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腕とスーツ その2

意識が戻ってから数週間が経った。

担当の軍医からもう動いても構わないと言われ、俺は真っ白い面白みの無い廊下を歩いて駐屯地のトレーニングルームに向かっていた。


軍曹からもらった義手は、日常生活ではさほど問題無く使えるようになった。

技術の進歩ってのはすごい。

最近の義肢はどういう仕組みかはわからないが神経と接続することで本物の四肢とも遜色無いくらい自由に動かせる。


しかし戦闘に参加するとなるとまだまだ不安が残る。

腕を慣らすついでに俺はもっと戦闘で使えるやつになりたいと思い立った。

そこで、いつもトレーニングをしているとある人物を訪ねようとしているのだ。


トレーニングルームの扉を開ける。

そこには前支えを静かに行っている者がいた。前支えはまだ日本に自衛隊があった頃の、海上自衛隊のしごきだ。

なんのトレーニングになるのかは俺は知らない。その前支えを行っているのは第七師団第四機械化装甲大隊第十六中隊G分隊所属のニカイドウヨシタケ伍長だった。


よくオキタヒロシ上等兵と喧嘩をしていてセットで扱われることが多いが普段はこんな感じのトレーニングハイだ。

年齢も階級も俺より上だし、戦闘経験だってたくさんある。

毎日のトレーニングで彼は俺とは比べ物にならない筋肉がついていた。


俺が扉を開けても微動だにせず前支えを続けるニカイドウに話しかける。


「伍長、ちょっといいですか。」


そう言われて伍長はやっとこちらを向いた。

それでも前支えは続けたままだ。


「トキワか。どうしたんだ?それから伍長呼びはやめてくれよ。むず痒いんだよ。それ。」


「じゃあ先輩で。」


「まあいいか。で、なんだ?」


まだ前支えをしてる。

よっぽど筋肉を鍛えたいか、あるいは前支えが好きなのか、どっちなんだろうと思った。


「俺に訓練をつけてくれませんか。」


そう言った瞬間、ニカイドウはちょっと微妙な顔をした。

そしてちょっと悩んでから前支えをやめ、口を開いた。


「急にどうした、お前。前までそんなこと言ってくるタイプのヤツじゃなかったろ。沖縄でなんかあったか?」


ニカイドウはちょっと不思議そうな顔をしてる。そんなに不真面目なヤツだと思われてたのか、俺は。

まあ初陣で何かあったかと言われればあるだろう。 実際この目でドロイドを見て、ヤツらと対峙したのはあれが初めてだった。

実際のドロイドは話で聞くより恐ろしい存在だった。俺の訓練や実力が足りないことは失った右腕を見れば一目瞭然だ。


だから訓練をつけてもらいに来た。

利き手がなくなって死にそうな思いをしたが、俺はまだ殉職するつもりは無い。

日本は他国と比べて安全だと言われていたがこうなったらもう違う。

実力をつけてドロイドどもを根絶やしにしてやると思った。


「まあ、ありましたね。色々と。」


「そうか。ところでお前、音楽は何聴くんだ?」


予想外の質問に少し戸惑う。


「音楽...ですか。そうですね。セックス・ピストルズとか、ザ・クラッシュとか。小さい頃から好きでした。」


「いいね。すっげぇ古典的だ。クラシックだな。」


「ロックですよ。」


「そういう意味じゃねえ。」


「逆に先輩は何聴くんです?」


「ん?俺か?」


ニカイドウはちょっと驚いた顔をした。

自分が質問されることを考えてなかったのだろうか。この人は。


「俺は...あれだ。クラフトワーク。」


「先輩も大概古いじゃないですか。なんでそんな言いたくなさそうなんですか?」


「だってクラフトワークって正直ダサいじゃん。でも聴いてるとジワジワくるのがいいのにみんな分かってくれなくて、バカにされると思ったんだ。」


「そんなことないですよ。」


ニカイドウの顔がパアッと明るくなる。


「でも電子音楽はあんまり好きじゃないです。」


「なんでえ?」


だいぶ間抜けな口調で聞いてくる。

この人が伍長だということに俺は今驚いてる。


「曲が長くて。綺麗に終わってほしいです。」


「そんなことねえだろ!」


このあと俺が「曲がフェードアウトするのはやめてほしい」と言ったところ、ニカイドウと口論になりかけた。


「まあいい。つけてやるよ。訓練。」


「ありがとうございます。」


「じゃあ早速始めるか。自分のスーツを持って来い。」


「スーツ使うんですか。」


「当たり前だろ。お前戦場でスーツ着ないの?」


「...わかりましたよ。」


4話目です。

クラフトワークもクラッシュもセックスピストルズも好きです。

感想とかブックマークとか待ってます。

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