孤軍奮闘
ここで一旦冷静になって状況を整理しよう。
俺たち機械化装甲歩兵第七師団は、沖縄への大規模な強襲作戦を予定していた。
しかし逆に駐屯地がドロイドの奇襲を受けてしまった。ヤツらにこのような行動が取れることは、恐らく俺を含めた第七師団の兵士、指揮官全員が知らなかっただろう。
ここ最近、ドロイドが戦略的な動きを取るようになってきている。
前までは囮や奇襲などは行ってこず、ただ正面からお互いぶつかるだけだった。
ひたすらに人を狩る機械のような印象を持っていたが、もしドロイドが知性を持っていたとしたら厄介だと思う。
あちら側にも指揮官のような個体がいるのだろうか。
到底そんな風には見えないが。
そして今俺の目の前にはドロイドの群れがいる。
絶体絶命のピンチってやつだ。
背後にはウォーバードの残骸。
スーツの右腕の装甲が中破。義手も少しやられた。
他にもスーツはダメージを負ってる。
フルスロットルで全出力の三十一パーセント。
スーツの中は汗で蒸れて臭う。野郎しかいない軍の中でニオイを気にしたってしょうがないが。
破片手榴弾の残りはゼロ。
SPAS12の残弾はあと八発。他の武器は無い。
予備の弾薬を持っているサバルの安否が分からない。
バッテリーも残り少ない。
ウォーバードの墜落に巻き込まれたサバルが気になるがそんな暇は無い。
この状況で俺はどうするべきか。今ここに指示を出せる人間はいない。
命令通りに戦うだけだった俺はここに来てどんな行動を取ればいいか分からない。
撤退する?
いや、無理だ。
この群れからは逃げられっこない。
結局俺に残された道は戦うことだけ。
できるだけやってみるか。
SPAS12の残りのバックショット弾を装填。
正面にグラップリング。勢い良く前へ。
パイルがこちらへ何発の撃ち出される。
一発ヘルメットにかする。金属同士のこすれ合う嫌な音がした。危なかった。
銃弾と同じ速度で飛んでくるこぶし大の鋭い物体など防ぎようがない。
そのまま一発撃つ。
地面にグラップルしたまま地面を強く蹴ってブースト。
遠心力で回転。グラップルした地面の周りを回る。
排莢が出来ないので回りながらSPAS12でドロイドをぶん殴る。もう一体。殴る。
まるで死のメリーゴーランドだ。もちろん一人乗り。
目が回りそうだ。
フックを外して排莢。
薬莢が地面に落ちる心地よい音。
あと七発。
ブーストで上に飛び上がり、下の敵へグラップル。
グラップリングした左腕を全力で引くと同時に今度は下へ勢いよくブーストする。そのまま敵に激しく体当たり。
素早くフックを外し左拳を叩き込む。
すかさず右へ撃つ。排莢。
また撃つ。排莢する。ステップを踏んで撃たれたパイルを避ける。
俺めがけて振り下ろされたドロイドの鋭い前足をSPAS12の鋼鉄の銃身で思い切り殴って折る。
そのまま一発撃つ。
無心で体を動かす。
撃って、排莢して、走って、避けて。
バッテリーの残量がグングン減る。やっぱりフル充電しておいた方が良かったかも、なんて考えたが今更無駄だ。
遂に弾が無くなった。
敵はまだ何体もいる。
あれだけ戦ったのに、一向に数が減らない。
空を一瞬見上げると、日が傾き始めていた。
なんてことだ。俺の体感は二時間程度だった。
でも、不思議なことに、俺は絶望などしていなかった。新兵の頃だったらなすすべなく死んでいたかもしれない。
こんな状況でも俺は楽しさを感じている。
命の危機が、天使からのあの世への誘いがすぐそこまで来ているのに俺はなんとかなると思っている。
弾は無い。
でもスーツのバッテリーは僅かだがまだ残っている。
スーツが使える限り俺は戦える。
俺は兵士だ。兵士の本分は戦うことだ。
傷だらけのヘルメットを脱ぎ捨てる。
どうせ敵だらけだ。仲間は来ない。
無線も繋がらないからこんなもの着けてたって邪魔なだけだ。
SPAS12を地面にそっと置く。
弾がないからもう使えない。鈍器として使って壊すのも嫌だ。
深呼吸。
両手の拳を勢いよく突き合わせ、気合いを入れる。
もう生きて帰れるなどとは思わない。
地面を蹴って敵の方へ駆け出す。
すぐに右へブースト移動。一秒前まで俺がいた場所にパイルが着弾。土埃が上がる。
敵へ殴りかかろうとすると同時に近くで爆発音がした。立て続けに銃声。
そして目の前のドロイドが吹き飛ぶ。
土埃から姿を表したのは三人の機械化装甲歩兵だった。
一人がフルフェイスのヘルメットを外す。
「おう、トキワ。お前生きてたんだな。で、何だその格好。通信入れたのに応答がねえと思ったら、そんな間抜けな格好で戦ってたのか。随分暴れたな」
ヘルメットから顔を見せたのは軍曹だった。
他の二人もヘルメットを取る。
オキタとタナカだった。
「弾が、無くなりまして」
「そんなこったろうと思ったよ。ほれ」
そう言って軍曹は俺に迷彩柄のポーチとスーツのバッテリーを投げ渡して来た。ポーチの中を開けると、対ドロイドのバックショット弾が詰まっていた。
「ありがとうございます。でも、後ろのウォーバードの残骸にサバルが···」
「死んでんじゃねえだろうな」
「わかりません。レーダーにも反応がなかったので···」
「おいオキタ!ウォーバードの残骸からサバルを探して来い!」
「はいはい、分かりましたよ。全く人使いの荒いことで」
「黙ってやれ」
「へいへい」
そのままオキタはウォーバードの残骸の方へ向かった。SPAS12を拾って弾を込めているとタナカが話しかけてきた。
「これ全部トキワがやったのか···?」
「ああ」
「マジかよ···」
タナカがひどく驚いた顔をしていた。
俺はそれが少し可笑しくてクスリと笑った。
「そんなにおかしい?!」
「いや、何でもない···ふふっ」
「おい!新しい敵だ!じゃれてんじゃねえぞ!戦闘準備!」
「「了!」」
軍曹の叫び声で俺とタナカは銃を構えた。
二十一話目です。
更新しなきゃとは思うんですが最近モチベーションが死んでます。
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