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第4話(6か月前)

時は少し遡り、異世界召喚を受けた時。


一体何が起きていたのか。

その状況が明らかとなる。


 今から約6か月前。

 「ポーン(チャイム音)。 シートベルト着用のサインが点灯しました。 これより化粧室の使用はご遠慮下さい」

 「皆様、御着席下さい。 これより気流の悪いところを通過します。 シートベルトを腰の位置でしっかりと締め、お子様をお連れの方は......」


 TKO発NYK行の航空機は、太平洋上空で急な乱気流に巻き込まれていた。

 激しい揺れが連続的に続く。

 最初は普通の乱気流かと思われたが、光に包まれたかと思ったら、突然外の景色が一変。

 「おい、あれは何だ?」

 一部の乗客達が騒ぎ出す。

 外を覗くと、

 飛行機が飛んでいる高度に近いところに、大きな山が見えていたのだ。

 「ここは、太平洋上空の筈なのに......」

 「何で山がそびえ立っているんだ?」

 そして、よくよく周囲を見渡すと、何だか様子が変であった。

 遥か彼方の上空に月が2個見えている。

 「月が2個?」

 気付いた乗客が呟く。

 やがて航空機は再び光に包まれ、景色が何も見えなくなる。

 耳がツーンとなる大半の乗客。

 高度が急降下しているようだ。


 数分経つと、下の方に大地が見えてきた。

 ハッキリと見える多くの建物。

 「うわ~」

 とある乗客の大きな声。

 大半の乗客が窓の外を凝視する。

 「人が......飛んでいる」

 「おお、人が空中を飛び回っているぞ~」

 大騒ぎになる機内。

 そして航空機はゆっくりと、大きな空き地へ強制的に降ろされ様としていることがハッキリしてきた。

 パイロット達は、途中から操縦が出来なくなり、地表が近付いてきたところで、着陸用の車輪を出す操作を実施しただけであった。



 広い空き地の様な場所に着陸すると、飛行機は多くの兵士達に周囲を囲まれてしまう。

 銃を構えて整然と並ぶ兵士達。

 銃だけでは無い。

 弓矢隊や刀剣隊、他には戦車隊や大砲隊等、色々な兵種の部隊が整然と並んでいる。

 「異世界から来た諸君。 ここは北方大帝国スーデン・ノーウの皇宮内である。 抵抗しなければ、我々から攻撃することは無い。 その奇妙な金属の塊から大人しく降りてきたまえ」

