二度は無い
「タナカ、援護よろしく」
俺はそう言ってタナカの返事を待たずに敵の群れへ突っ込んだ。
「あ!ちょっと!」
背後でタナカが何か言ったが気にしない。
陽も落ちかけて暗くなり始めた中、朝と変わらぬ演習場の土を蹴って敵の群れ目掛けて飛び出す。
再び被ったヘルメットのレーダーを見る。
正面と右に二体。左に一体ドロイドがいる。
多分まだまだ出てくるだろう。
左へまずバックショット弾を一発。
レーダーから反応が消える。
次に正面だ。
すぐに排莢して正面の敵へ銃口を向けると、ドロイドが構えてパイルを撃ち出す準備をしているのが目に入った。
まずいと思い、乾いた土の地面へダイブするように飛び込んだ。
背中の上をパイルが空を切るように飛んでいった。
直後に直後にパイルの撃ち出された方向から爆発音がして、タナカの声が響く。
「まったく。すぐに駆け出すから」
呆れたような口調でタナカは榴弾砲を装填している。
「ああ、すまん···また助けられたな」
「これでまた一つ貸しだね」
「始めて聞いたぞ、それ」
その言葉にタナカは少し笑った。
「そりゃあ、今始めて言ったからね」
俺はため息をついた。
「まあいいや。戦いはまだ全然終わってない。行くぞ」
「オッケー!」
タナカのその言葉とともに前に向かってグラップリングフックを伸ばす。
グラップルした先で、「ガチャン」という明らかに土に刺さった音とは違う音が聞こえた。
捉えた。
そう思い、フックを勢い良く引き、同時にジャンプキットも蒸して敵のもとへ急接近する。
ドロイドに張り手をかませる距離になったところでSPAS12の銃口を押しあて、ゼロ距離で引き金を引く。
敵が動かなくなったのを確認してすぐさま次へ。
前足の攻撃を躱して撃つ。それと同じタイミングで背後からのタナカの援護射撃が俺の死角にいるドロイドを倒す。
完璧な連携だ。
俺が目に入る敵をひたすら撃つ。
後ろからタナカが俺の死角にいる敵や取り逃した敵を倒す。
レーダーの赤点が消えてはまた増えてを繰り返す。
朝から戦っている俺の体は興奮のせいか疲労を感じない。
弾薬が無くなって後ろに下がり、予備の弾薬を持っているタナカからまたポーチを受け取る。
SPAS12に弾をこめる俺を見て、タナカが前に銃を構えた。
「トキワが装填する間、俺が引きつけるよ」
「オーケー、頼んだ」
そう答えて、俺は銃を撃つタナカの後ろで薬室にバックショット弾をこめ始めた。
時々辺りをパイルが飛び交う。
ヘルメットのレーダーを見ると、俺たちのいる位置からちょうど右側に敵を表す赤点が目に入った。
タナカは気付いていない。
立ち上がってタナカの首元を掴み、勢い良く後ろへ引く。
「うわッ」と言ってタナカがバランスを崩し、そのまま尻もちをついた。
「何を...」
タナカがそう言いきる前にさっきまでタナカがいた場所に右からパイルが飛んできた。
左から甲高い金属音が聞こえた。
「これで貸し借りなしだ」
俺は笑いながらそう言った。
すると今度はタナカも笑いながら口を開いた。
「まだだよ。俺はトキワを二回助けた」
「そうだっけ?」
「命を助けたことを忘れるなんてひどいよ。もう次は助けてあげないかも」
「待て、冗談だ」
そう返した次の瞬間、タナカの鈍色のヘルメットをパイルが貫いた。
貫かれたフルフェイスヘルメットからタナカの顔が明らかになり、下顎から上が吹き飛んでいた。
咄嗟に地面へ頭をつけてかがんだ。
更に複数のパイルが頭を吹き飛ばされたタナカの体を貫いていった。
右腕をパイルが貫いて、装甲ごと腕がもげた。
腹部をパイルが貫いて、腹に大きな穴が空いた。
首をパイルが貫いて、下顎だけ残った頭が地面に落ちた。
タナカの血が俺のヘルメットにかかり、モニター越しの視界が赤く染まった。
あまりに唐突の出来事に、人間の頭部の血は少ないんだったとか考えたが、すぐに正気に戻った。
