岩に刺さった聖剣を抜くためにゴリラをテイムしてきた勇者
私は聖剣を守るエルフ。ここの岩に刺さっている聖剣を引き抜く事が出来る、真の勇者が現れるのを待ち続ける者だ。
そして今、私は勇者がここに近づいて来ている気配を感じている。果たして、彼は聖剣を抜き真の勇者であると証明出来るだろうか。
「見つけたんだよ!ゴリマッチョ!あの聖剣を抜いたら私は勇者さんだよ!」
「ウホウホ」
来た。ゴリラを連れた少女がこちらに向かって来る。
…なんでゴリラ?
「アタシは西の国からやって来た、魔法少女ニシノちゃんだよ!そして、こちらはアタシがテイムしたゴリラのゴリマッチョ!」
「ウホウホ」
「あ、はい。ゴリラは仲間なんだ。ニシノさんは勇者なんだよね?」
「ノーノー。アタシは聖剣を抜いて初めて勇者になる。だよ?」
ふむ、言動は軽いがこの勇者はきちんと基本的な事は理解してる感じだな。悪い子じゃなさそうだし、聖剣に挑ませて問題無いだろう。
「よろしい。では…」
「さあいっけー!ゴリマッチョ!聖剣を抜いちゃうんだよ!」
「待って」
私はゴリラに命令を出すニシノさんを止める。
「西の国が勇者認定したのは君だよね?」
「勇者(仮)のニシノちゃんだよ!」
「じゃあゴリラに抜かすのは駄目かな」
「うえー?だってルールに書いてないんだよ!」
ああ、これは私の落ち度か。代理人に聖剣を抜かせようというのを禁止だと伝えなかったのは確かに問題だったかも。
「分かった。聖剣を抜く儀式に挑むのは勇者認定を受けた者のみとルール追加しておく。だから、今日は帰って」
「はーい」
翌日、ニシノさんは再びゴリラを連れてやって来た。
「ニシノさん、ゴリラ禁止って言ったでしょ?」
「ゴリマッチョはアタシのボデーガードとして連れてきたんだよ!聖剣にはアタシが挑むから!」
「ならいいよ。どうぞ」
私が許可を出すと、ニシノさんは聖剣には手を触れず、ひたすら手を叩きながら私の知らない魔術を連発していた。
「ゴリチェンジ!ゴリチェンジ!ゴリチェンジ!ゴリチェンジ!ゴリチェンジ!」
「ニシノさん、何してるの?」
「手を叩くとゴリラと他の物の位置を入れ替える魔術、ゴリチェンジだよ!聖剣には効果が無いみたいだけど」
「帰って」
私は聖剣に魔術を使ってワープさせる行為の禁止をルールに追加した。その翌日、ニシノさんは一人で来た。
「今日は一人なんだ」
「ゴリマッチョで試せる事はもう無いんだよ!今回はアタシの単独魔術なんだよ!ティンクルティンクル、マジカルダイナマイトー!」
「アンチマジック!」
私は対抗呪文を唱え、ここら一帯を消し飛ばそうとしたニシノさんの大魔術を相殺した。
「帰れ」
「えー、でもルールには」
「ああそうだね!ルールには聖剣を封じた土地への攻撃は禁じて無かったね!そこ変えておくから帰って!」
初めてだよ。ここまで私をおちょくってくるアホは初めてだよ。私はルールを追加して寝た。そして、8時間後ニシノさんにほっぺたツンツンされて目覚めた。
「岩あっためてー、聖剣冷やしてー、熱膨張利用してー」
「駄目」
「ルール」
「足しとく。帰れクソガキ」
聖剣へのあらゆる魔法禁止をルール追加。寝る。ニシノ。爆弾とツルハシ。
「今日はこれで岩を重点的に攻めるんだよ」
「お願い帰って」
聖剣を支える岩等へのアイテムを使った破壊行為禁止を追加。寝る。服を脱いでるニシノを見て飛び起きる。
「お前何やってるの!」
「アタシのお尻に聖剣を入れようとしたら、聖剣が嫌がって穴から飛び出すかも知れないんだよ」
「それだけはアカン!色んな意味で!」
私は露骨なシモネタとパロネタの禁止をルールに追加し、流石にふざけすぎなニシノさんに次から正規の手段以外で聖剣に挑んだら出禁だと警告した。
「そんなに言うなら、もう正規のやり方でやるんだよ」
「最初からそうして。そして、偽物の勇者として国に帰って」
「何でアタシが偽物と決めつけるんだよ?」
「だって、自分が勇者だと自信が無いから本来の抜き方を避けていたんでしょ?」
「それは違うんだよ!」
私の名推理をニシノさんは顔を真っ赤にして否定した。
「アタシは勇者である以前に天才魔術師なんだよ!男の子を女の子にする魔術や首を切られても死ななくなる魔術とかを研究してる凄い魔術師なんだよ!」
「それは凄い。で、それが今回の件と何の関係が?」
「そんなアタシが聖剣に触れるチャンスを得たら色々検証するに決まってるんだよ!勇者の力を使わず抜く方法があれば、魔王退治が遥かに楽になり人々も助かるんだよ!本当はこんな剣いつだって抜けたんだよ!」
スポーン
「ほら!」
「あんなムーブしておいて、本物の勇者だった!疑ってすみませんでした!」
「こちらこそ、長々と居座りご迷惑を掛けたんだよ。これ、お詫びなんだよ」
ニシノさんはテリヤキバーガーの入った袋を渡してきた。
「何でテリヤキバーガー?」
「昨日この里に行く途中、オープンしたばかりのバーガー屋を見つけたんだよ!聖剣を抜く裏の手段は見つからず仕舞いだったけど、抜いたからには魔王を倒してくるんだよ!」
そう言うとニシノさんはさっさと出て行ってしまった。
「勇者でない人間が聖剣を手にする手段か…考えた事無かったな」
初めてだよ。聖剣についてこんな事を考えさせられたのは初めてだよ。私も、守護者として色々考えないといけないかも知れない。
取り敢えず、ニシノさんとのアレコレで追加したルールを、里の者達を使って人間の国に通達しよう。
「ふっつ!」
テリヤキバーガーは旨くも無ければ不味くも無かった。