 彼等を代表する男が拡声器を使って、航空機の乗客に驚く様な事実を告げる。

 「異世界?」

 「北方大帝国?」

 「いったい、どういうことだ」

 乗客達は口々に、驚きの言葉を発するのだった。



 『ひとまず、どうすべきだろうか?』

 ビジネスクラスの乗客の一人である成臣統虎ナルトミ・ムネトラは、周囲の乗客や乗員の様子を眺めながら、思案に更けていた。

 周囲の他の乗客達は、知らない者同士であっても、不安な気持ちを少しでも解消すべく、口々に意見を交わしている。

 統虎も、隣の乗客から声を掛けられた。

 「ここは、何処なのでしょうか?」

 それに対して、

 「おそらく異世界でしょうね。 我々が住む元の世界と似た文明レベルの場所の様ですが......」

 窓の外をずっと見ていたことで、いち早く状況を把握していた統虎。

 その言葉に、声を掛けて来た人物は、

 『信じられない』

という表情を見せただけで、返事をすることが出来なかった。


 「佐良、ちょっとこっちに来て」

 ファーストクラスで寛いでいた二位納ニイノウアーシアは、ビジネスクラスに居る執事の犬童佐良インドウ・サラをスマホで連絡を入れて呼び出していた。

 そのメッセージを見て、ファーストクラスに移動し、アーシアの席のスライドドアを開けて覗き込む佐良。

 すると、

 「私達、別の世界に連れて来られちゃったみたいだね」

 窓の外を見つめ続けるアーシアの言葉に、『理解出来ない』という表情をする佐良。

 それに気付いたので、

 「佐良も外を見て御覧なさい」

 確かに何かが大きく異なる世界。

 それは直ぐに感じられたのであった。


 「現代と近代と中世が入り混じったような軍隊。 空を飛ぶ人。 ここは明らかに、私達が生きてきた世界と異なるわ」

 「アーシア様はどうするつもりですか?」

 「この飛行機から降りるしかないでしょう。 降りなければ攻撃されて、みんな殺されてしまう......」

 その言葉に頷く佐良。

 「私はアーシア様の執事です。 何処に行かれる時も、必ずお伴します」

 その言葉に決断したアーシア。

 直ぐに立ち上がると、すぐ先の機長室の前に立っていた客室乗務員の責任者と話を始める。

 やがて、機長と副機長も呼び出し、4人で相談を開始。

 「航空機の責任者は機長、貴方です。 現状はかなり厳しく、目的地に到着するのは困難でしょう」

 「二位納様のおっしゃる通りでしょう。 とりあえず私としては、1箇所のドアを開けて、非常用の脱出シューターの使用を許可します。 明らかに緊急事態ですから」

 機長はそう答えると、緊急事態宣言を発したのであった。



 それに伴い、航空機の最前方のドアが開き、脱出用シューターが降ろされる。

 真っ先にそれを滑り降りたアーシアとサラ。

 そして、目の前の軍勢の最前列に居る相手側の責任者らしい、中年の男と話を始める。

 「私は、ニイノウ・アーシア。 こちらの随員はインドウ・サラ。 貴方達の用件は?」

 物怖じせずに、謎の世界の者達に問い掛ける。

 その様子を乗員乗客達は機上から心配そうに固唾を呑んで見守っている。

 「私は北方大帝国の皇太子付きの大魔術師カクケンと申す者。 貴女達は我々の召喚魔術によって、異世界からこちらの世界に来て頂いたのです。 その目的は我々が仕えるシュン皇太子の強力な援護者となって頂く為」

 その説明にある程度納得したアーシア。


 「私達が異世界に移動させられた理由はわかったわ。 でも、ちょっと身勝手過ぎるんじゃない? しかも255人も纏めて移動させる召喚って」

 「我々も、こんなに大きな金属の塊に乗った大勢の人々を召喚するつもりは無かったのだ。 その点は申し訳なく思う」

 「ところで、元の世界に帰す方法って有るのかしら。 貴方達の求める人材以外の人々は、出来れば帰してあげたいのだけど......」

 「残念ながら、その方法は無い」

 「ちょっと、それ、無責任過ぎない?」

 「我々が求める、特別な能力を持つ人材には、相応の厚遇を与えるつもりだ。 それ以外の人達は、残念ながら運が悪かったと諦めて頂き、平民としての生活をこの国で送って貰うしかない」

 大魔術師カクケンと名乗った男の話を聞いて、元の世界への帰還は絶望的だと悟ったアーシア。

 それと同時に『特別な能力』と聞いて、興味を持ったのであった。

 

 「ところで、私達異世界の者に求める能力とは?」

 「それは、この魔道具を扱える人物を探しているのだ」

 その答えに、カクケンの横に控えていた人物が、敬々しく3つの道具を差し出す。

 「ここに、魔剣2本と魔力が籠もったネックレスが存在する。 これらを扱える人材を求めての召喚なのだ。 我々の世界の人間には魔道具の持つ秘めた力を引き出せる人材は誰もいないのでね」

