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第九部 第二章

 その炎の中で、かって陸が見たらしい情景が目の前に幻影のように見える。


『どうやら、百年ぶりの男の<原種>の候補の覚醒は無理だったようじゃな。仕方あるまい。ニ千年以上無理だったのじゃ。そう簡単にはいかんわな……』


 重々しい声で曾祖母がまだ中学生くらいの陸が正座する前で諦めたように呟いた。


 着物を着た威厳のあるお婆さんで、その声で他に並ぶ着物を着た祖父とか大叔父や大叔母や大伯父が真ん中に陸を置いて左右に並んで座っていて、皆が悲しい顔をした。


『仕方あるまい。何時もの通り、女性の候補を鍛えて宗主とする。曾孫の宗主候補に関わる陸の記憶は消せ』


「え? 」


 陸が燃えている大陸ドラゴンの背中で、その幻影のような情景を見て動揺する。


 そうだ、陸は数千年続くとか自称するシャーマンの一族の宗主候補だったのだ。


 それは脈々と受け継がれた神代家の宿命。


 偉大なる天より降臨したと言う<原種>と呼ばれる先祖返りを血筋から選び、シャーマンとして鍛え、かってのように全ての人間を導く存在として君臨するのだ。


 せっかく百年に一度現れるかと言う<原種>として認められた陸は、その後の覚醒の為の修行で失格とみなされ外されてしまった。


 口伝では女王蜂の如く全てのものの上に君臨する女性のシャーマンを幾重にも従えられる男の奇跡のシャーマンが現れるはずであり、それは神代家3000年の悲願だった。


 まあ3000年とか自称だろうけど。


 だが、それでも異様なものは候補として鍛えられている間には触れれた。


 まるで異星か異界から持ち込んだような不思議な機械や異様な物の怪のようなキメラの存在。


 それらは神代家の悲願を果たすべく、神代家のお歴々の集まる会合と修行の時のみに見せられる。


 結局、男のシャーマンによる悲願は果たせず、陸は失敗作として記憶を消された。


 次代の女性のシャーマンに仕えるためには候補であった記憶は邪魔である。


 少なくとも神代家ではそうする。


 過去の候補であった記憶が次の宗主に対しての忠誠心を違えさせてはいけないと言う配慮だ。


 陸が東大の教授の後継者として養子縁組するのは、その時代の女性のシャーマンを補佐して助ける為に、世論をコントロールするための部品として動くためであった。


 それは後に神代家のお役目として記憶を消されたままの陸に知らされるはずだった。


 勿論、過去に候補であったことなどの記憶は取り戻せない。


 だから、今の記憶は思い出すはずの無いものだった。


 情景に見える燃え盛る炎は、拝火教のような……いや修験者のする巨大な柴燈護摩に近いのだろうか。


 柴燈護摩とは修験者のする巨大な藁や護摩木を積み重ねて燃やす事でする屋外での護摩である。


 今の燃え盛る大陸ドラゴンの背中で陸が全ての記憶を取り戻し出した。


 そして、起こるはずの無い覚醒も……。

 

 


 

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