第84話 ルルたちもやるもんだぁ
こちらはカクヨムに掲載された修正版です。
原文ともによろしくおねがいします(*^^*)
「この穴凹はどうしてできるにゃ? なんだか損した気分になるにゃあ……」
「それはプロピオン酸菌による発酵で生まれる穴ですね。べつに何かに食べられたわけではないので損はしてないですよ?」
「そんなことよりは・や・くっ・は・や・くっ!!」
すでに両手にフォークを持ってスタンバイしている弥生。
とにかくフォンデュが食べたくて仕方がないようだ。
時刻は夕方。
そろそこお腹も空いてきた。
「では始めましょうか。あなたたち、シピは私が指示しますので調理をお願いできますか?」
「アイアイサーッ!!!!」
代打に指名されたルルたちは気合充分、それぞれに愛用の包丁を構えて戦闘ポーズをとった。真ん中にルル、右にタマ、左にミケの体制で扇型に広がった。
「……いえ、やっていただくのは簡単な作業ですので、そんなに気合を入れなくても大丈夫ですよ」
「でも、弥生様がこんなに待ち焦がれている料理にゃんですよ!? きっとすごく豪華で手間のかかる料理にゃんだと思って……」
「手間はかかりません。もちろんそのぶん奥の深い料理ですが……。そうですね、とりあえず先日のように野菜を切って茹でてもらえますか?」
「ラジャーにゃあっ!!」
しゃしゃしゃしゃ~~~~~。
とんとんとんとんとんとんとんとんとんっ!!!!
ぐつぐつぐつぐつぐつぐつぐつぐつぐつぐつぐつぐつぐつぐつぐつぐつ。
指示を受けるとルルたちはあっという間に野菜の皮を向き、それぞれに適した切り方をし、適切な順番で煮はじめた。
その鮮やかな手さばきは見事なもので、弥生はちょっと見とれてしまう。
結局使われることのなかった先日の材料は弥生が先走って自分で用意した物。
芋もキノコも人参もテキトーに切ってお湯にぶち込んだだけ。
大きさも湯で時間も無茶苦茶だったので、生煮えだったり煮込みすぎだったりで、後で処分するのが大変だった。
だけども今回のはもう、この段階で見た目からして違っていた。
じゃがいもは煮崩れせずに、ちゃんと芯まで火が通ってホクホクに。
キノコも香りを飛ばさない絶妙な茹で加減。
人参も色鮮やかに、形も整っていた。
「人参の乱切りは、ただ雑に切るんじゃなくて包丁を斜めに固定し、人参の方を90°ずつ回しながら切るんだにゃあ。頭に行くほど太くなってくるからそこを計算して、できるだけ同じ大きさになるよう頑張るんだにゃあ。弥生様はそういう丁寧さがなかったからベチャベチャだったりカリシャクだったりしたにゃあ」
「うっさいなぁーーーーーーーー雑で悪かったわねっ!!」
とはいえ猫の手で器用に料理をするものだと感心する。
自分たちが帰った後でもきっと頑張って練習しているのだろう。
「大根の桂むきを叩き込まれているにゃあ!! 綺麗にできるまで一ヶ月かかったにゃあ!!」
「美味し◯ぼかな?」
あいかわらず無茶な修行をさせやがる。
飄々とした顔で休んでいる彭侯を見て、冷や汗を流す弥生であった。
弥生に作ってもらったフォンデュ用の土鍋。
「ここにニンニクの切り口を擦り付けて香りを移すにゃあ」
ぬりぬりぐりぐりぬりぬりぐりぐり。
そしてこれも弥生に作ってもらったチーズレーター(おろし器)
「次はこれでチーズをおろすんだにゃあ」
もりもりもりもりゾリゾリもりもりもりもり……。
箱型のチーズレーターでおろされたエメンタールチーズ。
せっかくの芸術的ビジュアルが台無しになってしまったが、半分ほどおろされた穴凹チーズもこれはこれで、いや、むしろこっちのほうが絵になる気がする。
「弥生様、スケッチなんてしてないでウチの仕事を見てるにゃあ!!」
猫の習性で、主人が他に注目していると邪魔したくなる。
はぁはぁと息を荒げて半かけチーズをスケッチしている弥生の目先に尻尾をバタつかせてアピールするルル。
「やめなさい、やめなさいって、ああ~~欠けたチーズってどうしてこう美味しそうなのかしら~~~~」
「美味しくしているのはこっちの鍋の方だにゃあ!!」
鍋の中のおろしチーズ。
火にかけてしばらくすると熱で溶けてきた。
「ここに白ワインそ入れるにゃあ!! そして杓文字でトロ~~~~~っとしてくるまでよ~~くまぜまぜするにゃあ」
「あああああああ~~……やっぱりこっちも美味しそう……じゅるり……」
白ワインのおかげで香りが立ち、チーズ独特の臭みが旨味へと変わる。
絵では表現できない魅力に、弥生の興味は一気に鍋へと引きずり込まれていく。
ルルは「ふふん、まだまだにゃあ」と不敵な笑みを浮かべた。
トロトロになった熱々チーズ。
そこに頃合いを見て流し込むはブランデー。
これでもう一段階香りを立たせる。
「ああああああ~~~~だめだめそんなことしたらぁ~~~~……」
じゅるじゅるじゅるり――――ぽとり。
ヨダレと一緒に落ちてしまうスケッチブック。
ついでに弥生の心も陥落してしまった。
「最後にコショ~で味を整えたら~~~~~~……はい、できたにゃ!! チーズフォンデュの完成にゃぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!」
ホカホカと香り豊かな湯気が上がる。
それだけでご飯三杯食べられそうなほどに濃厚。
「ぐ…ぐ、ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~~~~~……たまらーーーーーんっ!!」
ゆで野菜の中心に置かれたフォンデュ鍋。
赤いランプの火に照らされたそれは、なにものよりも芸術的な輝きを放っていた。
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