そして無線越しに大声で叫んだ。
「軍曹!!タナカがKIA!援護をお願いします!」
爆発音や銃声、雑音とともに軍曹の声が聞こえた。
『んだと!!クソ!今行く!』
タナカは死んだが今は悲しむ暇は無い。
俺は装填し終わったSPAS12を持って立ち上がった。
さっきのパイルの数はどう考えたって普通じゃない。
歩兵一人に大して撃ち込まれる数が多すぎる。
普通ドロイドは一人に大して一発撃つ。
ましてや最初の一発で頭を撃たれて死んだタナカに更に撃つことなんてあるだろうか。
だが今は考えても仕方がない。
目の前の問題を対処せねば。
もうすっかり暗くなった演習場で、レーダーを頼りにSPAS12で接敵したドロイドを一体一体屠っていると、爆発音とともに軍曹が現れた。
スーツのライトをつけている。
「タナカの野郎、死んだのか!?」
「そうです!さっき無数のパイルに貫かれた!」
それを聞いた軍曹が険しい顔をした。
「もう死ぬのはやめろよ。駐屯地の建物の方で仲間が防衛線を張ってる。そこまで一時撤退しろとクソの役にも立たん上からの命令だ。戦力を整えるんだとさ」
「街の方は?」
「ここが襲撃を受けた時に、避難命令を出した。だがドロイドどもは街にも行った。民間人は今わかってるだけでも50人以上死んだとよ。」
「···わかりました」
「ほら、早く撤退だ。防衛線の方へ行くぞ」
「了」
そう返答して、ヘルメットのナイトビジョンをつける。
スーツのバッテリーも多くない。
防衛線まで数百メートルだ。
軍曹のあとに続いて走り出した。
レーダーに目をやる。左前方二十メートルに敵。
SPAS12のトリガーを引く。
それに続いて軍曹も小銃を撃った。
俺と軍曹は左右の敵を倒しながら走った。
レーダーに敵が見えればパイルを撃たれる前に撃ち、弾がなくなれば走りながら装填した。
暗闇の中を俺と軍曹は駆けていった。
味方が瓦礫や土嚢で作った防衛ラインに滑り込んだ。
ドロイドが攻撃を仕掛けてる様子は無く、このまま朝まで少し休めるらしい。
何人もの負傷兵が地面に置かれた担架の上に横たわっていた。
オキタとサバルの姿もあった。
「サバル、生きてたのか···レーダーに反応がないからてっきり···」
「墜落時にヘルメットを損傷してたんだ。しばらく瓦礫の中で寝てたよ。そこをオキタ先輩に助けられたんだ」
「そうか···」
「ところでタナカは?朝からあいつを見てないんだが」
そう言ったあと、何も答えず暗い顔をしている俺を見て、サバルは何か察したようだった。
「そうか···まあ、残念だったな」
「·····」
「今更悔やんでも仕方ないよ」
「···そうだな」
そうして俺は銃を起き、サバルの隣にもたれかかった。
俺が何も言わずにいると、今度はオキタが口を開いた。
「にしても、さっきまであんなにドロイドがいたのに、今はそれが嘘みたいに静かだな。ドロイドと過ごす夜ってのも案外悪くねえのかもな」
「そんなこと言ってる場合ですか」
「なに?」
俺が返事をするとオキタはどこか不満そうに声を上げた。
「あの、ウチに来たばっかのタナカ?だっけか。あいつ死んじまったって?気の毒に。いつか死ぬとは思ってたがこんなに早くとは思わなかったぜ。びっくりだ」
そのオキタの言葉に俺は怒りを覚えた。
「オキタ先輩?ちょっと黙っててくださいよ。こっちは目の前でタナカが死んで、まいってるんですよ」
「あ?」
「まあまあ、二人共落ち着けよ。今はそんなことしてる場合じゃないだろ。オキタ先輩も、今トキワに絡むのはやめてください」
「···」
「チッ」
そう言ってオキタは立ち上がってどこかへ言ってしまった。
疲労でうとうとしながらタナカのことを色々思い出したが、涙は出なかった。
二十二話目です。
何日ぶりでしょうね、更新。
ほんとすいません。
関係無いですけど最近キング・クリムゾンと
ザ・プロディジーをよく聴きます。




