【7日目・夜】
(熱い……)
寝室のベッドに寝転がるショウは、自分の身体の熱さに喘ぐ。
熱っぽさが昨日にも増して酷くなった。今日で7日目、明日にはヴァラール魔法学院に帰るというのに、本格的に風邪を引いてしまったのだろうか。それにしては、やけに肌の感覚が鋭敏なような気がする。
服が肌と擦れる感覚が気になる。シーツの感触が肌を撫でるのも気になる。広々としたベッドで背筋を丸め、どうにかして理性で研ぎ澄まされていく触覚を抑え込まなければ変な声が漏れそうだった。
ショウは自分の薄いお腹に手を添えて、
「うう……」
触れただけできゅうと苦しくなる。
身体が変だ。明らかに変である。
風邪のようであって、ユフィーリアは何も言わないから風邪ではないのだろう。ショウの体調不良に気づかない彼女ではない。もしも風邪でも引こうものならすぐに気づいてくれるはず。
張り詰めていた息をそっと吐くと、遠くの方で足音が聞こえてきた。ぼんやりと瞼を持ち上げれば、間接照明の橙色の明かりが満たす寝室の様子が認識できた。
「ゆふぃ、りあ……?」
気怠い身体に鞭を打ち、ショウはベッドから起き上がる。
直後、キィと蝶番の軋む音を立てて、寝室の扉が向こう側から開かれた。姿を見せたのは銀髪碧眼の魔女――ユフィーリアである。
ただしその格好は、普段とは違っていた。ショウと同じような形のベビードールである。全体的に真っ黒なベビードールは彼女自身の白磁の肌をより強調し、肋骨の辺りで結ばれた黒色のリボンが目を引く。それ以上に、心許ないほど薄い生地を押し上げる豊満な胸や括れた腰つきが、見るものの劣情を誘う。
ユフィーリアは真っ直ぐにベッドへ向かってくると、何とか起き上がっているショウの肩を押してベッドに縫い付けてきた。敷布団が弾み、ショウとユフィーリアの2人分の体重を受け止める。
「ゆふぃ」
「ようやくだ」
垂れ落ちる銀髪が、ショウの頬をくすぐる。
見上げると、ユフィーリアは笑っていた。ただの笑顔ではない。堪えていたものをようやく解き放てると言わんばかりの笑みだった。夜空の色をした瞳に燃えるのは、ユフィーリアが今まで奥底に閉じ込めてきた欲望の炎である。
彼女の剥き出しの感情に、ショウは息を呑んだ。常日頃から自分の内側を曝け出すような大人ではないから分からなかったが、やはり彼女も生きているなりに欲望があるのか。
白魚の如き指先が、ショウの頬をくすぐる。首筋、鎖骨、胸元と順繰りに爪先が肌を掠め、ぞくりと背筋が震えた。
「ようやく食える。この時を待ってた」
食べられる。
どういう意味だろうか。
その意味を問いただすより先に、ショウの身体へ馬乗りとなったユフィーリアは熱に浮かされた瞳で真っ直ぐに見据えてくると、まるで食事を始めるような気軽さで持って言う。
「いただきます」
噛み付くようにショウの唇がユフィーリアに奪われたのは、その直後のことだった。