第12話「まだ、風のなか」
午後の光が傾き始めた屋上には、柔らかな風が流れていた。
そらはフェンス越しに遠くの街並みを眺めながら、ひとりでその風を受け止めていた。
空を見上げると、切れかけた飛行機雲が西の空へと溶けていくところだった。
扉の向こうから、ドタドタとにぎやかな足音が近づく。
「そらーっ!」
聞きなれた声に振り返ると、照、雫、みゃお先輩の三人が姿を現した。
それぞれの表情に光が差し込み、階段を上がってきたばかりの熱を少し残している。
「やっぱり、いた」
照が軽く息を整えながら笑った。
「放課後で、何もなかったらここだって思ってさ」
「観察済みってやつだね」
みゃお先輩が言って、そらも肩をすくめる。
「ばれてたんだ」
「ふふ、隠れてるつもりだった?」
雫は静かに笑って、そらの隣に立った。
「グループ名、決まったし」
照が少しだけ目を細めて空を仰ぐ。
「まだ実感ないけど、なんか、ちゃんと“始まった”って感じするな」
「Aozora Drop……」
そらは名前を口にしてみる。
「うん、なんだか不思議。自分で言い出したのに、まだ慣れない」
「でも、似合ってるよ。わたしたちらしいと思う」
みゃお先輩の声は穏やかで、少しだけ春の匂いをまとっていた。
そのとき、雫のまぶたが一瞬だけ伏せられる。
(みんなの“らしさ”って、どんなかたちなんだろう)
(わたしもその中にいるのかな……)
そらが雫の方をちらりと見る。目が合いそうになって、雫は少し顔をそらした。
「ねえ」
みゃお先輩がぽつりと、思いついたようにつぶやく。
「前に言ってたこと、やっぱりやってみたいなって。曲作り」
その言葉に、照の眉が動き、そらも少し目を丸くした。
「ほんとに……やってみるの?」
「うん。なんとなく——タイミングが今かなって」
みゃお先輩は、風で揺れたツインテールを指で抑えながら微笑む。
「もしよかったら、みんなのための歌を、つくってみたいんだ」
その言葉は、静かな屋上の空気に、また新しい何かを連れてくる予感がした。




