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セキトリ!〜満員電車 Sit or Dead〜  作者: 伊波氷筍
座れない?世界が闇に落ちる日
31/52

ジェイク・シッター 1

「もう、そんなに落ち込まないでよ、私だって座れてないんだから・・・」

 そう、エリだって毎朝座れていないのだ。座太郎の戦いを見届けた後、自分の戦いが始まる。そして敗れる。座太郎のような僅差の敗北ではなく座れる予感など一切ないままに。ただ今のエリは以前ほどダメージを負っていない。座太郎からの難易度が高いという言葉。座れなくて当然だった。それを聞いてなんとなく吹っ切れて、一つ決めていたこともあった。


 そのとき、スマホが震えた。カオリからのメッセージだ。

【着いたよ!改札の近くの喫茶店かな??】

 今日はカオリを誘っていたのだ。彼女も座太郎の心配をしており二人で何とか恩人を元気づけようと計画していた。

【そうだよ、待ってるね】

 エリはメッセージを返す。

「ほら、カオリももう来るよ。そんな白目のない眼をしてちゃダメ。カオリ、驚いて帰っちゃうよ・・・怖すぎる・・・」


 黒目だけの眼で虚空を見つめポカンと口を開けている。そんな座太郎の手を握り声をかけるエリ。まるでホラーだ。カオリにこんな姿の座太郎を見せるわけにはいかない。


 カオリが照れた顔で座太郎に彼氏の有無を確認した時を思い出す。

 正直、意外で驚いたしショックだった。でも窮地を救ってくれた座太郎にカオリが恋をするのは不思議なことではない。


 そんなカオリにこんなホラー人間を見せちゃダメだ。

「ねぇ、座太郎、しっかりして、もうすぐカオリも来るから」

 エリは座太郎の両手を握り力強く上下に動かす。


「・・・かい・・・」 座太郎が何かを呟いた。

「えっ?」

「・・・ひ・・かり・・・あたたかい・・・」

 そう言うと座太郎の眼がギョロりと元に戻った。


「きゃっ」

 エリは急な展開に思わず悲鳴を上げ、動けなくなる。

「生徒・・・会長・・・?」

 座太郎の意識が戻ったようだ。

 二人は見つめ合ったまま両手を握っている。


「エリ、いたいた、お」仕事終わりのカオリがそのタイミングで現れた。「ま・・・たせ?」




「違うの!」

 エリはそう言って座太郎の手を雑に振りほどく。

 座太郎はされるがまま腕を振り落とされてしまう。


「座太郎が闇に落ちてて・・・」

 エリは必死に釈明をする。親友の気持ちを知っているのに誤解をされるような行動をしてしまった。何とかカオリに真実を伝えないと。しかし説明をすればするほどどうしてもおかしな方向にいってしまう。

「全然座れてなくて。黒目しかなくて、まるでホラー映画で。ねぇ、座太郎も何か言ってよ」

 必死の形相で座太郎を睨みつける。


「ああ・・・生徒会長は光で・・・あたたかくて・・・」

 穏やかな表情で柔らかい笑みを浮かべながら座太郎が言った。


 コイツこのタイミングで何を言ってるの?エリは座太郎への殺意を覚える。


「よかった、二人とも仲よさそうで」カオリは屈託のない笑顔を浮かべた。「ここ座ってもいい?」

 カオリは何の戸惑いも怒りもなく、むしろその状況を歓迎しているようにも見えた。

「う、うん。座って、座って」

 

 エリの向かいにカオリが、座太郎の向かいに知らない外国人が座った。


 4人はそれぞれ各々のドリンクを口にする。


 店内には情熱的なジャズが流れる。


 4人は沈黙を続ける。




「って、誰?この人っ」

 エリがようやくツッコんだ。見ず知らずの外国人が当たり前のような顔で同じテーブルに座っている。


「この人、ジェイク・シッター」カオリが手を向けて紹介した。「私の・・・」



「「彼氏っ!?」」


 エリと座太郎が同時に驚きの声を上げた。

 エリは状況が飲み込めない。カオリの彼氏?カオリは座太郎のことが・・・。ジェイク?国際恋愛?

 何となく座太郎の様子を横目で確認するエリ。心なしかまた白目部分がどんどんと減っていっているような気がする。無言のチョップを座太郎の後頭部にかました。

「イテっ」

 座太郎もカオリに気があったのだろうか?ジェイクの存在を知り闇に落ちかけていた座太郎の様子を見てエリは思った。


「エリ、ごめんね、紹介が遅くなって・・・」

「いやいや、いいよ、いいよ」とは言いつつも動揺を隠しきれない。「あの、いつから?」

「本当につい最近で。先週くらいから・・・なかなか言い出せなくて。仕事の先輩なんだけど、エリには伝えようとしたら、ちゃんとまずは会って挨拶したいって彼が」

「そ、そっか、よかったじゃん!」


 エリはそう言って恐る恐る彼女の隣りに座るジェイクへ視線を向ける。

 ガタイのいいまるでハリウッドスターのような金髪のイケメンが笑顔で見つめてくる。

 エリは慌てて視線を逸らした。


「ジェイク、と言いマス。カオリのボーイフレンド、彼氏」カタコト感が否めない日本語で自己紹介を始めるジェイク。「ムサシザタロー、ケイヒンエリ。二人の名前カオリからよく聞いてマス」

「はは、日本語上手ですね、エリです、よろしくお願いいたします」

「ジェイクのお爺さんのお父さん?も日本に来てたらしくて、その影響でアメリカにいた時から日本通だったんだって」カオリが説明してくれる。


「イエス、フジヤマ、ドラゴンボール、スモー。オー・・・ノンノンノン、どーしてもまず僕から言わなきゃいけないコトある」

 そう言って立ち上がるジェイク。


「な、何ですか?」若干の警戒を示すエリ。

「・・・」ストローを咥えたままのボサボサ頭の座太郎。


「アリガトウ。二人はカオリの恩人で、つまり僕の恩人」

 そう言うと爽やかな笑顔で座太郎、そしてエリの順に握手をしていった。


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