 「じゃあ、私が扱えるか、チェックしてみようかな」

 アーシアがそう答えると、カクケンも試して見るようにと頷いて促す。


 先ずは、ネックレスの様な魔道具『新月の涙』を首に掛けてみる。

 特に変わって感覚は無く、新月の涙が光り輝くみたいなことも発生しなかった。

 「何の反応も起きないわ。 残念」

 次に、魔剣『雀切』を鞘に入れたまま把持してみる。

 すると、骨董品のような敬々しい見た目だけの古い剣が、妖しい光を帯び始めたのだ。

 「お〜〜」

 カクケンや、その後ろに控えている軍勢から感嘆の声が上がる。


 「あれっ。 見た目と違って結構軽い剣ね」

 アーシアは鞘から剣を抜き取って感想を述べながら、魔剣を振り下ろしてみる。

 やにわに斬撃が放たれ、近くの戦車に当たって小さく爆発。

 戦車の鋼鉄製の駆体に、中レベルの傷が付いたのであった。

 「無闇に振り回さないで下さい。 死人が出ます」

 「そういうことは、早く言ってよ。 いきなり人殺しになっちゃうところだった」


 最後に魔剣『鬼斬』を把持する。

 アーシアの秘めた能力に少し反応し、淡い光を発するが、『雀切』程の反応は無い。


 そしてカクケンがアーシアを前に跪く。

 「貴女は、我々が求めていた人物の一人であります。 どうか我等のシュン皇太子にお力添えを」

 「まあ、よくわからないけど、イイわよ。 元の世界に帰る方法無いんでしょ? じゃあ、協力するわ」

 アーシアのあっさりとした『是』の答えに喜ぶカクケン達。

 「サラも試してみる?」

 その言葉にサラも3つの魔道具を装着してみたものの......

