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奪還 その2

橋の向こうから、鈍色のパイルが幾つも音を立て、俺の小隊に向かって疾走していた。

パイルでまた一人、小隊の兵士がゴボゴボと音を立てて倒れた。


俺は慌てすぎたせいか、匍匐姿勢から立ち上がって、飛んでくるパイルの風を受け、また匍匐姿勢に戻るという無駄で危険な行動を取った。

まあ実際危なかった。


「一旦引け! このままじゃやられるぞ!」


小隊長の言葉で、小隊の兵士は橋の反対側へ引いて、

放置された車の裏などに隠れて応戦していた。

俺を覗いて。

徹甲弾とパイルが頭の上をかすめる中、俺は橋の真ん中から逃げ遅れ、動けないでいた。

完全にタイミングを逃した。

逃げ遅れてしまったのだ。


向こう側のドロイドは一向に減る気配がなかった。

今後ろへ引こうものなら、今度こそハチの巣にされて考える間も無く死ぬだろう。


そう思った俺は、腰から破片手榴弾を一つ取り出し、ドロイドの方向へ投げた。

乾いた爆発音がして、それから間髪入れずに煙幕手榴弾を手前に投げた。


すぐに白色の煙が周囲を覆い、俺はホワイトアウトしたような視界の中、目の前のスーツを着たまま死んでいる兵士の体に手を伸ばした。

匍匐姿勢で死体を押しながら、パイルの発射される方法へジリジリと進み始めた。


煙幕の中でもヤツらはパイルを撃ってきた。

頭上をパイルが疾走する音が絶え間なく聞こえ、そのうちの一発が盾にしていた死体に着弾した。


スーツを貫通し死体から飛び散る血飛沫がヘルメットにかかり、ホログラムの視界が三分の一ほど赤く染まる。


胃から酸っぱいものがこみ上げて来るの感じたが、飲み込んで構わず進む。

俺が橋を突破するための橋頭堡にならなければ。

俺の頭を埋め尽くすのはその考えだけだった。


煙幕から無事に身を出し、俺は橋を抜ける事が出来た。前を見る。

右と左、それから目の前にドロイドが一体ずついる。

何ら問題はない。

小銃のスリングベルトを肩にかけ、今度はSPAS-12を取り出す。


「くたばれ、クソども!」


俺は語気を荒げてそう叫んだ。

小隊長や軍曹には、あとで「勝手な行動をとるな」と言われるだろうな。

右の敵へ向かってまずは一発。

バックショット弾を食らってピタリとも動かなくなったドロイドの方へ、グラップリング。


奥のガードレールか何かに引っかかったか、手応えを感じた。

巻き上げて、立ち上がる。

盾にしていた死体をパイルが貫いた。

誰だかは知らないが、ありがとう。

そう思いながら排莢。二体のドロイドを屠る。


まだ敵は無数にいるのが見える。

SPAS-12から小銃に切り替えて、めったやたらに徹甲弾をバラまく。

走って軽自動車の裏に隠れる。

遮蔽物に入ってから、俺は一連の動きで乱れた呼吸を整えるために座り込んだ。

変わらず頭上をパイルが走り、時々隠れている車に掠って嫌な音がなった。


ふと橋の方を見てみれば、なんということだろう、パイルが一発も飛んでいないじゃないか。

昨日も少し考えた。

もしかしたらドロイドどもは俺を狙ってきているのか?


そんな疑問が頭を走馬灯のように駆けて行った。

でもそれもただの自意識過剰というわけではなさそうだった。

ヤツらには俺たちを罠にはめられるし、明らかに戦術的な動きが取れる。


なのにさっきまで自らの敵がたくさんいた橋への射撃をやめるのは不自然だ。

見失ったというわけでもないだろう。


まあ、そんなことを考えるのは参謀や科学者の役目であって、俺が考えることではない。

今は目の前のことに集中するのみだ。


破片手榴弾をもう一個、道路の奥の群れへ投げる。

様子は見ずにまた隠れる。

橋は白い煙幕が晴れ、様子を理解した小隊の味方が走り抜けて来ていた。

兵士が発砲し始める中、小隊長がこちらへ駆け寄って来た。


「このバカ者! 俺は行けとは行っていないぞ!」


「すみません、小隊長どの! タイミングを逃してしまい、あのまま引けば死ぬと考えての行動でした」


それを聞いた小隊長は、屈んだ姿勢でため息を一回ついた。


「まあいい。今はお前の命令違反と独断行動について問いただしたいが、お前のおかげで突破出来たのもまた事実だ。話は港を確保してからだな」


「わかりました」


俺がそう言ってから、小隊長は立ち上がった。


ドロイドとの戦争に入って、人の命は幾分か軽くなった気がする。

一瞬だった。

道路脇の建物の陰から、パイルが飛んできて、それが小隊長の腹部を貫いた。

さっきまで息をしていて、会話をしていた小隊長だったものは、腹部に大きな穴を作って仰向けに倒れた。


「小隊長が戦死(KIA)!」


俺はそう叫んだ。

この場合、小隊の指揮権が移るのはうちの軍曹だろうか。

小隊長が倒れてからまず、そんなことを思った。


「クソっ、全員お互いを見失うな! バラけて遮蔽物に隠れながら進め!」


即座に自分の役割を理解したのか、軍曹は怒号ともつかない大声で指示を出した。

俺もそれに続こうと、軽自動車から出る。

直後、ヘルメットの右頬をパイルがかすめる。


「危ない!」


ついそう叫んでしまった。

道路の右側、一階建ての瓦屋根の住宅の上に一体のドロイドが見えた。

そこへ小銃を撃ちまくる。

徹甲弾はバラバラと瓦礫へ当たり、弾倉が空になるまで撃っても敵は撃ち抜けなかった。

屋根のドロイドが身を引いて、見えなくなった。

弾倉を取り替える。コッキングレバーを引く。


今度は左の建物の影だ。

SPAS-12に素早く持ち替えてから、グラップリングフックを発射し壁へ引っ掛ける。

急接近して、弾を撃ち込む。

敵が沈黙。

そのまま味方と進もうとした、そのときだった。


「ガスだ! 状況ガス! マスクを着けろ!」


誰かの叫び声が響き渡った。

急いでヘルメットを脱ぎ、背嚢(はいのう)からマスクを取り出して被る。


被っていたヘルメットはフルフェイスだが、隙間からガスを吸い込む欠陥品だ。

防毒機能をつけたものを現在開発中だという話をどこかで聞いたことがある。

早急な配備が必要だろう。


直後、辺りを黄色いガスが包みこんだ。

毒ガスの設定を結構忘れてたりする。

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