第21話「てるてるの魔法」
動画のコメント欄に現れた、たった一行の言葉。
『雨の中でも踊れますか?』
それは挑戦にも、願いにも見えた。
そらと雫は顔を見合わせて、小さく笑った。そして、うなずいた。
*
ラジオでのオンエアは、静かな雨の夜だった。
ローカル番組内の1コーナー。でも、確かに流れた。
『Aozora Drop』——屋上で生まれた歌が、空を越えて、どこかの部屋へ届いていく。
「ラジオで聴いて知ったけど……なんだこれ、良すぎる」
「歌詞がエモすぎて死んだ」
「雨の日に沁みるやつ……泣いた」
「Aozora Drop、フルで聴けないの???」
その夜、投稿していたSNSアカウントの再生数とフォロワーが静かに跳ね上がった。
そして次の日。
*
細かい霧雨が降る中、そらと雫は屋上にいた。
鮮やかなオレンジ色のレインポンチョをまとって。
『Aozora Drop』の、ラジオと同じ音源を流しながら、ふたり、雨の中で舞う。
くるくると、水しぶきを撒き散らして。
歌詞が「涙のあとには 澄み渡るこの青空」に差しかかった、そのとき。
灰色の雲が一瞬割れて、そこから光が差し込んだ。
ほんの少しだけ、青空が顔を覗かせる。
そらと雫は、お互いを見て、思わず笑った。
それはもう、約束された奇跡のようだった。
ポンチョのフードを軽く外したそらが、ふと手をかざす。
雨は、もうほとんど上がっていた。
ふたりの視線が、屋上の外へ向かう。
視線の先——校庭のすみに咲く、紫陽花の花が、雨粒を纏って静かに輝いていた。
薄い青、白、淡いピンク、そして紫。
色とりどりの花弁が、濡れた土と光の中でふわりと浮かぶように揺れている。
それはまるで、何かをじっと見守るような眼差しだった。
この瞬間を祝福する、小さな花たちの静かな拍手のようでもあった。
「……きれい」
そらの声は、ほんのささやきだった。
でもそれは確かに、今この時間に重なった、ひとつの想いだった。
*
後日、その動画を投稿すると、コメント欄は一気にカオスになった。
『てるてる坊主!?』『オレンジてるてるだ〜』『雨を止めた二人』
『あの曲、屋上で歌ってたのか!』『ラジオで聴いたやつ!?』『フルください』
『何この尊い世界』『光が差す演出、天才か?』『普通に泣いた』
『推す』『次もやって』『毎週アップして』『てるてるてる……』——
想定とは少し違う形で、動画は瞬く間にバズった。けれど、そらたちは笑っていた。ただの冗談でさえ、自分たちの表現の一部になっていくのが嬉しかった。
「……ありがとう、『雨の中でも踊れますか?』の人」
そらがつぶやくと、雫も小さく「うん」と頷いた。
そして照が、スマホのコメント欄をちらりと見て、小さくつぶやいた。
「……オレンジてるてる、ね。じゃあ俺は……ブラックてるてる、か?」
「分かってんじゃん!」そらと雫が同時に言った。
三人の笑い声が、夕焼けの空にふわりと溶けて——
その向こうの“誰か”に、届くような気がした。