 「何、この剣。 めちゃくちゃ重いじゃないですか。 アーシア様、よくこんな剣を振るえましたね」

 その言葉を聞いただけで、ニイノウ・アーシアが選ばれし魔剣士であることがわかるのであった。



 そうしたやり取りの様子を機内の窓越しに見ていたナルトミ・ムネトラ。

 居ても立っても居られない感覚が湧き上がって来る。

 そしてシューターを滑り降りて、アーシア達のところへ。

 「俺も試してみてイイかな?」

 何か感じるモノが有ったので、魔道具が扱えるか、挑戦したくなったのだ。

 ムネトラが魔剣『鬼斬』を鞘から抜くと、赤黒い暗い色だが、目を開けていられないほどの眩い光を発する。

 「暗い色なのに、こんなに眩く感じるなんて」

 『鬼斬』はムネトラの能力に、アーシアも驚く程の反応を見せ始めていた。


 「貴方、名前は?」

 アーシアは、その男に質問をしたものの、

 「思い出した。 ナルトミ・ムネトラだったわね。 ちょっとした有名人だから知っているわ。 悪い意味での有名人だけど」

 「俺も貴女の名前を知っているぞ。 ニイノウ・アーシアだよな? 姉殺しの疑いを掛けられて......」

 そこまで言いかけたところで、魔剣『雀切』の柄でみぞおちに一撃を食らわされてしまう。

 「ううう......」

 腹部を抑えて苦しそうなムネトラ。

 「私は姉を殺してなんていないわ。 噂が先行して、悪名だけが流れてしまっているのは、貴方と同じ状況なのよ」

 少し怒った表情のアーシア。

 ムネトラは苦しそうな呼吸を繰り返しながら、暫く息を整え直すと、

 「俺が悪かった。 同じ様に世間からのバッシングで苦しい思いをしていたのに、配慮の足りない言葉だった。 本当にすまん」

 「じゃあ、これからこの世界で、ムネトラは私の配下ね。 カクケンさん、こちらの彼はどういう扱いになるの?」

 「この魔剣『鬼斬』を自在に扱えるお方は、『魔剣士』と呼ばれるようになりますね」

 「魔剣士ムネトラ。 これからは私の筆頭配下として、シュン皇太子に仕える様に」

 アーシアのその言葉に、思わず吹き出してしまうムネトラ。

 「なんだ、もうこの世界で生きて行くって決めたのか。 決断早いな〜」

 「もう誰も元の世界には帰れないのよ。 だから、当然じゃない?」

 「確かに......だな」


 そして2人が周囲を見渡すと、カクケン以下その場に居る北方大帝国の軍勢の全ての者達が跪いていた。

 「我等が求めし、奇跡の能力を秘めた異世界の者達よ。 シュン皇太子殿下への力添えをよろしくお願い申し上げる」

 その言葉に大きく頷いたアーシアとムネトラ。

 2人の魔剣士が、異世界での使命を受け容れた瞬間であった。




 その後、乗客乗員全員が、カクケン達の適性チェックを受けることとなった。

 残りの魔道具『新月の涙』に反応が有ったのは、上井和石宗ウイワ・セキシュウ立那波紫尾タチナバ・シィオの2人だけ。

 それ以外の乗客乗員には特別な能力は無く、この世界で用済みということに。

 状況説明を受けた後、皇宮の外に出されてしまう。

 もちろん、航空機内に持ち込んでいた個人荷物の持ち出しは許可されてであったが。

 そして、一時的に僅かばかりの下賜金と小さな住居を3ヶ月間限定での貸し出しを受けて、以後は自力で生きて行くようにと指示されたのであった。

 もちろん、最初は全員が抗議したが、この国が専制主義の大帝国であることに気付かされ、やがて諦めの境地に。

 あまり抗議を続けると、始末ころされる可能性を仄めかされたのだ。

 結局、運が悪かったということで、徐々に異世界の社会に溶け込んで生きていくしかない、残りの乗員乗客達であった。




 その後直ぐに、東光宮に招請された、魔剣士アーシアとムネトラ。

 そこには、魔剣とは別の光の聖剣『青釭』が保管されていた。

 「私が北方大帝国スーデン・ノーウの皇太子シュンです。 素晴らしい奇跡の能力を持つ魔剣士のお二方。 これからは色々と協力を求めることになりますが、どうぞ宜しくお願い申し上げる」 

 大帝国の次期皇帝に最も近い立場だというのに、柔和な姿勢に終始するシュン皇太子。

 2人に対して、深々と頭を下げたのだ。

 他人に厳しいアーシアもムネトラも、攻撃の矛先が溶けてしまう程の優しい雰囲気を纏った人物であった。


 「私達の方こそ、宜しくお願い申し上げます」 

 代表してアーシアが丁寧な挨拶を返す。

 すると、皇太子が大事な用件を2人に述べるのであった。

 「ここには、魔剣とは真逆の力が必要な『青釭』という光の聖剣が保管されています。 この剣も異世界から来た特別な能力を備えた者にしか使いこなせないと言われているのです。 そこでお二方に適性があるかどうか、確認して頂きたいのですが」

 「わかりました。 それでは先ずは魔剣士ムネトラから、試させて頂きます」

 「アーシア、お前。 また勝手に決めて......」

 ムネトラはそう言いながらも、皇太子の目の前に置かれている『青釭』を手に取ってみる。

 「いやあ、重いなあ。 適性が無いと、これ程重く感じるのか......」

 思わずそんな言葉が口から出てしまう程の重厚感であった。


 「じゃあ、次は私」

 そう言って、アーシアが青釭の鞘に触れた瞬間。

 剣全体が七色の輝きを放ったのであった。

 ムネトラの方を見ながら、ニヤッとするアーシア。

 『ああ、これで俺は完全にアーシアの配下だ〜』

 アーシアが聖剣への適性も見せたことで、ガックリと肩を落とすムネトラ。

 『勝ったな』

という表情のアーシア。


 「アーシアさん。 貴女は天に選ばれた方だ」

 皇太子は目を輝かせながら称賛する。

 「魔剣と光の聖剣、両方使える人物って、今までに居たのですか?」

 「歴史書によると、過去約千年で十数人しか居ませんよ」

 「ということは......」

 「『勇者』ニイノウ・アーシア。 今後は世界中から、そう呼称されることになるでしょう」

 「魔剣士よりも格上ってことですよね?」

 「当然、上です。 それもかなり上です」

 『皇太子殿下。 それ以上アーシアを褒めないで』

 完全にドヤ顔の勇者アーシア。

 その目は、ムネトラを完全に見下していた。

 『このままではイカン。 アーシアは性格が悪そうだから、俺の立ち位置を確立しなければ......』

 そう感じた魔剣士ムネトラ。

 そこで、ある決断を。

 それは......


