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第21話「てるてるの魔法」

動画のコメント欄に現れた、たった一行の言葉。


『雨の中でも踊れますか?』


それは挑戦にも、願いにも見えた。


そらと雫は顔を見合わせて、小さく笑った。そして、うなずいた。



ラジオでのオンエアは、静かな雨の夜だった。


ローカル番組内の1コーナー。でも、確かに流れた。


『Aozora Drop』——屋上で生まれた歌が、空を越えて、どこかの部屋へ届いていく。


「ラジオで聴いて知ったけど……なんだこれ、良すぎる」

「歌詞がエモすぎて死んだ」

「雨の日に沁みるやつ……泣いた」

「Aozora Drop、フルで聴けないの???」


その夜、投稿していたSNSアカウントの再生数とフォロワーが静かに跳ね上がった。


そして次の日。



細かい霧雨が降る中、そらと雫は屋上にいた。


鮮やかなオレンジ色のレインポンチョをまとって。


挿絵(By みてみん)


『Aozora Drop』の、ラジオと同じ音源を流しながら、ふたり、雨の中で舞う。


くるくると、水しぶきを撒き散らして。


歌詞が「涙のあとには 澄み渡るこの青空」に差しかかった、そのとき。


灰色の雲が一瞬割れて、そこから光が差し込んだ。


ほんの少しだけ、青空が顔を覗かせる。


そらと雫は、お互いを見て、思わず笑った。


それはもう、約束された奇跡のようだった。


ポンチョのフードを軽く外したそらが、ふと手をかざす。


雨は、もうほとんど上がっていた。


ふたりの視線が、屋上の外へ向かう。


視線の先——校庭のすみに咲く、紫陽花の花が、雨粒を纏って静かに輝いていた。


薄い青、白、淡いピンク、そして紫。


色とりどりの花弁が、濡れた土と光の中でふわりと浮かぶように揺れている。


それはまるで、何かをじっと見守るような眼差しだった。


この瞬間を祝福する、小さな花たちの静かな拍手のようでもあった。


「……きれい」


そらの声は、ほんのささやきだった。


でもそれは確かに、今この時間に重なった、ひとつの想いだった。



後日、その動画を投稿すると、コメント欄は一気にカオスになった。


『てるてる坊主!?』『オレンジてるてるだ〜』『雨を止めた二人』

 『あの曲、屋上で歌ってたのか!』『ラジオで聴いたやつ!?』『フルください』

 『何この尊い世界』『光が差す演出、天才か?』『普通に泣いた』

 『推す』『次もやって』『毎週アップして』『てるてるてる……』——


想定とは少し違う形で、動画は瞬く間にバズった。けれど、そらたちは笑っていた。ただの冗談でさえ、自分たちの表現の一部になっていくのが嬉しかった。


「……ありがとう、『雨の中でも踊れますか?』の人」


そらがつぶやくと、雫も小さく「うん」と頷いた。


そして照が、スマホのコメント欄をちらりと見て、小さくつぶやいた。


「……オレンジてるてる、ね。じゃあ俺は……ブラックてるてる、か?」


「分かってんじゃん!」そらと雫が同時に言った。


三人の笑い声が、夕焼けの空にふわりと溶けて——

 その向こうの“誰か”に、届くような気がした。

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