表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/53

第26話「蒼の炎」

放課後の音楽室。


雨が上がったばかりの空は、窓の向こうでまだどこかぼんやりしていた。


梅雨の季節らしい、湿った風が隙間からふわりと入り込む。


机を囲むのは、いつもの四人。


最近は昼休みも放課後も、ここで新しい曲の相談をしている。


今日も、月音が書いた歌詞の話題になっていた。


「わたし、やっぱりこういうの好きだなぁ」


みゃお先輩が、柔らかな声で言う。


「ふんわりしてて、でも真っ直ぐで。……うん、素敵だよ、月音ちゃん」


月音はちょっと照れたように、小さくうなずいた。


「ありがと……うん……」


「月音ちゃんの歌詞、すごく優しい雰囲気だよね」


そらも、そっと言葉を添える。


その声は静かで、でもほんのりと嬉しさがにじんでいた。


そのとき、音楽室の扉がノックもなくゆっくりと開いた。


「お、みんなそろってるね」


顔を出したのは——東雲先生だった。


一年生の三人は思わず姿勢を正す。


「あ、先生! 今ちょうど相談してたとこだよ」


みゃお先輩が手を振る。


先生はいつもと違って、穏やかな笑みを浮かべながら近づいてきた。


「いいね、楽しそうだ」


「先生、今日も吹奏楽?」


「うん、合奏の後にちょっと事務作業。こっちは……新曲かな?」


みゃお先輩が楽しげに答える。


「うん、月音ちゃんも加わってくれて、今は月音ちゃんの歌詞から作ってみようってなってるんだ」


「へぇ、一年の伏見さんだよね?」


先生が月音の方を見ると、月音はすこし戸惑いながらも、そっと会釈した。


「よろしくね。アレンジとか、なんでも気軽に相談していいから」


「……はい」


月音は小さくうなずいた。


その姿に、なんだか自分と重ねてしまって、雫も少し肩がこわばる。


「もしギターとか必要なら、任せて」


先生が肩の力を抜いた笑顔で言った瞬間、そらが小さく「……ギター?」とつぶやいた。


「先生、メタルバンドやってたんだって」


みゃお先輩がさらりと補足する。


空気がぴたりと止まる。


東雲先生は、メタルという言葉が似合うような見た目ではない。


シャツの袖をまくってファイルを抱えた、落ち着いた雰囲気の音楽教師——

 そのギャップに、不思議な静けさが音楽室を包んだ。


「えっ……」


月音の目が見開かれた。そらも雫も少し驚いて、先生を見返す。


「曲は未碧が書いてるんでしょ?」


東雲先生はにこりと微笑んだ。


「うん。でも月音ちゃんの詩のイメージを崩したくないから、今回は柔らかくて静かな雰囲気の曲になるかも」


「……そっかぁ。うん、それは楽しみだね」


雫はそう言った先生の笑顔に、ほんの少しだけ、残念そうな影が差していたような気がした。


(あれ?……メタルじゃなくて、がっかりしてる?)


ほんのちょっと、だけど。


そんな空気を、雫は確かに感じた。


先生が帰った後も、その違和感はどこか心に残った。


怖い人だと思ってたけど、思ったよりずっと——なんというか、素直な人だった。


その夜、雫はいつものように机に向かった。


ノートを開いて、ふとペンを止める。


(メタルって、どんな歌詞なんだろう?)


がっかりしたような東雲先生の表情が、なぜか忘れられなかった。


期待に応えてみたい、と思った。けれど自分には知識も経験もない。


だから、とにかく「かっこいいと思う言葉」をひとつひとつ選んでみた。


何度も書いては消し、少しずつ形になっていく——


気づけば、いつの間にか数時間が経っていた。


試行錯誤の末にようやく完成した歌詞を、静かに読み返してみる。


あまりに重くて痛々しい言葉たち。


——我ながら、かなり厨二病っぽい。


(でも、これが今のわたしの表現なんだ)


そんなふうに思った。


「……先生に、見て欲しいな」


ぽつりとこぼれた言葉が、夜の静けさの中に吸い込まれていく。


次の放課後が、ほんの少し待ち遠しくなった。

「蒼の炎」


朽ち果てた闇に、揺らめく影

凍りついた心に、差し込む蒼

炎の囁き、耳元で響く

夜を裂く叫び、彷徨う魂


燃え尽きるはずの命の火は

蒼く染まりゆく、絶望の彼方へ


蒼の炎が燃え盛る

悲しみの中で、輝く命

瞳に宿る、揺るがぬ誓い

消えない傷も、今は力に変わる


破滅の鐘が、静寂を切り裂き

血の香り纏い、運命が揺るぐ

憎しみの渦に飲み込まれても

その炎は、決して消せない


闇の中で彷徨う影は

蒼く燃え続ける、終わりなき叫び


蒼の炎が空を裂く

痛みの果てで、光を掴む

この手に残る、果てしない夢

壊れた心が、今再び燃え上がる


蒼い炎、闇に舞う

全てを飲み込んで、焼き尽くす

君の声が、遠く響いて

残るのはただ、燃え続ける痛み


蒼の炎が消えぬまま

終焉の中で、ただ立ち上がる

瞳の奥に、宿る勇気

この闇を照らし出す、蒼の炎

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