 「おい、勇者」

 「私を呼び捨てにするなんて、百年早いよ」

 「いや、勇者」

 「勇者様」

 「俺は絶対、『様』は付けないからな」

 「ダメ〜。 勇者様」

 「5歳も年下なのだから、丁寧語は要らない」

 「なんだ、心の狭い男だな〜。 『様』付けくらい出来ないの? このアンポンタン」

 アーシアはしつこく自身を敬うように求めたが、断固拒否する魔剣士ムネトラ。

 結局この件だけは、ムネトラの粘り勝ち。

 『様』付け無しの権利を勝ち取ったのであった。



 「ところで皇太子殿下。 私達異世界の者を召喚しなければならない様な緊急事態が発生したのですか?」

 アーシアは今回の件の核心を突く質問をすることに。

 それに対して皇太子は、

 「あ~、それは太傅のカクケン、少傅のリョアンと言った私付きの魔術師達に質問してくれるかな~。 大皇帝陛下や私が命令したり依頼して行われた召喚儀式では無いのだよ」

 なんだか、バツの悪そうな表情に変化した皇太子を見て、

 『もしかして、大した理由も無いのに、召喚されてしまったのかな? 私達......』

 そんな雰囲気を感じ取ってしまったアーシアとムネトラであった。

 このまま理由を更に追及するのも、なんだか憚られる空気になってしまった皇太子の執務室。

 ひとまず大魔術師と名乗ったカクケンを掴まえて、コトの真相に迫ってみようとアーシアは思ったのであった。



 「光の剣『青釭』については、どうしたら良いのでしょうか? 必要な時に皇太子殿下からお借りする様に致しましょうか?」

 アーシアは別の質問に切り替えることで、場の雰囲気を変えてあげようとする。

 シュン皇太子も、

 『助かった~』

という表情を見せていたので、

 『私達を召喚した理由って、やっぱり些細なことに違いない』

 そういう確信を持つに至る。

 「青釭は、勇者アーシア殿が常に持っていてくれて構わないよ。 他の者に取っては古い剣でしか無いのだからね」

 その言葉を聞き、

 「それでは、お預かりさせて頂きます」

と言って受け取ったのだった。



 その後2人は、当面の住む場所を割り当てられた。

 それは、皇宮内の高級武官達が住む区画。

 『まだ信用が無いから、皇宮内に留めて、監視の対象にしたいのだな』 

 ムネトラには、帝国側の意図が理解出来ていた。

 そして、他に適性の有った者についての情報も一切伝えられることは無かった。

 もちろん、それは勇者や魔剣士と一緒に徒党を組まれて、脱出される恐れを考慮しての措置である。

 『他にも、適格者居たのかなあ~』

 アーシアはサラと一緒に住むことを許可されたので、充てがわれた住居に案内されながら、考えていた。

 今後、この異世界で戦いに参加させられることを求め続けられるだろう。

 近いうちに、手頃な戦いへ向かうよう命令されて、実力の確認をさせられる。

 その為には、仲間となるだろう人物の情報が欲しいと思うのは当然であった。



 当面の仮住まいである高級武官用の住居は、アーシアとムネトラは隣同士で、住居内は結構広い。

 とりあえずアーシアはムネトラの部屋に行き、作戦会議を始めるのだった。

 「アンタ、どう思った? 私達を召喚した理由」

 アーシアは単刀直入に尋ねる。

 「シュン皇太子の様子から、おそらく大した理由は無いのだろうね。 ちょっと実験してみた程度?」

 「私もそう思うわ。 だから大魔術師カクケンを問い詰めてみようと思わない?」

 「いや、気持ちはわかるけど。 相手は大魔術師だろ? どんな力が有るのかわからないのに......ちょっと危ないと思うけどな~」

 「ムネトラ、アンタは慎重だね~。 とにかく協力してよ。 明日皇太子にカクケンと会う機会を作るようにお願いするからさ」

 「協力は構わないよ。 ただ、お尋ね者になるようなことだけは避けてくれよな」

 アーシアは、本当の理由を知っておかないと、気が済まない質であった。




 翌日、再び皇太子の執務室に呼ばれた勇者アーシアと魔剣士ムネトラ。

 すると、アーシアが、

 「皇太子殿下。 大魔術師カクケン様とお話する機会を設けて頂きたいのです」 

 訴えかけるような目をして、おねだりするアーシア。

 見た目はドキッとさせるような美貌を持っているのだから、大概のお願いは罷り通ってしまうであろう。

 ところが、

 「そうだね。 勇者殿が召喚した理由を聞きたいって気持ち、私にもよく分かるから」

 あっさりと意図を見抜かれてしまい、

 「おい、勇者。 作戦失敗じゃないのか?」

 「こうなったら仕方ないわ。 強行突破よ」

 2人はヒソヒソと相談し直している。


 「あとで、私がカクケンを呼び出すからね。 そこで問い詰めれば良いと思うよ」

 皇太子は2人の様子に可笑しくなって、笑いながら要望をいとも簡単に受け入れてくれたのだ。

 

