第七部 第八章
凜と茜の罵り合いがその後再度始まって、結果として、一旦はお開きになった。
女神エルティーナもエゼルレッド王達も凛達と大悟達が退出してから、深刻な顔で陸達の対応を評議していた。
「思い切って、猫の寄生魔獣から本人達を戻してはいかがでしょうか」
クレバリー公爵がそう女神エルティーナに提案する。
「すでに恩恵を私と獣魔神ライが二度掛けしている。それは非常に難しい。さらにそれを強行すると最悪の場合、魔獣側に完全に取り込まれるかもしれない。現状ではこちらに対してはっきりと敵対していないのにそれをしてしまうのはあまり良い策とはいえんしな」
「なるほど」
「逆に、彼らを利用してみてはいかがでしょうか。彼らに本気の交渉をさせるのです。こちらの条件を連絡してさせてみてはいかがでしょうか」
実はあまり目立たなかったが、凜たちが戻って来た時に揉め事になってはいけないと思い、隅で控えていたハロルド騎士団長が提案した。
「何を馬鹿な事を魔獣は不倶戴天の敵だと常々言っているだろうが……」
「し、しかし、それならば何故、彼らをあそこに送ったのですか? 」
「それは……」
女神エルティーナが苦悶の表情を見せた。
「こうなってしまったのは誤算だったが、どの道、魔獣達と我々は敵同士なのだ。彼らは人族の文化を魔獣に教えつつある。これは人族と魔獣の生存圏が重なってくるという事になる。どの道、戦う事は避けられない」
エゼルレッド王がそう女神エルティーナを庇った。
「私は安易に敵を増やして戦線を拡大するべきで無いと言う賢者の慎也殿とかの考えを正しいと思います」
「貴様は正気か? 」
クレバリー公爵が吐き捨てた。
「オーガが集結していると言う情報が入ってます。20体30体の個体があちこちでこちらに向かっていると……。わが国だけでは、これに対抗するのは危険すぎます。この上、魔獣達が協力しだしては……」
今回はハロルド騎士団長も引かなかった。
それだけ危機的状況が迫っているという事だからだ。
「なら、あのドラゴンの背の上にいる男を始末すれば良いのではないの? 」
そう誰かが勝手に謁見の間に入ってきて発言した。
皆が振り返るとそこに凛がいた。
「ちょっと! 凛っ! 」
重騎士の英明が慌てて止める。
「私の火炎魔法なら遠距離から、大陸ドラゴンの背中を焼き払えるわよ」
そう凜がにっと笑う。
女神エルティーナもエゼルレッド王もその提案に息を飲んだ。
危険性の排除と考えれば、それは間違っていないのかもしれないと、彼らはそれを聞いていた。




