第10話「Aozora Drop」
放課後、音楽室を後にした四人は、そのまま並んで歩いていた。
校舎の脇を抜けて、裏門から商店街へと続く細い道。
濃い青に染まった空の端に、夕焼けがにじんでいる。
吹く風は心なしかやさしくて、どこか、新しい始まりの匂いがした。
そらはふと一歩前に出て、空を見上げる。
そして、小さくつぶやいた。
「そういえば、こうやって一緒に練習してるのに、私たちって名前、ないよね」
みゃお先輩が少し驚いたようにそらを見る。
「名前って……グループ名?」
「そうです。なんていうか、私たちのこと、なんて呼べばいいんだろうって」
照が口を挟む。
「確かに。SNSとかでも、毎回『屋上の人たち』とかって書かれると、ちょっとモヤるよな」
「そうそう、それそれ」そらが笑う。
「……どうする?」とみゃお先輩が問いかける。
その問いに明確な答えが出ないまま、少しの沈黙が流れる。
ふと、雫がショートボブの髪を風になびかせながら、ぽつりと口にした。
「空に、雫が落ちたら……それって、きっと、きれい」
そらがその言葉に目を向ける。
「……空に落ちる雫」
みゃお先輩が続けるように、静かに言葉を添える。
「碧い空に、透明な雫がぽつんと……うん、絵になるかも」
そらが目を輝かせる。
「『Aozora Drop』……とか?」
その響きに、皆がふと顔を見合わせる。照がうなずいた。
「悪くねぇじゃん。つーか、むしろ結構よくね?」
みゃお先輩も、そっと微笑んだ。
「私も、好き」
そらが息を呑み、胸にぽつんと何かが落ちるような感覚を覚える。
「名前を持つって、こんなに、心がふわっとするんだ……」
照が少し間を置いて、わざとらしく口を開いた。
「で、俺は?」
三人が揃って照を見る。
「いや、俺も名前に入ってるのかと思ってさ。ほら、俺がいないと始まんないじゃん、ダンスとか。……じゃあ、俺が考えた名前も聞いてくれよ」
照は得意げに胸を張る。
「Shining Aozora Drop !」
その言葉に、そらと雫は一瞬きょとんとする。
「……必殺技みたいだから却下!」
雫が即座に言い放つと、そらも吹き出した。
「ひでぇな!」
照が不満そうに肩をすくめる。
「でも照は裏方さんでしょ?」と雫。
「う……ま、自覚はあるけどさ」
そのやりとりに、全員がふっと笑う。
そして、風が静かに四人の間をすり抜けていく。
『Aozora Drop』——名前を得たその瞬間、彼女たちのステージは、確かな輪郭を帯びはじめた。