 やがて、カクケンが皇太子の呼び出しに急いで執務室に現れた。

 「殿下。 急な御用とお伺いし、急ぎ参上致しました」

 「ありがとう、カクケン」

 いつもと少し異なる返事に違和感を覚えた太傅。

 流石、大魔術師と名乗ることだけは有る。

 『今だ〜』

 アーシアが目配せをして、ムネトラに対して、打ち合わせ通り、2人で魔剣を突き付けて問い質そうと合図を出す。

 物陰から魔剣『鬼斬』を抜きながら、やにわにカクケンに突き付けた魔剣士ムネトラ。

 ところが、一緒に剣を突き付ける筈のアーシアが居ない......

 『やられた~。 俺だけかよ』

 一瞬、アーシアがトチったのかと思ったら、責任逃れのため、ムネトラ一人に重要な役割を押し付けたことが判明。

 『こうなったら、やるしかない』

 「大魔術師殿。 我等を召喚した理由をお聞かせ願いたい」

 低い声を出して、ワザと威厳ある風格を醸し出そうとしてみる。

 すると、流石大魔術師。

 魔剣士ムネトラの剣だけでは、一切動じた様子を見せない。

 『コイツ、やっぱり相当強いのか?』

 ちょっと焦るムネトラ。

 「皇太子殿下。 これが火急の用件でございますか? お戯れも度が過ぎますぞ」

 余裕の様子で皇太子に話し掛けると、

 「そこに隠れているもう一人の方。 出て来なさい。 私の前では、そんな場所に居ても、隠れたことになりませぬぞ」

 その言葉を聞き、『あちゃー』という表情で姿を現したアーシア。


 「気になるのも当然でしょう。 皇太子殿下にも召喚した理由は説明しておりませんでしたな。 この機会にお話しておきましょう。 重大な秘密を含んだその理由を」

 その重々しい物言いに、シーンとなる執務室。

 ムネトラは剣を納めて、佇まいを正す。

 アーシアはサラと一緒に手を握って、衝撃に備えようと身構える。

 それ程の重大な話であろうからだ。


 「話せば長くなりますが......」

『数ヶ月前、私は第二皇子ウギョウ様の筆頭重臣で大魔術師のリュウハク殿と話す機会がありました。

 「これはこれはカクケン殿、ご機嫌麗しゅう」

 「リュウハク殿も、御壮健そうで何よりです」

 「そうだ。 カクケン殿に話して置かねばならぬことがあった。 貴殿にとって重大な話だぞ」

 「それは何でしょうか?」

 「我が主君、ウギョウ様は今度、大皇帝陛下の前で召喚の儀式を行うのですよ。 ウギョウ様は魔術師として非常に優秀なお方故に」

 「ほー。 召喚の儀式と言いますと、龍とかですかな」

 「いえいえ、滅相もない。 もっと有意義な召喚ですよ。 大皇帝陛下の面前で行うのですぞ。 龍など飛行用具でしかありませんからな」

 「有意義な召喚?」

 「皇太子殿下の元にも、魔道具や光の道具が幾つか有りましたな。 大皇帝陛下より下賜された」

 「え〜、ま〜」

 「我等がウギョウ皇子様にも、大皇帝陛下よりお預かりしている魔道具が2つ有りましてな。 魔槍『蝙蝠斬』と魔環『太神の霞』という」

 「そうでしたな......まさか」

 「そう、そのまさかですよ。 ウギョウ様は魔術師として、御自ら異世界から魔道具を使う能力を持つ2人の人物を召喚されるのです。 魔術師としての能力が無いシュン皇太子殿下には絶対に真似出来ないことですがね」

 そこまで話すとリュウハク殿は高笑い。

 「召喚が成功して、魔道具を使いこなせる2人の人物が配下になれば、ウギョウ皇子様の陣営は一気に強化されることになります。 もしかしたら、回天の業を成し得るかもですな~」

