第38話 蒸留器
こちらはカクヨムに掲載された修正版です。
原文ともによろしくおねがいします(*^^*)
「というわけですので弥生様。お手数ですがこのような装置を作っていただきたいのです」
そう言って彭侯が渡してきたのは一枚の設計図。
とはいえ細かい数字や寸法が記載されているものではなく、大雑把なイラストと少しの文字が書かれていただけの簡単なもの。
「はい先生、私なんでもヤらせていただきますっ!!」
焼酎と聞いて俄然やる気になった弥生。
ビールは惜しいが焼酎も大好きだ。
スッキリ切れのある味わいはどんな料理とも相性がいい。
アルコール度数が高いので、果汁や炭酸水で割ってハイボールにしても良い。
ストレートやロックで静かに大人ぶるのも、もちろんアリである。
目を真っ黒に、フーフー鼻息を荒げ、設計図を見る弥生。
そこには奇妙な二段重ねの鍋(?)が描かれていた。
まず蓋で密閉された大きな鍋があって、その上に小さな鍋が乗せられている。
二つの鍋は一本の管で繋がって、大鍋の蓋から伸びた管は小鍋を突き抜けるように貫通しているのだが、その中で一旦ぐるぐると螺旋状に巻かれて、先が外に抜けていた。
「これは……?」
「蒸留器です」
「じょーりゅーき??」
「はい。焼酎は……そうですね、え~~~~~っと簡単に説明しますと……」
「そうそう、いいぞえらいえらい!!」
「え~~と……『お酒を沸騰させて出た蒸気を集めたモノ』なのです」
「ほほぉ~~~~う?」
「お酒に含まれるアルコールは水よりも沸点が低く、だいたい78度で蒸気に変わるのです。その特性を利用してお酒からアルコールを抽出したものが『蒸留酒』で、焼酎はその一種となります」
「アルコールを取り出すの? じゃあ焼酎ってアルコール100パー??」
「いえいえ、一度の蒸留ではさすがにそこまで濃くはなりません。せいぜい40%前後です。ただそれを繰り返せばどんどん濃度は上がっていき、100に近付いていきますね。ウオッカなどの強いお酒はそうやって作られています」
「( ・∀・)つ〃∩ へぇ~へぇ~へぇ~」
「そしてこれが大麦で仕込んだ麦麹。発酵すれば原酒になります。これを蒸留すれば麦焼酎になります」
彭侯が持ってきた桶を覗き込む弥生。
なんだか見覚えのある中身が入っていた。
「……これ日本酒作ったときの…………」
「そうですそうです。日本酒の原料である米を大麦に変えただけです」
「へぇ~~~~……ってことはこれ……どぶろくになるの」
「はい。なります」
――――キュピーン。
「いや、キュピーンじゃありません。目を光らせないでください。原料が少ないのでこれ一杯しかないのですから。飲んでしまえば焼酎は作れませんよ」
「ちぇっ」
「……ともかく今日は原酒仕込みまで進めて、あとは明日にいたしましょう。その間に弥生様も蒸留器作りをお願いいたします」
「お……おぉ~~~~……う……」
そしてなんだかんだで翌日のお昼すぎ。
「ほ……彭侯くぅ~~~~ん……。こ、こんなものでいいかなぁ……」
疲れ果てた弥生が見せてくれたのは、たしかにイラスト通りの蒸留器。
ただし見上げるほどの大きさの特大サイズだった。
「いえ……あの……。申し訳ありません。これはこちらの落ち度です……」
「……な、なにが? ……ゼイゼイ……」
「寸法を指定しておりませんでした。その……このくらいのバケツサイズで良かったのですよ……」
手で輪を描き、気まずそうに説明する彭侯。
そもそも原料が少ないのだ、説明しなくてもわかりそうなものだと思っていた。
「えぇ~~~~……で、でも……昔テレビとかで見た蒸留器ってたしかこのくらいの大きさだったなって……」
「そうですね……。ホントそうです。……しかし今回は量が少ないので……その……できればもう少し、いえ、だいぶ小さいのをお願いしたいのですが……」
「これじゃぁ……ダメなの…………?」
せっかく苦労して作ったのに……。
涙目の弥生。
「あぁぁいえいえっ!! それはそれで大丈夫です!! ……どうせすぐに使わせていただくことになると思いますので……。 ただ……今日はこれですとロスが多すぎて……きっと指先ぐらいの量しか取れないと思うんですよね」
「うぉぉおおぉぉぉぉぉぉぉぉおぉっ!! すぐ作り直すわ!! 待ってて~~~~~~~~~~~~~~うぉぉおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」
「はい。ではこれに原酒を入れていきます」
なんとかバケツサイズに作り直すことができた蒸留器。
弥生はゼイゼイと息を切らしてひっくり返っている。
岩の槍とか単純なものは楽に作れるのだが、機械のような複雑なものは精神力を大量に消耗するのだ。
「ちょ、ちょっとそれ……原酒飲ませて……ペロッとていいからぁ~~~~……」
「……ほんとにちょっとだけですよ。なくなっちゃいますからね?」
疲れた神経にはやはりお酒。
どぶろくの大麦バージョンと聞いて見逃す手はない。
彭侯はほんの少し匙ですくうと弥生の口に垂らしてあげた。
「――――の!?」
とたん広がる上品な甘み、アルコールの浸透感。
そして意外なヨーグルトのような酸味。
想像していたのと全然違う不意打ちに、弥生の舌はペロペロが止まらない。
「……ちょっと彭侯くん、コレめっちゃ美味しいんだけど……!? もう一口、もう一口だけもらえないかなぁ。ねぇお願いっ!!」
「ダメですよ。はい、ではコレを火にかけて沸騰させます」
「あ゛~~~~~~~~~~~~~もったいない~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!」
釜戸の上で火にかけられてしまった大麦どぶろく。
その罰当たりな光景に、涙を飛ばしながら叫ぶ弥生であった。
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