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放課後スカイステージ ~伝説は、この屋上から生まれた~  作者: 右上梓
第二章 やり残した宿題より、大切なもの。
34/53

第3話「屋上から地下へ」

休日の午後。

駅から少し離れた裏通り、看板も目立たない雑居ビルの前に、一同は私服姿で集まっていた。

「……ここ、だよね?」


そらが看板を見上げて言う。ビルの入口には小さなプレートが掲げられているだけで、言われなければ、通り過ぎてしまいそうな場所だった。


「なんか……入りづら……」


雫が声を潜めて呟く。

彼女の視線の先、建物の脇にあるコンクリート打ちっぱなしの階段が、地下へと続いている。


壁という壁には、バンドやイベントのステッカーがびっしりと貼られていた。剥がれかけたもの、重なり合って文字が読めないもの――そのどれもが、この場所の時間の蓄積を語っている。


「な、なんか怖そう……」


「対バン形式って聞いたけど……怖いお兄さんいたらどうしよ……」


月音とそらが顔を見合わせ、不安げに目を伏せる。


「うーん……昔はもっと雑然としてた気がするけど……なんか小綺麗になってる?」


東雲先生が階段を見下ろしながら、どこか懐かしげな顔をする。


「先生、昔ここでやってたんですか?」


「うん。もう十年以上前だけどね。懐かしいわぁ……けど、当時はもっと……ゴチャッとしてた。空気もたばこ臭かったし。雰囲気変わったかもね。」


東雲先生を先頭に、ゆっくりと地下へ降りていく。


コツン、コツンと響く足音。


ドアの向こうからはわずかに、リハーサル中と思われる電子音が聞こえていた。


入口でスタッフに案内され、シール状のパスが手渡された。

光沢のあるサテン素材に、きらりと光る「BACKSTAGE PASS」の箔押し。


「これ……どこに貼るの? 服? カバン?」

そらが戸惑い気味に問いかけながらも、ちょっと誇らしげにそのパスを掲げてみせる。

「こういうの、テレビでしか見たことない……!」


月音が小声で笑う。


雫も「えー、貼るの緊張する……ずれたらやだな……」と、パーカーの胸元に慎重にシールを貼る。


その仕草ひとつひとつに、ちょっと得意げな気持ちと、やっぱり隠しきれない緊張がにじんでいた。

貼ったパスをちらりと見せ合いながら、みんなの顔がほんの少しずつ引き締まっていく。


まだ知らない世界。だけど、もう目の前にある。

そんな空気をまといながら、一同は東雲先生に続いて、ゆっくりと奥へ進んでいく――。


東雲先生がドアを押し開けた先、楽屋の中では――


カラフルな衣装を身にまとった少女たちが、円陣を組んで「いっくよー!」と声を合わせていた。


フリル、リボン、煌びやかなアクセサリー。

アイドルだ。それも、本気の。


「……アイドルグループ?」


そらが小さく呟く。

その言葉をきっかけに、一同の視線が一斉にそちらへ向く。

そして見渡す限り、楽器を持った怖そうなお兄さんは、どこにもいなかった。


かつてのロックバンドたちの“地下の居城”は、いまや違う時代の“夢”が息づく場所になっていた。


(――時代、変わったんだな)

初めて足を踏み入れた者でさえ、そう思っていた。


その中で、ひとり。

海が、目を輝かせていた。


「……あのスカートの裾、いいな。重ねレースか。ベースはオーガンジー?……いや、サテンかも……。で、あのリボンの位置……」


ぼそぼそと呟きながら、彼はカバンから小さなスケッチ帳とシャーペンを取り出し、立ったままの姿勢で描き始める。


「ちょ、海……今?」


照が小声でツッコミを入れるが、海はすでに“スイッチ”が入ってしまっていた。


「……いや、無理。これ、描かないと収まらない」


その眼差しは真剣そのものだった。

彼の中でもまた、“創りたい”という衝動が静かに火を灯していた。


けれど、だからこそ――

いま、この場所に自分たちの“音”を響かせる意味があるのかもしれない。

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