 その言葉に、私は茫然となりました。

 皇太子殿下の地位が脅かされることになるかもしれませんから。

 そこで私は、大宰相ニチシンサイ殿に相談することにしました。

 ニチシンサイ殿はシュン皇太子殿下の有力な支持者の一人です。

 「なるほど。 それは確かに由々しき事態じゃな」

 「やはり、そう思いますか」

 「でも、対抗策は簡単なことじゃ」

 「と申しますと?」

 「お主等も召喚の儀式をすれば良かろう。 魔道具の数も光の道具の数も、皇太子殿下は第二皇子よりも多く下賜されておる。 それらを扱える人物を先に集めておけば、大皇帝陛下の面前での召喚儀式が成功したところで、皇太子殿下の地位を奪うことなど出来ぬよ。 皇帝が魔術師である必要など、これっぽっちも無いのだからな」

 大宰相閣下の助言に従い、私カクケンと少傅リョアンが中心となって、召喚の儀式を行わせて頂きました。

 その結果が、今日の状況へと繋がっている訳です』



 カクケンの告白にシーンとなる執務室。

 最初に反応したのはサラであった。

 「てめえ〜、その程度の理由で255人も召喚したのか。 おめえの大事なモノ、切り落とすぞ」

 大声で叫びながら、憤怒の表情で襲い掛かろうとしたので、アーシアが必死に止める。

 「カクケン。 理由はわかったけど、それって直ぐにやる必要有った?」

 シュン皇太子もドン引き状態。

 「なんだ、ただの権力争いに巻き込まれただけか〜。 それならば、特別な能力無い人達を巻き込まないで済む方法なかったの?」

 勇者アーシアも、あまりにも安直なやり方を批判する。

 「私達もなにぶん初めての魔術ですから......実践経験がほぼ無いので、運任せに近いものなのです」

 カクケンの小さな声での本音に、魔剣士ムネトラは黙ったまま、天を見上げる。


 その場に居る人達のあまりにもネガティブな反応に、ショックを受けている太傅カクケン。

 『太傅とは、皇太子殿下の教育役筆頭の筈。 彼から見たら、ライバルの第二皇子に対抗する為、極めて重要な動機だったのだろう』

 ムネトラは少し同情する。

 そして、

 「大魔術師殿。 私やそこに居る勇者にとっては、こちらの世界でも特別な力のお蔭で厚遇されるので、その理由であっても怒り心頭ってことにはならないでしょうが、それ以外の人の怒りは買うでしょうね」

 その言葉に肩を竦める太傅殿であった。

 

 

 結局消化不良のまま、居室に戻ったアーシアとムネトラ、サラ。

 「やっぱり、大した理由じゃなかったね」

 「専制主義の国なんて、そんなものだよ」

 ムネトラは勇者の嘆息に返事をしながら、大事なあることを思い出した。

 「おい、勇者。 なんでさっき、カクケンに剣を突き付け無かったんだよ。 危うく反撃されるところだったぞ」

 約束を破ったことを咎めると、

 「かよわい乙女をイジメないで〜。 だって、怖かったんだもん」

 「嘘つけ。 カクケンの実力がわからないから、俺を使って様子見しただけだろうが」

 「ちぇっ。 バレたか〜。 もし反撃されたら、その時に対処する為、ちょっと思い留まったの」

 「それも絶対嘘だ。 俺が殺られたら、全責任を押し付ける予定だった癖に」

 「そこまでわかっているのなら、誤摩化しても仕方ないね~」

 正直に答えた勇者アーシア。

 その笑顔だけは屈託がない。

 『ずっと、こんな状況が続くのか〜。 本当に悪知恵が回る。 そのうち勇者の盾にさせられて死んじゃいそうだ......』

 アーシアの顔を見ながら、そんなことを考えていた魔剣士ムネトラ。

 「今、私の顔見ながら、ヤラシイこと考えていたでしょ?」

 「考えてません」

 「いや、絶対考えていた」

 「全く無いです」

 「嘘つきだなあ~」

 「その言葉、勇者にそっくり返すよ」

 相変わらず、不毛なやり取りの2人。

 まだ知り合って2日目なのに、昔からの知り合いのようだ。

 『アーシア様とムネトラ様は、元の世界で激しいバッシングに遭っていた2人。 だから、案外気が合うのかな』

 特別な2人の姿を見ながら、サラはそんなことを考えていたのだった......


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