前夜の夢
ニカイドウに訓練をつけてもらって一ヶ月が経った。一ヶ月も経てばブーストジャンプにも慣れ、背中をどつかれることもあまり無くなった。かく言う今日も訓練をしているのだが。
正面の標的に小銃をぶっ放す。
すかさずブーストで横移動。
背後から来たポッドを避ける。銃を撃つ。
撃ったポッドが動かなくなる。
弾倉を交換。次のポッドが左から来ているのが見える。
慌てず下にかがむ。タイミングは体が覚えた。ポッドがかがんだ背中の上を通り越す。
また小銃を撃つ。一発目を撃ったタイミングでポッドがジグザグに移動しだす。
俺の弾は当たらなかった。俺は内心苛つきながらもポッドに向かって走り出す。
ポッドもこちらへ向かってきた。ブーストジャンプで標的を上から押し倒す。
そのままスーツの力一杯殴る。
金属同士がぶつかる鈍い音がする。
もう一発。まだ動く。更に一発。
ポッドが動かなくなる。
俺はその場にスーツを着たままコンクリートの床に座り込んだ。
さっきの動きで息が切れてしまった。俺が小休止していると、横からニカイドウに声を掛けられる。
「全部やったな。上出来だ。流石は俺の教え子。」
「先輩はほとんど何も教えてないでしょう。」
「そう言わずにさあ。」
ニカイドウはどこかの気に食わなそうな顔をした。
ようやく息も整ってきたタイミングでトレーニングルームの冷たいコンクリートの床から立ち上がる。
「今日はもう終わりにしましょう。明日がいよいよ出撃なんですから。」
「そうだな。」
明日、またドロイドとの地獄の戦場に赴くこととなった。
場所は小笠原諸島最大の島、硫黄島。
つい先日ドロイドの群れが硫黄島の南海岸、翁浜に上陸したことが確認された。
硫黄島は今や日本本土の上陸阻止の最前線になっていた。
俺達の任務はドロイドを壊滅させ、中心部の飛行場と硫黄島最南端の摺鉢山を確保、ドロイドを島から追い出すことだ。
なぜわざわざ小笠原諸島に指宿からの部隊が行かなければならないのかは、末端の兵士の俺達には伝えられていない。
何はともあれ、かつての大戦で米軍と旧日本軍が激突した硫黄島が、また戦場になろうとしているのだ。
◇◇◆
トレーニングルームから出てから、隊員食堂でニカイドウと一緒に夕飯を食べている。
今日のメニューはチキンカレーだ。
ここの駐屯地の食堂は全国的に見ても美味しい方だろう。
今日のチキンカレーは一番人気のメニューだ。始めて食べたときは今まで食べたどのカレーよりも美味しいと思った。
そんな思い出を振り返っていると、ニカイドウが口元にカレーを付けたまま突然口を開いた。
「俺、入隊してから誰にも話してねえんだけどな、出撃前はいつも同じ夢を見るんだ。」
「なんです?急に。」
「まあまあ、聞いてくれよ。」
そう言ってニカイドウは口元に付いたカレーを舌で舐め、話を続ける。
「俺の学生時代だよ。中学の時に仲良かったヤツがいたんだ。俺と趣味が合って、入学式の日に意気投合してさあ。」
「先輩にもそんなときがあったんすね。」
「そりゃあるよ。そいつもクラフトワーク好きでさあ。コンピューターワールドじゃなくてツールドフランスが好きってとこも気に入ったしさあ。とにかくお互いすげー気があった。」
「よくわかんないですよ。」
「まあそれは置いといて。高校もおんなじトコだったんだけど、俺は結局違うやつとつるみ始めて。だんだんそいつとは距離を置くようになったんだ。で、ある日俺はそいつがいじめられてる様子を目撃したんだ。」
「助けたんですか?」
ニカイドウの顔が一瞬暗くなった気がした。
「いや、見て見ぬふりだ。俺は何もしなかった。」
「..............」
「そんでから数日後かな。俺がいつも通学してた駅のホームからそいつが飛び降りたのを見た。飛び降り自殺だよ。すぐに電車に轢かれて、そいつは助からなかった。昨日のことみたいに鮮明に覚えてる。出撃前にいつも夢に見るんだ。その度に俺は、何かしてやれば良かったって思う。」
「...何で俺にそんな話を?」
「さあ、俺もわからん。でもなんか、お前には話しても良いって思ったんだ。」
食事を済ませた後、食堂の入口でニカイドウと別れ、宿舎に向かった。
明日の出撃に備えて休もうと思ったが、ニカイドウの話が中々忘れられなかった。
6話目です。
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