いつもの自動販売機
座太郎は見知らぬ男に押さえ込まれホーム上に倒れていた。
「何を考えているんですか?ダメですよ、そんなことしちゃ!」
その若い男は息を切らしながら座太郎を押さえつけ、怒りとも哀れみとも言えない眼で見つめていた。
「ちが・・・おれは・・・」
周囲を見渡す。人だかりができている。だが、アイツだけがいない。すぐに状況は理解できた。自分がフラフラと電車の近づく線路に近づいていった。そして、この男に救われたのだ。
「違うんだ・・・本当に・・・でも、ありがとう・・・」
「・・・そうですか」男は手の力を緩め、そして座太郎の腕を引きゆっくりと立たせてくれた。「もし勘違いだったらすみません。でもいいこともあるはずです。健康なだけでも、十分幸せだと思いませんか?」
「ああ・・・確かに・・・」
座太郎は自分より明らかに若い青年を見た。
エリと同い年くらいか、それよりも若いかもしれない。
「じゃあ僕は仕事があるんでこれで」
「あ、ああ、ありがとう・・・」
青年は周囲の人ごみをサッと避け、座太郎がいつもコーヒーを買う自動販売機に飲み物の補充を始めた。おそらく仕事の途中で座太郎の異変に気がつき、とっさに駆け出してくれたのだろう。
仕事に勤しむその後ろ姿に申し訳がなく、座太郎は逃げるように駅のホームをあとにした。