第七部 第十章
「とにかくです。魔獣の中の魔獣である大陸ドラゴンを倒せば、魔獣どもはこちらの強さに恐れおののくはずなのです。いろいろとキャサリン姫にもお聞きしましたが、何でも大陸ドラゴンの背中で料理を作って魔獣どもを饗応しているとか。それも八大魔獣の連中をですぞ。このままだと各個撃破で八大魔獣を潰していく計画が駄目になってしまいますぞっ! 」
などと、ヘンリー騎士団長が自分の無理矢理な献策で始めた八大魔獣の各個撃破をすでに皆が承知している風に叫んだ。
「いやいや、正直、俺も敵になってるオーガに集中して、今の段階で手を拡げるのはどうかと思うんだけどな」
たまりかねて、英明が声を掛けた。
「なんでよっ! 」
「だって、オーガで四苦八苦して対応してるのに、この状態で敵を増やすの? 他の人族の国は味方しないって言ってるし。人族を全てが力を合わせて戦うならまだしも、大国とはいえジェイド王国単体で戦ってんだよ? 」
キレた凜に英明がちょっとキレ気味で言い返す。
「いやいや、重騎士たる英明殿にそのように言われるのは困りますな」
クレバリー公爵が苦言を呈した。
「いや、現実問題。上手い事に爆炎攻撃が効けば良いけど、聞かなかった場合、あの馬鹿でかいオーガの大剣の集中攻撃受けるのは俺だし。とんでもない威力だぞ、あれ」
英明が自分の状況を説明して言い返す。
「つまり、一撃で当てればいいのよね」
凜がにやりと笑った。
「いや、二回に一回は外すじゃん」
「大陸ドラゴンはあれだけ図体がでかいんだから当たるわよ」
「私も同行しますから任せてください」
「いらないわよ。失敗した奴なんて縁起でも悪い」
「いやいや、私だってやられっぱなしではいられないし」
「だから、安易に敵を増やさないでくれって! タンク役やってる俺にしたら地獄になるんだよっ! 」
凜とヘンリー騎士団長と英明が罵り合う。
それを困ったようにエゼルレッド王達が見ていた。
「たしかに、今、戦線を拡大するのは大きな間違いだ。だが、私がしておいて何なのだが、あの猫の寄生魔獣に転移させたのは最大の過ちだった。勇者殿と賢者殿が懸念している通り、あれは怪物なのかもしれない。この世界を大きく変えかねない要素を持っている。それを考えれば……」
女神エルティーナが初めて苦悶の言葉を絞り出した。
自らの対応が将来的にそんなに大きな問題になるかの聖があるとは思わなかった。
「まあ、任せてくれたら良いわ」
そう凜が笑った。
「いや、だから駄目だからっ! 」
英明が必死に止めた。
「私もついていきますからな」
誰も相手にしていないヘンリー騎士団長が断言した。
こうして、混乱は続いていた。




