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第40話 んで放課後買い食いするのよ。

こちらはカクヨムに掲載された修正版です。

原文ともによろしくおねがいします(*^^*)

「はい。とういわけで、亜人たちの安全を保証してあげる代わりに農作物の栽培を任せようと思ったわけですよ」

「異議な~~~~し」


 あるだけの焼酎を飲み切ってしまった弥生。

 すっかりほろ酔い気分でソファーに転がっている。


 神様だの殿だの、そういうことは面倒くさい。

 でも農作業ができる、とういのならば自立できるということ。

 ならばその手助けをしてあげるのは別に嫌な話ではない。


 見どころがあると彭侯ほうこうが言ったのはそういうことだったのだろう。

 あがたてまつるのは勘弁してほしいが、村が豊かになれば、きっとそれだけ楽しいことも増える。

 弥生にとっても悪い話ではなさそうだ。


「では弥生様。そういうわけで私は彼らの指導をしてまいりますので、明日からはしばらくお留守番をお願い致します」

「悪い話きた~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!」


 まさかの『お暇をいただきます』宣言に、目玉が飛び出る弥生。

 そしてゴロゴロゴロゴロ―――――床を転がって彭侯の足にしがみついた。


「ちょ、ちょ、ちょ、なんでなんで!? なんでそんなことになるの!??」

「彼らは知能はありますが教養はありません。きちんとした農業や生活、衛生管理、自衛の手段など教えることは山ほどあるのです」

「で、でもでも……私だってあなたがいなければなんにもできないよ!???」

「ご冗談を。弥生様ならば私などがいなくとも、充分一人で生きてゆかれますよ」

「ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーやめろやめろっ!! お別れフラグ立てること言うな!! あんた私の生活力の無さ知ってるでしょ!?? 炊事洗濯スキル0よ!? いやむしろマイナスよ!?? ちょっと目ぇ離したらもうほんと至るところカビだらけにしちゃうからね私っ!!!!」

「もちろん身の回りのお世話はこれまで通りさせていただきます。……ただ、お昼はしばらくお弁当ということで……」


 情けない主人の頭を撫でながら、困り顔で微笑む彭侯。

 まるでパートに出る母親を止めようとする子供のようである。


「お……お弁当……?」

「はい。朝餉あさげ夕餉ゆうげはこれまで通り作らせていただきます」

「……お弁当…………」

「タコさんウインナー。ご用意いたしますよ?」

「うぐ……!?」

「おむすび。にぎらせていただきます」

「はうぁっ!?」

「竜田揚げなんかも入れまして、すみっこには沢庵たくあん漬けを――――」


 だらだらだらだらだらだらだらだらだらだらだらだら(ヨダレの音)


「ぐぬぬ……。わ……わかった……。しばらくよ? しばらくの間だけなら我慢してあげるわよ……。そのかわり早く帰ってきてよね……」


 しぶしぶ了解する弥生だが、本音はもちろんお弁当が食べたいだけだった。





 そんなわけで翌日のお昼。


「う……うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……まだかまだかまだか…………」


 窓ガラスに張り付き、庭の日時計を凝視している食いしん坊弥生。

 影が正午を指すまであと少し。

 テーブルの上には約束通り、お弁当が置かれている。

 朝ご飯を食べたあと彭侯は亜人たちの村に行ってしまった。


『いいですか弥生様。私がいなくても決して早弁などしてはいけませんよ。いまは昔と違って購買部も焼きそばパンもないのですからね』


 弥生は昭和の時代、気まぐれで女子高生を楽しんでいたときがある。

 人間の若者たちに混ざってキャピキャピ学生ライフをエンジョイしていたのだが、そのとき覚えた悪い癖が『早弁』である。


『時刻前に食べてしまっては夕方にお腹が空くでしょう? なぜそんな無計画なことをするのでしょうか?』


 彭侯は言うが。

 食べてはいけない食べ物ほど美味しく感じるのだ。

 お酒の後のラーメンしかり。

 寝る前のシュークリームしかり。

 背徳感というスパイスは何者にも勝る万能調味料と言っていい。


 だからあえて休み時間ではなく先生が目を光らせている授業中に弁当を開ける。

 そんな上級レベルの弥生にとって、彭侯の注意は『押すなよ? 押すなよ??』と挑発しているようにしか聞こえない。

 だから一人になったとたん食べてしまおうかと一旦は蓋を開けかけたのだが、そこでちょっと待て待てともう一人の自分に止められた。


 背徳感も確かに魅力。

 しかし空腹という調味料も、甲乙つけがたし魔性がある。

 確かにそれも心理。

 スリルを取るかハングリーを取るか。

 悩みに悩んだ結果。

 先生という恐怖ブースターが存在しないいま、背徳感はいまいち弱いと判決がでた。

 だから真面目に我慢しているのである。ちゃんとお昼になるまで。


 木の板を曲げて輪っかにしたお弁当箱。

 いわゆる『わっぱ弁当』

 二段重ねに置かれたそれからは、弁当特有の香りが漂ってくる。

 ご飯を中心に色んなオカズが渾然一体になったそのフレグランスはどんな高級なバラよりも魅力的。


「むおぉぉぉぉぉぉぉ……あと1分……あと30秒……」


 ジリジリと正午の刻に近づく影。

 まるで親の仇でも見るようにそれを追いかける血走った目。

 弥生の空腹メーターはすでに臨界点を突破し危険域に突入していた。

お読み頂きありがとう御座いました。(*^^*)

連載状況の方はツイッターでもお知らせしておりますので、そちらも合わせてお願い申し上げます。

https://twitter.com/t8XlRA1fFbmAm86


                                         盛り塩

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