第九部 第六章
「昔、叔父の車で地方の高速に乗った事があったんだ。二車線の場所で、百キロくらいの速度で走ってたら、来るはずが無いのに前から時速百五十キロ近く出ている車が走ってきて、すれすれで通り過ぎて行ったんだ。双方の速度があるから新幹線が横を通っていくみたいでさ。運転席を見たら、かなりの爺さんが目を開けたままの凄い顔でハンドルにしがみついて運転してて……。どうやって反対車線に乗ったのか分かんないけど、ああ、ボケてるなって……」
動揺していた陸が一息つくと、淡々と話し始める。
「いや、そんな話いらねぇからっ! だからなんなのよ! 」
天音がそれにキレて突っ込んで来た。
「使役と言うか命令した事と全然違う事するんだよ」
そう陸が答えると、背後でさらに閃光が走りキノコ雲のような爆発が起こった。
グルグル旋回しながら大陸ドラゴンは全く無意味な攻撃を繰り返していた。
それによって眼下の森は燃えて、酷いことになってきていた。
「いや、だから、止めないとっ! 」
「だから、止まらないんだよっ! 」
「何が起こっているんだ? 」
チヨロ熊さんが旋回の最中に様子を見に来た。
こんな時に魔獣は爪を伸ばして地面に食い込ませれるから歩けるのだ。
勿論、陸達も半分魔獣なのでなので、それをやっている。
人間なら、すでに振り落とされてるような旋回である。
チョロ熊さんも足の爪を伸ばしてざっくりと地面に突き刺して近寄ってきた。
「いや、<魔獣を使役するもの>のクラスになったんで、それで大陸ドラゴンさんにお願いを……だけどボケてらっしゃって……」
「そんな、クラスあったっけ? 」
「いや、まあ、いろいろとありまして……」
陸がとりあえずで誤魔化した。
「ふむ、ボケてるのは有名だから、それなら『お爺! かっこいい飛び方見せてよっ! 』って頼んでみろ。昔、そう言われて今のコースを飛ぶようになったらしいから、元のコースと飛び方に戻るかもしれん」
チョロ熊さんが緊急事態なので、まずはと言う事で陸の変化でおかしなことは追求せずに助言してくれた。
「わ、分かりましたっ! ではっ! 」
陸が再度<使役>を始めた。
手を伸ばして幾度も無詠唱の<使役>を重ねる。
それらが幾重にも大陸ドラゴンに届いたらしく。
大陸ドラゴンの顔がぱぁっと輝いたようになって、また元のルートを飛び始めた。
勿論、口からの爆炎発射もやめた。
「おおおおおおお、止まった……」
陸がほっとした顔をした。
皆も顔を見合わせて胸を撫で下ろした。




