


照がマイクをそっと持ち直す。


「はじめてのステージに、はじめてのオリジナルソング。

ぎこちなくてもいい、ちゃんと、届きますように」


袖の中で待っていた月音・そら・雫が、照明に呼ばれるようにふたたび登場する。


静かなイントロが流れ始めた。


ステージに立つ彼女たちは、確かに不器用だった。動きは揃いきらず、視線も少し泳ぐ。でも――

彼女たちは、まっすぐに“何か”を届けようとしていた。


そして、それは――


少しずつ、ほんの少しずつだけれど、観客の心に入り込んでいた。

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